テラーノベル
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血の気が引くのが分かった。
校門のそばに停まる、あの黒いセダン。見間違えるはずがない。佑真が「愛梨を逃さないため」に買った、あの車だ。
まさか、もうここまで来ているなんて。
「……っ、なんで」
愛梨の喉が引き攣り、立っていられなくなる。生徒たちの喧騒が遠のき、視界がぐにゃりと歪んだ。
「先生、落ち着け。……こっち見ろ」
海里の強い声に、無理やり意識を呼び戻される。彼は愛梨の肩を掴み、他の生徒たちからは見えないように、自分の背中で彼女を窓から隠した。
「今外に出たら、捕まりますよ。……あいつ、先生が一人で怯えて出てくるのを待ってるんだ」
「でも、帰らなきゃいけないし……警察に……」
「警察? 『元彼が校門の前にいる』だけで動くわけないでしょ。まだ何もされてないんだから」
海里の言葉は残酷なほど正論だった。
愛梨は絶望に目を閉じた。都会で何度助けを求めても、結局は「痴話喧嘩」で済まされた。誰も、佑真のあの底なしの執着を理解してはくれなかった。
「……先生。さっきの『契約』、今すぐ返事してください」
海里が愛梨の顔を覗き込む。その瞳には、獲物を追い詰めるような鋭さと、同時に不思議なほどの落ち着きがあった。
「今から俺と一緒に、あの車の前を通るんです。……俺の女として」
「そんな、無理よ……」
「無理じゃない。俺が先生を抱き寄せて、笑って、あいつの横を通り過ぎる。……あいつに教えるんですよ。あんたが壊した女は、もう別の男の腕の中で笑ってるって」
校内放送のチャイムが、終礼の合図を告げる。
もう逃げられない。
愛梨は、震える手で海里の制服の袖を掴んだ。
「……わかった。お願い。……助けて、海里くん」
海里は一瞬だけ、驚いたように目を見開いた。けれどすぐに、口角を吊り上げて満足げに笑った。
「了解。……最高の『復讐』、始めてあげますよ」
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