テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
千導 渉
7
千導 渉
242
如縣 遼太
435
──♪ 明日は〜絶対〜ハッピーウェディング〜〜 君を幸せにするよ(誓うよ!)♪──
泰輝の爆音ウェディングソングが響き渡り、秀都が新たなコーラ兵器を構え、蹴介がそれを必死にヘッドロックで止め、零がスピの耳を優しく塞ぎながら「お前の首を物理的にアンロックする」と冷酷な顔で裕人を脅している最悪のカオス空間。そこへ、作戦室の重厚な大扉が、冷徹な魔力と共にガチャンッ!!!と勢いよく開け放たれた。
「おい、作戦の進捗は……」
部屋に入ってきたのは、魔王軍最高幹部・藍谷侑(あいたにゆう)だった。その端正な顔立ちは、作戦室から漏れ出る電波ソングとコーラの異臭のせいで、見たこともないほど不機嫌に歪んでいる。しかし、さらに部屋の全員の目を引いたのは、その侑の腕の中だった。最高幹部であるはずの侑は、洗脳されて瞳を紫色に染めた綿部翅(わたべつばさ)を、まるで壊れ物でも扱うかのように、お姫様抱っこで大事そうに腕に抱きかかえていたのだ。
「……ん。侑、やっぱりここ、すごくうるさい。普通に、耳が痛いかも」
翅は侑の胸に可愛い顔をうずめ、いつもの至って普通のトーンで淡々と不満を漏らしている。
「すまない、翅。すぐにこの羽虫どもを静かにさせるからな。……貴様ら、一体何をごっこ遊びをしているのだ」
侑が部屋の全員を凍りつかせるような冷酷な瞳で睨みつける。その手は、翅の細い腰をしっかりと抱き寄せ、これ以上ないほど甘く溺愛するオーラを全身から放っていた。その瞬間、作戦室の時が完全に止まった。爆音のウェディングソングだけが、虚しく空気を揺らしている。
((((え、何あれ……))))
洗脳組の裕人、泰輝、秀都、賢太の4人の脳が、あまりの衝撃にフリーズした。
(翅のやつ……前線で人間を効率よく惨殺するための過酷な秘密特訓を受けてるんじゃなかったの!? なんで最高幹部の侑様に、お姫様抱っこされてめちゃくちゃ甘やかされてるわけ!? え、魔王軍の幹部って、そういう福利厚生あるの!?)
完全に洗脳されているはずの4人だったが、あまりの温度差とBL展開に、脳内の洗脳回路がパチパチとショートしかけている。一方、お互いに「自分だけが正気だ」と思い込んでいる零と蹴介も、別のベクトルで大混乱に陥っていた。
(なっ……翅まで洗脳されただけでなく、あの冷酷な藍谷侑の愛玩人形にされているだと……!? なんというおぞましい魔王軍の洗脳術。だが、今ここで僕が動けば、腕の中のスピに危険が及ぶ……! 待つんだ、僕の知性よ、耐えろ……!)
長田零は、完璧な容姿のまま、スピをぎゅっと抱きしめて心の中で必死に精神防壁を張っていた。
(いや待て待て待て!!! 翅お前いつの間に幹部とデキてんだよ!!! つーか侑様もお姫様抱っこて!! ここ魔王城の作戦室だぞ!? 職場恋愛は他所でやれ!!! つーか泰輝はやくその結婚式の曲止めろ!!! タイミングが良すぎて翅たちの入場曲みたいになってんだよ!!!)
大河蹴介は、秀都をヘッドロックした体勢のまま、心の中でツッコミの限界を迎えて白目を剥きそうになっていた。
「おい、泰輝。まずその不浄な音を止めろ。それから秀都、その紫色の怪しい液体を片付けろ」
侑が冷徹に命じる。
「は、はい……! すぐに鎮魂歌(レクイエム)を停止します……!」
泰輝が慌てて音量を下げようとするが、指が滑って今度はさらに音量がアップし、サビの「愛してるよーーー!!」という絶唱が作戦室にこだました。
「くっ、我が最高幹部・藍谷侑の威厳の前に、これほどの不敬を働くとは……死を以て購え」
侑の周囲に、ガチの殺意を孕んだ氷の魔術が展開され始める。
「侑、怒ったらめんどくさい。普通に、スープ飲んで落ち着きなよ」
侑の腕の中で、翅が至って普通のトーンで宥める。すると侑は一瞬で「……ああ、翅がそう言うなら止めよう」と、蕩けるような甘い笑顔に戻った。コーラまみれの秀都、電波ソングを止められない泰輝、不気味にひび割れを数える裕人、美味しい暗黒スープを持つ賢太、スピを死守する零、ツッコミで破裂しそうな蹴介。
そして、それを冷酷に睨みつけながら翅を溺愛する侑。魔王城の作戦室は、もはや魔王様への忠誠うんぬん以前に、完全に修復不可能なレベルのカオスな地獄絵図と化していた。
コメント
3件
うわあ、第15話、めちゃくちゃカオスでしたね……! 最高幹部・藍谷侑が翅をお姫様抱っこで登場するという衝撃。あの「冷徹な魔王軍幹部」と「溺愛する甘い笑顔」のギャップが絶妙すぎて、思わず笑いました。ウェディングソングのタイミングが完璧すぎて入場曲にしか見えなかったのも含めて、もうこの部隊の作戦会議は修復不可能なレベルの地獄絵図ですね(笑)。伏線の張り方と100%裏切る展開のバランスが秀逸でした!