第3話『言えない不安』(omrside)
「ねぇ、元貴って何歳だっけ?」
唐突だった。
涼ちゃんが俺を見ながら、そう訊いてきたのは、
ある夜、3人でご飯を食べていた時。
「……え?なに、急に」
「いや、なんとなく。ちょっと思い出せなくて」
笑ってるけど、その目は、どこか曇ってた。
俺は笑い返せなかった。
ここ最近の、涼ちゃんの“抜け”は、ちょっと変だった。
お酒の名前を何度も訊き返したり、
同じ話を1日に3回してきたり。
最初は「天然かよ」って笑ってたけど、
正直もう……笑えなかった。
怖かった。
だって涼ちゃんは、俺が憧れてた、いつも頼れる最年長で、
ミセスの“中心”だった人なのに。
そんな人が、
今、目の前で自分の年齢もわからなくなってる。
若井も、もう気づいてると思う。
けど俺たちは、誰もまだ口に出せていない。
この“違和感”を、言葉にした瞬間、
何かが崩れてしまいそうで。
……なのに、言いたくてたまらない自分がいる。
「病院、行こうよ」って。
「ちゃんと診てもらおう」って。
でも――言えなかった。
なぜだろう。
涼ちゃんの、あの穏やかな笑顔を壊すのが怖かったのかもしれない。
「涼ちゃん、ほんと最近ぼけっとしてんね」
若井が冗談っぽく言うと、
涼ちゃんはまた、「だめだな、ぼく」って、笑った。
その笑顔が、いつもよりずっと細く見えたのは、
気のせいだったのかな。
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