テラーノベル
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元の世界にはもう帰ることができない。
私の存在が消えているから……――
「そっ、そんなことないですよね?
コウヤさんなら元の世界に帰る方法も知っているんじゃないですか」
震えた声で聞くと、コウヤさんは眉を下げて首を横に振った。
「元の世界に戻るためには魂の器が必要です。
残念ですけど、かけらさんには……、もう……ないんですよ」
「じゃあ、シエルさんは何か知っていますか?
私をここに導いたんですからヒントくらい知ってますよね」
手に力が入らなくなって冷たい汗が出てくる中、シエルさんの方を向いた。
「さっき、コウヤ王子が話しただろ。
最花の姫候補がどうなったか。
……前にいた世界に帰ることができた人はいないということだ」
「そんな……」
一気に体の力が抜けてガクッと膝から崩れ落ちる。
浮かんできた涙を隠すために小刻みに震えた手で顔を覆う。
「ううっ……。私は……」
何度眠って、夢から覚めても元の世界に帰れなかった。
その理由は、もとの世界にいた私の命が終わり、この世界で生まれたから。
恐らく、仕事中に階段から落ちてしまったことがきっかけだろう。
あのあと、助からなかったんだ……。
最初は、嫌な場所から離れることができて嬉しかった。
知らない世界で、知らない人たちと出会って、ありのままの自分で生きようと思えたから。
それなのに、じわじわと涙が溢れてきて零れ落ちる。
元の世界で生きていた頃、私は嫌な毎日を変える勇気がなかった。
本気になって変える努力をしたら、つらい思いをする日々から抜け出して、幸せになれたんだろうか……。
今になって後悔や悲しみが込み上げてくる。
「つらいですよね……。
そう簡単に受け入れられないと思います」
コウヤさんが私の傍に来て、慰めるように背中をそっと撫でる。
「俺に話したいことは終わりか?」
「まだあります。
シエル王子がかけらさんにスペースダイヤを渡したそうですね。
最花の姫候補だと知っていたからですか?」
「他の世界から来たと聞いたからな」
「あなたの恋人もかけらさんと同じ、他の世界からきたんですよね」
「……そうだ」
「シエルさんがスペースダイヤを持っているということは、彼女から受け取ったはずです。
それなのになぜ、スノーアッシュは更なる発展をしなかったんですか?
他の王子と会っていなかったとか」
「他国の王子と関係があったのか分からない。
あいつは俺だけを見ていてくれたから」
「おや、意外と独占欲が強いタイプなんですね」
「うっ、うるさいな。
とにかく、正式に受け取ってなかったんだ。
それに、俺の恋人はスペースダイヤを渡したくないと言っていた……。
俺が持っていたのは、彼女が亡くなったあとに拾ったからだ」
「なるほど……。愛する者がいないと、スペースダイヤの力は引き出せませんからね……。
さて、話はここまでにしますか。
かけらさんに休んでもらったほうがいいですからね」
「…………」
「ベッドまで運びます。
少しの間、触れることをお許しください」
コウヤさんにお姫様抱っこをされたけど、ショックの方が大きくて緊張しなかった。
そして、だらんとした私の体をしっかりと支えてくれた。
子供の頃、親に抱っこしてもらった時を思い出す。
なぜかコウヤさんのぬくもりから、それに似た安心するものを感じる。……不思議なことばかりだ。
個室のベッドに寝かせられてからも動けなかった。
真実を知って、受け入れられなくて、他のことをなんて何も考えられない。
生きるために必要である食事、入浴など最低限のことはしていたけど……。
何をしても、元の世界に二度と戻れないことばかり考えていた。
それが心に針のように刺さっていて、自分では抜くことができないほど苦しかった。
涙が止まっても、また少し時間が経つと出てくる。
旅を始めた時のように、動くことができない……――
それから何もすることができず、時間だけが過ぎていった。
一人で泣いて、ベッドで横になっているだけの毎日。
コウヤさんは、私が動けるようになるまでここにいていいと言ってくれた。
立ち上がることができないから有り難いけど、お礼を考える余裕さえなかった。
レトとセツナ、コウヤさんは、朝と夜に会いに来てくれる。
そして、他愛のない話をしてくれた。
多分、気を使ってそっとしてくれているんだろう。
シエルさんは、たまに顔を見せるくらいで静かに見守ってくれていた。
涙を流してから、何日過ぎていっただろうか。
ルーンデゼルトでは、朝が来ないから分からない。
ベッドで横になっていると、コンコンッとドアを叩く音が聞こえた。
すぐにドアが開き、誰かが傍にやってくる。
「かけらさん、お久しぶりです」
たくさん泣いたせいで瞼が重くてよく見えない。
でも声を聞いて、誰なのか分かった。
「トオル……」
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