第4話『診察室の静寂』(fjswside)
「これは、若年性アルツハイマー型認知症の可能性があります」
医者の口からその言葉が出た瞬間、
ぼくの耳は、何も聞こえなくなった。
……アルツハイマー?
そんなの、もっと歳をとった人の病気じゃないの?
ぼく、まだ30代だよ?
頭の中が真っ白になった。
考えようとしても、言葉が出てこなかった。
隣にいた若井が、医者に何か質問してた。
でもぼくには、その声すら遠く感じた。
「進行には個人差があります。ただ……今後、徐々に日常生活にも影響が……」
ぼくは、うなずいたふりをしてたけど、
頭の中ではずっと「いやだ」「ちがう」「ぼくじゃない」って言葉が回ってた。
――あのふたりに、どうやって言えばいい?
元貴と若井に。
この病気のこと。
ぼくが、これから「忘れていく人間」になるってこと。
冗談みたいだ。
天然だね、って笑われてたことが、
こんな病気のサインだったなんて。
こわい。
全部、こわいよ。
だけど……
元貴も若井も、最近ずっとぼくのこと、気にしてくれてた。
視線の端で、心配してるのがわかってた。
気づいてたんだ。ふたりとも。
――だから、言おう。
ぼくは、逃げない。
ちゃんと、話す。
忘れてしまう前に。
ふたりのこと、大好きな気持ちだけは、
絶対に忘れたくない。
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