多くの人々が新しい世界へと歩き出すこの季節。
俺は今、3年間思い続けたあのこと桜の木の下で向かい合っている。
俺が彼女と出会ったのは高校の入学式の日。
式が終わって、みんなが帰りだす頃、俺は何となく教室に残り窓の外を眺めていた。
その時、突然ドアが開かれ、反射的に目をやるとそこに彼女がいた。
少し驚いた顔をしたけれど、すぐに照れくさそうな笑顔で
「なんだ、誰もいないと思ったのに。」
と言った。
その瞬間、目の前を強烈な風が吹いた気がした。
そして彼女に恋をした。
その日以来、特に関わることもなかったけれど、神の気まぐれか3年間同じクラスだったため、こっそりと彼女を見つめ続けることが出来た。
そして今日、卒業式の後、今世紀最大の勇気をだして彼女を呼び出した。
先程から続く沈黙を破るように「俺っ!」と声を出した。
覚悟を決めて彼女の目を見る。
「俺、入学式の後、君が教室に入ってきた時から、ずっと好きでした!」
彼女の目が見開かれるのが分かる。
「よければ俺と付き合ってください。」
在り来りでベタな告白。
だけど、俺の中ではそれが精一杯だった。
付き合えるかどうかよりも、この気持ちが真っ直ぐに伝わって欲しいという気持ちでいっぱいだった。
二人の間に流れる静寂をいくつもの桜の花びらが過ぎ去っていく。
少しして彼女が口を開いた。
「入学式の日、窓の外を見つめるあなたを見て、なんだか凄く気になったの。それから目で追うようになって、気がついたら好きにーーー
♡♡♡
そこまでして私は手を止めた。
椅子の背もたれに寄りかかり、天井を見つめる。
きっとこの2人はハッピーエンドで終わるのだろう。
入学式の日以来関わっていないのに両思いだなんて、そんな都合のいいことが有り得るのは物語の世界だからなのだろう。
現実世界にこんなことは無いとわかっていながらも、こんなストーリーに何人もの人が憧れる。
いつか自分もこんな恋がしたい、と。
私にもそんなことが起こるだろうか。
もしも、仮に起こったとしたら私はどうするのだろうか。
ぼーっと考えていると、電話がかかってきた。
スマホを手に取り電話に出る。
「先生、小説の締切あと1週間ですよ。大丈夫なんですか?」
少し焦り気味に言うその声は、私のアシスタントのものだった。
「大丈夫ですよ、今書いてますから。終わったら連絡しますね。」
そう言って電話を切る。
フーっと息を吐き、再び書き始める。
この2人の恋の結末を。
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