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#先生と生徒
「俺、やっぱり空のこと好き。一晩考えたけど、なんも変わらんかった」
昼休みの女子会に混ざり、スイーツ食べ放題の話題で盛り上がっていた真っ最中。無理やり屋上へ連れ出された俺は、目の前の男を冷めた目で見た。
「……もとちゃんの言葉は信用できひん」
ため息をつくと、彼は「なんで?!」と心底驚いたような顔をする。
今まで何人も彼女がいて、「キスの上手な元宮くん」なんて浮名を流してきた奴の言葉や。普通、そうなるやろ。
「……空は、俺のこと好きちゃうん? 俺の勘違いやった?」
「……俺は、今でもソフレになってくれたら嬉しいなぁ、程度やけど」
冷たく突き放しながら、心の中で自分を罵倒する。
好きすぎて一周回って、おかしな態度しかとれなくなってる。付き合ってすぐに捨てられるのが怖くて、一歩が踏み出せない。それなら初めから、期待なんてしない関係の方がマシなんじゃないかって。
「……空はなんで、そんなソフレにこだわるん? 好きな人と付き合いたいって思わんの?」
「……もとちゃん、人って裏切るねん。昨日好きって言ってたやつが、次の日には違うやつのこと好きって言い出す。……俺は、好きになったら絶対裏切らへん。その人のためなら死んだっていい。……やけど、いつも相手が裏切るねん。そんな上辺だけの関係なら、俺はいらん」
あーあ、やってしまった。
こんな重いこと言ったら、さすがのもとちゃんでも呆れて去っていく。本当は信じたいし、付き合いたい。 けれど、積み重なったトラウマがそれを阻む。「好き」だと伝えることがこんなに怖いだなんて。
「……それ、俺にも当てはまるな。いつも自分に必死すぎて、そんなこと考えたことなかった。……恋愛体質やったんか、俺」
今更のように気づいて、もとちゃんは本気でショックを受けている。そういう真っ直ぐなところは嫌いじゃないけれど、それが恋愛となると、また話は別や。
「……俺さ。傷ついて一人になるのが嫌やから、ソフレを二人作ることに決めてんねん。一人おらんなっても、もう一人が残ってたら、俺……死にたくならんで済むし」
「あかんよ! 死んだら!」
急に必死な顔をしたもとちゃんに、両肩を強く掴まれた。
……いや、今は大丈夫やねん。新先生が、死ぬほど重い愛で俺を繋ぎ止めてくれているから
「じゃあ、なる? 俺のソフレ。今なら一つ、枠が空いてるけど」
ふふ、とわざとらしく笑ってもとちゃんを見つめる。けれど、彼は苦しげに顔を歪めたまま、笑い返してはくれなかった。
「……やっぱ、昨日の靴の人、そうなん?」
絞り出すような声だった。
やっぱり、俺のこと軽蔑してるんやろか。
「そう。……俺のことめっちゃ好きなんやって。今、一番信じられる人」
もとちゃんを煽るようなことを言っておきながら、自分自身が悲しくなってきた。
でも、もとちゃんにはないやろ? どんな手を使ってでも俺を自分だけのものにしたいっていう、必死な覚悟なんて。
「空は、好きなん? その人のこと」
「……今はまだわからへん。やけど、一緒におって楽しいし、安心する。これからちゃんと好きになれたらなって思ってる」
もとちゃんとの関係も、これで終わりかな。もうすぐ受験やし、もとちゃんもこんなわけのわからん恋愛に時間を取られたくはないはずや。
もう、解放してあげなあかんな……。
「……俺、そいつに負けたくないから。空の『もう一人』になるわ」
「……え?」
「でも、ソフレって言葉は、ただの友達と変わらんくて嫌やねん。俺は空と前みたいに出かけたり、部屋で笑い合ったり、……キスしたり、色々したい」
耳を真っ赤にして俯くもとちゃん。
今、なんて言った? キスしたり、色々したい……?
「……じゃあ、セフレ候補にしてあげるわ。俺、高校卒業するまで誰ともそういうことはせえへんって決めてる。やから、大人になった時にするっていう、確約」
拳を天に突き上げたい衝動を必死に抑え、わざと冷めた声を絞り出す。
勝った。勝ったかもしれん。俺を狂おしいほどに求める男を、また一人手に入れた。
今の俺、人生の最高潮やん!!
俺はもとちゃんを壁際に追い詰め、その端正な顔を覗き込んだ。もっといじめたい。こんなに可愛い生き物を、今日からたっぷり可愛がる事ができるようになったんや!空くん、大勝利!
「……俺は、セフレじゃなくて……空のこと彼女にしたいねん……可愛いから!!!」
誰がやねん! どこをどう見ても、お前の方が何倍も可愛いやろうが!
恥ずかしそうに叫ぶもとちゃんを、力任せに抱きしめる。あー、可愛い。……あかん、抑えろ。
「……じゃあ、ええよ。彼女って呼んで」
「え、じゃあ、付き合……」
「わへん!」
一瞬で期待に満ちた顔が、泣きそうに歪む。多分俺わかったわ。焦らすだけ焦らしてやる方がもとちゃんは燃えるタイプやろ。
「……なぁ、ここ、死角やねん」
俺の腕の中でモゾモゾと動いていたもとちゃんが、こそっと耳元で囁いた。
「ん?」
「どこの建物からも、見えへんようになってる」
お前…天然が度を過ぎてるやろ!そんな誘うようなその言葉言われて、何もせん奴がおるか!?
「……何してほしいん?」
「……ちゅうも、大人になるまであかんの? んっ……」
こないだ寸止めされたお返しや。
可愛い、好き、ほんまは大好きやねん。そのすべてを、今この瞬間にぶつけたい。
「……どう? 男同士でも、大丈夫やった?」
わずかに触れていた唇を離し、震える声で尋ねる。
余裕があるフリをしていても、本当は拒絶されるのが怖くて仕方がなかった。
「……うん。やっぱり、空が好きやった」
もとちゃんが浮かべた、混じりけのない笑顔。
屋上の青い空の下、その言葉はゆっくりと、俺の身体の奥深くまで染み渡っていった。