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表現の仕方まじで好きだ…‼️😭 あ、お久しぶりの りとです✌️ 見てはいたけどコメントしてませんでした。 元気ですか!!?
君が冬を溶かすから。
茈「 …寒いな。 」
黄「 どしたん、急に。 」
茈「 いや…寒いから、 」
黄「 んははっ、茈くんらしい。 」
馬鹿にしてるのか、とでも言いたげに拗ねた顔でこちらを睨む彼。鼻頭が赤く染っていて確かに寒そうだった。
夏みたいに蝉が喧しいわけでも、止まりたくなる怠さに襲われるわけでもないのに、
どこか立ち止まって、じっとしてみたくなってしまうのは、ある種の冬の衝動とでも言ったものなんだろうか。
そんなことを考えていた俺の足は歩みを忘れたようで、少し離れた場所から呼ばれる。
茈「 何止まってんだよ、置いてくぞ。 」
黄「 ぇえっ、待ってや〜… 」
冗談だよ、なんて言って笑って欲しかったけど、どうやら半分は本気だったみたいで、彼はそのまま歩みを止めずに進んでいく。かろうじていつもより彼の歩みが遅いのは、さっきの言葉が、半分は冗談だったからだろう。
慌てて歩みを早めて、彼の隣まで着いていった。
雪が降って北風も吹いて寒いのに、太陽の日差しは年中変わらず暖かいままだから、このままだと体がどうにかなってしまいそうだ。
黄「 もうすぐ二月やなぁ… 」
茈「 ん、そうだな… 」
黄「 誕生日やね。 」
茈「 …ぉう、 」
意外にも俺が誕生日を覚えていたことにびっくりしたのか、覚えてくれていて嬉しかったのは分からないけど、いつもとは違う声色で返事をしてくれる。
耳も頬もりんご色だ。それが寒さからなのかはたまた違うのか。
こういう時に、素直に伝えられない可愛いところに惚れ込んだのだと、定期的に再確認させてくれるような彼の可愛い仕草にはいつまで経っても慣れきらないけど、
とりあえず俺の彼女は今日も可愛い。
黄「 …大好きやで、 」
小さく、聞こえるかも分からないほどの声で呟いた後に、無防備な彼の手を優しく絡めとって手を繋ぐ。
突然のことに驚いたのか、彼は数秒ほど硬直したままだったけど、次第にあっちも指を絡めて手を繋ぎ返してくれた。やっぱり可愛い。
冬はどちらかといえば得意な方だ。という人は多いと思う。
だって夏は暑くて、運動するにも勉強するにもどうにも身の入らない時間というものが増えるような気がしてしまう。
対して冬は防寒さえ出来ればある程度快適なのだから、勉強も運動もそこそこ捗る。このことを踏まえてみたらそりゃ冬の方がいい。
寒いのが苦手な人はまぁ、しょうがないとしよう。
茈「 夏はなー…、あちぃしな、 」
茈「 バスケとかも、汗で滑るんだよ、床。 」
黄「 あー…軽音は楽器がなぁ、 」
黄「 汗で汚れたり、酸欠で鼻血出たり… 」
茈「 …冬に暑苦しい話はやめるか、 ( 笑 」
黄「 …それもせやね、 ( 笑 」
あー、おでん食いてー…とか何とかほざきながら、昔馴染みの公園で放課後を潰す。
確かにおでんは食べたい。今の時期のおでんの大根ってめちゃくちゃ美味いんよな。卵とかしらたきも美味しいけど。
というか、おでんぐらいコンビニに行けばパッと買えるのだが、もう寒さが洒落にならなくなってきた。寒い、動きたくない。これも冬の衝動だろうか。
茈「 …黄、 」
黄「 ん、なぁに? 」
茈「 …俺のこと、好き? 」
黄「 ⎯⎯⎯…ぇ、 」
突然彼らしくもない事を言われて、少し動揺してしまう。
