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少年のような顔をしているのは変わっていない。
しかし、久しぶりに見たトオルから王の風格を感じた。
「お元気でしたか?」
「うっ、うん……」
トオルは、肩に掛けていたバッグを下ろして、ベッドの近くに椅子を移動させてから座った。
そして、上目遣いで私を見てから困った顔で微笑む。
「無理しないでください。
目が腫れていますし、元気がないって顔に描いてありますよ」
「まさか、私が寝ている間に落書きした……!?」
起きてから鏡を見ていないから、自分の顔がどうなっているか分からない。
とりあえず、恥ずかしいから両手で顔を隠した。
すると、トオルはくすっと小さく笑う。
「実際に描いてないですよ。
表情を見れば分かるって意味です。
……かけらさんの顔はいつでも美しいですよ」
落書きされていないという言葉を信じて両手を下ろす。
「トオルには隠せないね……」
「一緒に過ごしていた時、かけらさんのことをよく見ていましたから。
絵のことだけ考えていたわけではないです」
「どうしてここが分かったの?」
「四つの国の王子で今後の方針を話し合うため、ルーンデゼルトに来たんですよ。
城に着いたら、かけらさんが部屋で寝込んでいると聞きまして。
気になって、コウヤ王子に挨拶する前に来ちゃいました」
一緒に過ごした時と変わらないトオルの明るさ。
まるで太陽みたいだ。
つらい気持ちに支配される中、心を軽くしてくれているような気がした。
「この国は雪がなくていいですね。
ずっと夜なのが寂しいですが……。
でも、他国に訪れるのは、初めてなので楽しくて。
この感動を絵を描く時に活かしたいです」
「あれから絵を描くことを続けているんだね」
「はい。筆を持ち続けられるようになったのは、かけらさんのおかげです。
そうそう、これを見てください」
トオルは持ってきたバッグからノートパソコンくらいの大きさの額縁を取り出した。
何の絵を見せてくれるんだろう。
「じゃーん! よく描けていると思いませんか?」
「この女性って……」
「かけらさんの絵を描いていたんですよ。
スノーアッシュで一緒に過ごしてくれたお礼をしたくて。
ボクからのプレゼントです」
「ありがとう……」
絵を受け取ってから見てみると、パステルピンクのドレスを着た私が描かれていた。
花びらが舞う場所で幸せそうに笑っている。
今の私は泣いてばかりだから真逆だ。
でもトオルと一緒に過ごしていた時、こんな風に笑うことができていたんだろうか。
真実を受け止められなくて落ち込んでいる自分が情けなく思えてくる。
「かけらさん……。
自分の絵を描かれるのが、そんなに嫌でしたか……?」
トオルが優しく声を掛けてくれるのに、また涙が出てきてしまう。
「ううん……。私の絵を描いてもらえて嬉しいよ……。
だから、トオルは何も悪くない。
でも、今は真実を知って、全てが怖くなっていて……」
「最花の姫の候補だから、ですよね」
やはり、トオルも知っていたんだ。
「元の世界の自分が亡くなったことが信じられなくて、受け入れられないの……」
「そう簡単に信じられませんよね。
元の世界に帰れなくなってしまったことも、この世界で生まれたことも……。
すぐに受け止めなくていいと思います」
「私が弱いだけだよ……」
トオルはくしゃくしゃになっている私の髪に優しく触れてきてから涙を拭ってくれた。
こんな姿を見せても、穏やかに微笑んで頭を撫でてくる。
「ボクも心の弱さに負けてしまいそうになることがありました。
兄のことで民から責められて、王子をやめたくなったとか、ですね。
でも王子でいることをやめなくてよかったと今は思っています。
おかげで、かけらさんに出会うことができましたから」
「ううっ……。トオル……」
「かけらさんは、この世界を背負うお姫様になるかもしれないんですよね。
大きな責任とともにスペースダイヤの力も手に入れる。
国を滅ぼすほどの恐ろしい力を持つと聞きますが、ボクはもっと明るいものだと思ってます」
「明るいもの……」
「ボクをあたたかく見守ってくれたかけらさんみたいなものです」
「…………」
「雪がたくさん降り続くこともありますが、どんなに寒くても、朝には暖かい太陽が昇ってくるんですよ。
だから、かけらさんが元気になる日も必ずやってきます」
涙が止まって、落ち着くまで、トオルは私の傍にいてくれた。
話を聞いてくれて、情けない私を受け入れてくれて、つらい気持ちが少し楽になった気がした。
――次の日。
「かけら、入るよ」
ベッドの上に座ってトオルの絵を見ていると、レトが部屋に入ってきた。
「今日はひとりで来たんだ」
レトはいつもセツナと一緒に私の様子を見に来ていた。だから、ふたりきりで話すのは久しぶりだ。
「体調は大丈夫かい?」
「少し元気になってきた気がする」
「よかった。隣に座ってもいいかな……?」
「えっ、ベッドに……? どうぞ」
返事をしたあと、なぜなのかレトの顔が赤くなる。
「やましいことを考えているわけじゃないんだ。
近くで話したかったからそう言っただけで……。
ああ……。こんなことを言ったせいで、かけらに節操がないように思われてしまう……」
「信じてるから大丈夫だよ」
レトは照れくさそうな顔をしながら距離を縮めてきて、私の隣に座った。
そして、指を組んで見つめてくる。
「トオル王子から聞いたよ。
かけらの絵を描いてプレゼントしたって」
「この絵のことだよね」
「おお! これは、すごい!
かけらの可愛さと美しさを表現するのが上手すぎる……。
僕は目で見たことを文字で表すことができても、絵が下手なんだ。
トオル王子が羨ましいよ。
こうやって、かけらを喜ばせることができるんだからね」
「そうだね。この絵をもらって嬉しかった。
宝物が増えたよ」
「セツナとトオル王子はプレゼント作戦か。強敵だ……」
「レト?」
「こっちの話だから気にしないで。
とにかく、かけらが元気になってきて嬉しいよ」
「うん……。あのさ……」
「なんだい?」
「レトは、私が最花の姫候補だって知っていたんだよね……?」