テラーノベル
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翌朝。愛梨は重い瞼を擦りながら、教壇に立っていた。
一晩中、佐藤佑真からのメッセージが頭の中を渦巻き、海里の不敵な笑みが網膜に張り付いて離れなかった。
「……ええと、教科書の四十八ページを開いて」
チョークを握る指先が、わずかに震える。
三十人ほどの男子生徒たちの視線が、一斉に自分に注がれているのを感じる。都会の進学校とは違う、どこか品定めをするような、生々しい好奇心。
そんな中、教室の最後列、窓際の席に座る海里と目が合った。
彼は頬杖をつきながら、教科書すら開かず、ただ真っ直ぐに愛梨を見つめていた。その瞳は「さあ、どうするの?」と問いかけているようだった。
授業が終わると同時に、数人の男子生徒が教壇に押し寄せてきた。
「先生、質問! 都会の学校って、やっぱりイケメン多いんすか?」
「先生、インスタやってないの? 教えてよ!」
屈託のない、けれど無遠慮な質問の嵐。愛梨が困ったように微笑んで受け流そうとした、その時だった。
「お前ら、しつけーよ。先生、困ってんだろ」
低く、よく通る声。人だかりを割って入ってきたのは、海里だった。
生徒たちが「なんだよ瀬田、独り占めかよ」と茶化しながらも、どことなく彼に一目置いているのがわかる。
海里は愛梨のすぐそばまで来ると、他の生徒には見えない角度で、彼女の耳元に唇を寄せた。
「……見られてますよ、先生」
その囁きに、愛梨の背筋が凍りついた。
「……何が?」
「校門の外。さっきから変な車が止まってる。……先生を『迎えに来た』やつじゃないんすか?」
愛梨は反射的に窓の外に目をやった。
校門の影、見覚えのある黒いセダンが、じっと校舎を監視するように停まっていた。
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