テラーノベル
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偽の夜空へと飛んだ君を目にした時、俺は何故かそれを”美しい”と錯覚した。
〖第一章 夜空に似せた君の羽衣。〗
「船長!この宝石珍しくないっすか!?」
そう呼ぶのは俺の大切な仲間。俺は海賊と言われる、ただの船乗りだ。
「おお!こりゃまた綺麗な透明な宝石だな、上物だ」
もらった宝箱の中身を見ながら、仲間たちと船の上で宴。今この海で一番幸せなのは間違いなく俺だ。そう断言出来る。それくらい最高な仲間に恵まれたんだ。
「船長、あれ…」
すぐそこにある崖の方を眺めていた 仲間がポツリと発した言葉。神妙な顔をしていたので少し気になって言葉の矛先を見た。
「え…?」
そう声が出てしまうくらい驚いた。そして、同時に見惚れてしまった。
天女のような羽衣をまとった女が、月に微笑み、唄を捧げ、身を星の映っている️夜空へと投げ出した。
カランと音を立てながら俺の指からあの宝石が船へ転がった。だが、その音も仲間の焦った声までも俺の耳には何一つとして届かなかった。俺はただ美しく飛んだ女を瞬きもせずに見つめ、その美しさに心を奪われていた。
「船長!」
「あっ…なんだ?」
ハッと我に返り、仲間の方を向いた。
「なんだ?じゃないっすよ!今、そこの崖から女が飛び降りたの、船長も見たでしょ!助けに行かないと!」
そうじゃないか、美しいだなんて言っている場合じゃない。早く引き上げないと最悪の場合死んでしまう!あの服は重いだろう、尚更危険だ。
俺は気づいたら帽子を投げ、海に飛び込んでいた。泡沫がまとわりつくのを振り払い、水の中、目を開けた。視界の右端にあの女がいた。安らかな顔をしていて、何かを包むように手を広げていた。
大丈夫だ、俺が今引き上げてやる。
「船長!」
女を手に抱え船に戻ってきた俺を仲間達は心配そうな目で見ていた。
「大丈夫だ、俺が生きているからな!」
仲間達を安心させるために、この動揺を隠すために、明るくいつも通りに振舞った。
「船長、もしかして体調でも崩しましたか」
「え?そんな事ないぞ、俺は元気だ!」
そう言いながら俺は女をハンモックに乗せた。
「いやでも、顔が物凄く赤いですよ」
仲間に指摘された顔を隠すように投げ捨てていた帽子を深く被り、「気のせいだ」と仲間に何度も言い聞かせた。 そして、ハンモックに置いていた女の顔を覗き込むと、薄ら目を開け、俺に優しく微笑んでいた。
嗚呼、本当に俺のこの火照りはどうしたものか……。
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