普段は自分から愛情の確認なんてしてこない彼が、急にそんなことを呟くものだから、どこか体調でも悪いんじゃないかと心配になってしまう。
体調悪いん?もう家帰る?俺なんか嫌なことした?なんて聞いてみても、彼はただ俯いて、俺からの返事を待っているだけのようだった。
黄「 ど、どうしたんよ…っ 」
黄「 “茈くんらしくもない…” 」
茈「 …こんなこと言う俺は、 」
茈「 ⎯⎯⎯…きらぃ、? 」
黄「 ッぇ、ぁ、 」
今までに見たことない顔だった。
悲しそうで、寂しそうで、辛そうで、なんだか色んなものがごちゃごちゃで。でも綺麗で、美しくて、儚い笑顔を見せてくれた。
違う、違うよ、茈くん。
黄「 ごめ、ッ…悲しませるつもりやなくて、 」
黄「 俺は、…どんな茈くんも、 」
黄「 ずっと…愛しとるよ。 」
茈「 …、ぉれも、 」
茈「 だぃすき… 」
ずるい、ずるいなぁ、君は。
俺が茈くんに弱いの分かってるんだ。俺が彼に依存してて、もうどうしようもないくらい彼のこと大好きだから。
でもごめんね、全部分かってるんだよ、こっちも。
いつも反抗的な態度取ってくるくせに、確かな愛情表現がないと寂しくなって一人で泣いちゃうの知ってるよ。ひとりが怖いんでしょ、寂しいんでしょ。
可愛い、可愛いよ、茈くん。
ずっと俺だけのもので、ずっと…ずっと、俺の彼女。
黄「 …ッは、 」
ゴーン、ゴーン。という時計塔の音で意識が覚醒する。
ここは、…公園だ。公園のシンボルの、杉の木の下。俺の右肩にはスクールバッグと、左手には微かな温もり。おでんがある。お箸は二つ。俺しか居ないのに。
…あぁいや、居たんだ。確かに、さっきまでそこに、俺の左に。
公園の遊具は無邪気な子供たちが遊んではしゃいでいて、そんな光景が微笑ましくて、つい口角を緩ませてしまう。
「 おにーさん、おでん食べないの? 」
黄「 …おでんも生きとるからなぁ。 」
「 ?そっか、! 」
黄「 ……、 」
おでんの具の残りは大根と餅巾着。ご丁寧に俺らの好きな物だけ残っている。何が言いたいと言うのだろうか。
彼を思い出させるこの場所も、おでんも、何もかも白く染めあげてくれ。
真っ白に染まってしまえばもう、あとは上から新しく染めて、忘れて、終わることができるはずなのに、それなのに。
まだ忘れたくないと、そう思えてしまうのは、やはり冬の衝動だろうか。
黄「 茈くん、…… 」
茈「 ⎯⎯⎯…愛してたよ。 」
黄「 ッ、いる、ま、くん… 」
前を向いても空しか見えなくて、宙を舞うのはどこも雪で。
空の色は青色で、どこにも、俺の大好きな紫色はどこにもなかった。もう、目の前に現れることがあるわけないのに。
そっと、耳のピアスを手でなぞる。
いつか彼と話していた。大人になったら、俺の耳とは反対の君の耳にピアスを開けようって。そんなくだらない、将来の話。
黄「 …It’s so bright, 」
あぁ、冬の太陽。
雪をも溶かすその熱で、どうか俺の心も溶かしてくれないか。
去年の冬、ちょうどこのぐらいの時期だった。
生物飼育係を担当していた俺は、連日降り続いた大雪で積もった、飼育小屋の雪かき作業で学校に居残りをしていた。
その時は茈くんと喧嘩してて、内容はもう不確かなものだけど、多分くだらないことで喧嘩してたんだと思う。
ウサギ小屋の雪かきをしてたら、担当の先生に呼ばれた。
「 茈が子供を庇って雪の下敷きに…ッ 」
「 今、近所の人で救助中だ!! 」
黄「 …ぇ、 」
衝撃だった。
北海道生まれで雪は見慣れているはずの茈くん、雪の怖さは十分知ってるはずだ。屋根に積もった雪が落ちてきてたなら、それこそ相当な重さ。
