テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
今日雨で電車遅延しました
腹いせに書きました。
学パロ現パロなので中也が首領のこと森さんって呼んでます。
ご愛嬌
窓の外は朝から大雨だった。
ざあざあと屋根を叩く音で目が覚めた中也は、隣で規則正しい寝息を立てている太宰の頭をぼんやり眺めていた。昨夜のことを思い出すと、まだ腰の奥にじんわりとした重さが残っている。太宰の白い首筋にはいくつか薄赤い痕が散っていて、それを見ているだけで顔が熱くなった。
「……起きるか」
小さく呟いて身体を起こすと、隣でもぞもぞと太宰が動いた。
「んー……ちゅうや、おはよう……」
寝ぼけた声で言いながら、太宰は自分の前髪を指でつまんでじっと見つめている。
「見て、湿気で髪がくるくるだよ。せっかく昨日ストレートにしてもらったのに」
不満げに唇を尖らせる太宰に、中也は呆れたように笑った。
「お前、湿気関係なくいつもくるくるしてるだろ」
「ひどい」
そう言いつつも太宰はまんざらでもなさそうに笑って、中也の肩に額を押し付けてきた。柔らかい髪が首筋をくすぐって、中也はまた顔が熱くなるのを感じる。付き合ってどれだけ経っても、この距離感には慣れそうにない。
のろのろと起き出して、簡単な朝食の支度をした。トーストを二枚焼いて、片方に多めのバターを塗ったものを太宰の皿に置く。太宰の好みは把握済みだ。
「はい」
「ありがとう、ちゅうや」
椅子に腰を下ろす太宰の動きが、心なしかぎこちない。中也自身もダイニングの椅子に座った瞬間、腰の奥に鈍い痛みが走って小さく息を止めた。二人とも似たような理由でだるさを抱えているのだから、お互い様というやつだった。それでも顔には出さないようにして、黙々とトーストを齧る。
外の雨は弱まる気配がない。ガラス窓を叩く雨音がやけに大きく響いて、部屋の中の静けさをより際立たせていた。こういう朝は、なんだか世界に二人きりで取り残されたような気分になる。
「頭、痛い……」
中也がこめかみを軽く押さえながら呟くと、太宰がすぐに顔を覗き込んできた。
「低気圧? ちゅうやそういうの弱いもんね」
「うるせえ」
素っ気なく返しながらも、太宰の指先が優しくこめかみをさすってくれるのを拒みはしなかった。ひんやりとした指が心地よくて、少しだけ目を閉じる。
「そういえば」
太宰が思い出したように、枕元から持ってきていたスマホを操作し始めた。中也の見慣れない機種だ。
「それ、森さんの?」
「うん、借りてきちゃった。ちょっと連絡先の確認したくて」
悪びれもせずそう言ってから、太宰は画面を眺めて「あ」と声を上げた。
「今日、休校だって。この大雨で交通機関がだいぶ乱れてるみたい」
「マジか」
「マジだよ。ほら」
差し出された画面には確かに休校の連絡が表示されている。それを確認した太宰は、いたずらっぽい笑みを浮かべて中也の方に身を乗り出した。
「じゃあ、わたしがさっさと帰らないといけない理由はないね?」
そう言いながら、キッチンの引き出しから当たり前のように頭痛薬のシートを取り出して差し出してくる。中也はそれを黙って受け取った。太宰がなぜここに頭痛薬があると知っているのか、深くは考えないことにする。考えたら、この関係の距離の近さを改めて突きつけられるようで、なんだか照れくさかったからだ。
本当は、太宰にもう少しここにいてほしいと思っていた。雨で外に出るのも億劫だし、何より一人になるのが少し寂しい。けれどそれを素直に言葉にするのは中也にとってまだ難しくて、代わりに「まあ、休みなら仕方ねえな」とだけ返す。内心はちょっとした喜びでいっぱいなのに、顔には出さないよう努めた努力が、果たしてどこまで成功しているのかは自分でもわからない。
朝食を終えると、太宰はベッドに戻ってごろごろと転がり始めた。シーツに包まりながら、こちらを流し目で見てくる。
「ねえ、続きしない?」
甘い声でそう誘われて、中也の心臓が跳ねる。昨夜の記憶がまざまざと蘇って、頬が一気に赤くなった。
「……ダメだ」
「なんで?」
「潤滑剤、切らした」
正直に答えると、太宰は一瞬きょとんとした顔をしてから、盛大に噴き出した。
「そういうところ律儀だよね、ちゅうやって」
「うるせえ、大事なことだろうが」
むきになって言い返すと、太宰は笑いながら腕を伸ばして中也の手を引いた。抵抗する間もなくベッドに引き込まれ、そのまま抱きしめられる形になる。雨音を聞きながら、二人でしばらくそうやって寄り添っていた。何をするでもなく、ただ互いの体温を感じているだけの時間が、不思議と満ち足りていた。
昼が近づくと、太宰のお腹がくう、と小さく鳴った。慌てたように身体を起こす太宰を見て、中也は思わず笑ってしまう。
「腹減ったのか」
「……うん」
素直に頷く太宰が可愛くて、また笑いそうになるのをこらえた。
「出前とる?」
太宰はそう言うが早いか、どこからともなく一枚のカードを取り出した。金色に光るそれには見覚えがある。
「それ、また森さんの?」
「うん!」
満面の笑みでカードを掲げる太宰に、中也は思わずため息をついた。相変わらずこの女の金銭感覚はどこかずれている。それでも憎めないのがまた腹立たしいところだ。
「……この大雨の中、届けに来る人がかわいそうだから、やめとけ」
「あ、確かに」
意外にもあっさり納得した太宰は、カードをしまいながらぺろりと舌を出した。それから代わりに冷蔵庫にあるもので簡単に何か作ろうという話になり、二人でキッチンに立つことになった。
紅葉姐さんは今日から数日出張でいないらしい。つまりこの家には、しばらく二人きりだ。そのことを意識すると、また少し落ち着かない気分になる。
「今日は帰らなくていいんだよね?」
包丁を握りながら、太宰がさりげなく聞いてくる。
「……ああ」
「じゃあ、ずっとこうしていられるね」
嬉しそうに笑う太宰の横顔を見て、中也もつられて頬を緩めた。窓の外では相変わらず雨が降り続いている。けれどこの部屋の中だけは、二人きりの穏やかな時間が静かに流れていた。何をするわけでもない、ただの休日の一日。それでも、隣に太宰がいるというだけで、この時間はとても特別なものに思えた。
昼食の支度をしながら、時折触れる指先や、ふと目が合う瞬間に交わす笑み。言葉にしなくても伝わるものが、この関係にはたくさんある。頭痛はいつの間にか薬が効いてきたのか、随分と楽になっていた。それとも、単に太宰がそばにいることで、気分が上向いているだけなのかもしれない。
雨脚は夕方まで弱まりそうにない。けれど、二人にとってそれは少しも困ることではなかった。
霰石
1,010
じこまん
49
怜
206
碧瑠(みどる)&理雨
44
コメント
5件
初心な中也♀が可愛すぎました
あー、この空気感、めちゃくちゃ好きです……!雨音と朝の倦怠感、それに昨夜の気配を残した二人の距離感が、すごく自然で。太宰がおねだりするときの甘い感じと、中也の隠しきれない照れっぽさのバランスが絶妙でした。何より「潤滑剤切らした」からの爆笑やりとりで、二人の関係のリアルさがにじんでて、読んでるこっちまでほっこりしました。続きが気になります!