想像してたら怖くなって、仕事も放棄して一直線に走った。
どこ、茈くん。どこ。
街の人に話を聞きながら走った。今までに見た事ないぐらいの速さで走っていたような気がする。何度か転けたけど構わない。早く、茈くんの元へ。
黄「 茈ッ…く、 」
翠「 ぁッ…、、みこ、ちゃ、 」
茈「 ……… 」
黄「 あぁ、”…っやだ、やだ…ッ 」
黄「 茈くん”っ…、いやだぁ”、 ( 泣 」
俺が着いた頃には、雪の中から顔が見えていて、安らかに眠っていた。
白く綺麗な肌は雪と重なってより白く見えて、紫色の鮮やかな髪はより雪を強調するように見えてしまって、もう目に映るものが憎くて、怖くて仕方がなかった。
最愛の人はもう居ない。それだけで俺の心は酷く蝕まれた。
雪の中から助け出された彼の右手にはスマホが握られていて、まだ着いたままの画面には、俺とのトーク画面と、
『 前のこと謝りたい、会える? 』
という、きっと俺に送信しようとしたであろうメッセージが残されていた。彼の手はスマホを握り締めたまま。
手を取っても温かさは感じられなくて、声をかけても目を開けてくれなくて。
そんな些細なことが、彼はもうこの世に居ないのだと感じさせる。神も仏も残酷だ。大切なものばかり奪い去ってしまう。
あぁ、こんなことになるなら。
黄「 喧嘩なんて、しなきゃ良かった…ッ 」
ごめん、ごめんなさい、茈くん。
でも、こんな俺でも、一つだけ君に言えるのは。
黄「 “愛してる”よ… ( 泣 」
この一言、だけだから。
恋、と言われて多くの人が思い浮かべる季節は夏だろう。
いや、夏でなくても春とか、とりあえず暖かい季節を思い浮かべる人は少なくないと思う。実際俺も恋と言われれば夏とかな気がする。
でも、俺らの恋は違う。
俺たちの恋は冬だった。冬の、雪が降りしきる中でたくさん、たくさん温めた純情達。
あの日のことは、事故と言うにはあまりにも悲しくて酷くて、恋だの愛だのと言うにはあまりにも小さくて平凡で。
それでも、必死に生きていた人間の命が、あんなにもあっさりと消えてなくなるのだと、この目にはっきりと見せつけられてしまった。
でも俺たちの愛情は嘘じゃない。例え彼が死んでも、あの時の恋を嘘だったとは言わない。
だから、だからどうか、
黄「 …|I loved youは…それだけは、 」
黄「 悲しすぎるよ、茈くん… ( 泣 」
彼は冬も、俺の心も溶かしていったんだ。だって、 それはもう雪を溶かす真冬の太陽のように明るい人だったから。
ねぇ、神様仏様。俺の太陽、返してよ。
もう溶けきって、冷えきった俺の心を温める存在まで奪うなんて、どこまで世界は意地が悪いんだろうか。
でも、彼と出会えた必然と、この恋心をくれたことには感謝しなければ。
この最低で最悪で、最高な世界へ。
黄「 どうかこのまま、 」
黄「 全て白く…染まりますように。 」
そんなことを願いながら、白く、白く、染まって、溶けていく。
そう、まるでそこには何も無かったかのように、白紙のように、溶けて、無くなっていくんだ。その有様は、人の記憶も同じ。
冬は溶けたのだ。もう春になってしまう。 冬が終わってしまえば、俺たちの恋も終わってしまう。
ばいばい、また来年の冬に、ここで会えるかな。
食べかけのおでんと二膳のお箸を置いて、俺は家への帰路を歩んだ。
愛しさのあまり幸せな幻を見た黄さん。
切なさのあまり悲しき幻に成った茈さん。
二人の幸せのかたちは、もう二人にしか埋められない。
雪も、冬すら溶かした二人の暖かな愛は、
きっとこの先も、冷めることはないのだろう。