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昔はよかったよな。
16の夜、お前と深夜のコンビニ裏で飲んだビールの、ほろ苦い味が今でも忘れられねぇよ。
若気の至り。
ああ、昔はよかったよ。
虚空を彷徨う俺は、未だに自分の居場所を見つけられねぇ。
真っ白で煌びやかな照明に囲まれて。
沢山のカメラやスタッフに囲まれて。
こんな世界で一人生き抜く俺は、もう昔みたいに上手く笑えねぇよ。
「チッ…」
穢れた体を引きずって、重い腰を引きずって。
俺は控室に戻り、シャワー室で冷水を浴びる。
それが、やけに干乾びた心に染みるんだよ。
少しでも、体に纏わりついた汚れが流れればいいのに。
16の夜、お前と深夜のコンビニ裏で語り合った夢は、儚く打ち砕かれた。
叶うはずもねぇよ。
俺はもうこんなに汚れちまった。
もう、お前に会わせるツラもねぇ。
シャワー室の外から俺を呼ぶマネージャーの声。
水滴る髪をかき上げ、腰にタオルを巻き、俺はシャワー室を出る。
「シュガさん、次のシーン、お願いします。」
「…ああ。」
用意されていた真っ白のバスローブは、真っ黒に塗りつぶされた俺には、似合わねぇな。
バスローブを羽織り、控室を後にして、スタジオ入りする。
沢山のスタッフ、カメラ、機材、照明。
「シュガさん…次のシーンも…よろしくお願いしますっ !!」
「…ああ。」
白いバスローブを纏った、女優さんが俺に声を掛ける。
「では、スタンバイお願いしますー」
監督の声がかかり、俺はスタジオ内のセットのベッドの上にスタンバイする。
「それでは本番行きます。本番まで、5,4,3…」
2,1…と心で数えながら、そっと息を吸う。
俺は、”SUGA”だ。
“ミンユンギ”ではない。
俺は、”SUGA”。
そう言い聞かせて。
俺はそっとベッドに女優さんを押し倒す。
軋むベッド。
上がる息。
相手の温もり。
でも、そこには愛など存在しない。
ただの他人の性欲を収めるためだけに行う行為。
そして、絶頂に達す。
でも、快感をもう、”気持ちがいい”とすら思えない。
慣れ切った感覚。
もう、”ミンユンギ”は死んだ。
俺は、”SUGA”として生き抜く。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
仕事を終えた帰りにタクシーを捕まえ、夜のソウルの街を走り行く。
赤信号で時間が止まった道路。
窓の外を眺める俺の目に鮮やかに飛び込んできた巨大スクリーンは、どこまでも暗く深く落ちて行った俺の心を、より深みの渓谷へと突き落とす。
『喉を潤す、爽快感 ! ちょっぴり大人の魅惑の味。』
『これが、新、クラフトビール』
ソウルの街を彩る巨大スクリーンの中で動く、一人の俳優。
「最近、あの俳優さん、人気ですよね。ドラマや映画なんかでも引っ張りだこで。」
気まずい空間に耐えられなくなったのか、髭がついた立派なタクシー運転手が俺に話しかける。
「ああ…まぁ、そうみたい…ですね。」
「ウチの娘も嫁も、夢中なんですよㅋㅋㅋ」
「…まぁ…最近流行ってますもんね…」
そう適当に返す俺は、果たしてちゃんと笑えているのだろうか。
巨大スクリーンに移り、爽やかな笑顔でビールを飲み、待ちゆく人々の視線を奪っているのは、俺の昔の友人だ。
俺の、唯一の幼馴染であり、唯一の旧友。
「それにしても、今夜は満月が綺麗ですね」
「…ですね。」
「お仕事の帰りですか?」
「…ええ、まぁ。」
「仕事は何をされているんですか?」
どう答えるべきなのか。
俺は”俳優”という言葉を飲み込んで、静かに返す。
「普通の会社員ですよㅋㅋ」
と。
「そうですか、お疲れ様です。」
16の夜、お前と深夜のコンビニ裏でビール片手に語り合った夢は、儚く打ち砕かれた。
同じ夢を持った、同士だったのにな。
“俳優”になって、芝居して、たくさんの人に感動を届けたいという、青き夢は、儚く無残に散った。
眩しい照明、たくさんのカメラにスタッフに囲まれた俺とお前。
同じ業界…とは言えねぇよな。
お前は、俺がどれだけ手を伸ばしても届かない、眩い光の中の世界に居て、
俺は、黒く塗りつぶされた汚く穢れた世界にいる。
笑えるよな。
同じ俳優でも、これほどに違うとは。
お前は ”舞台俳優” で、
俺は “AV俳優”。
生きる世界が違うんだよ、もう。
あの頃に戻りたくても、戻れねぇ。
だから、今日も俺はどこかの誰かの性欲の為に、女を抱き続けるだけ。
窓ガラス越しに移る街並みには、色が無い。
俺は、今日も色が無い世界で一人、生き抜いている。
お前には想像もつかないような世界で一人、生き抜いている。
おい、こんな無様な俺を見てみろよ。
なぁ、テヒョンア。
俺は見てきたぞ。
お前が知らないような、どす黒くて汚くて、穢れた世界を。
お前が発声練習をしている間に、俺は暗い部屋で一人、喘ぎ声を出す練習をしていた。
お前が芝居の相手役の人に、運命のキスをするときに、俺は糸をひくほどの淫らなキスをしていた。
お前が綺麗な衣装を着ている時に、俺は裸で相手役の女に跪いてんだ。
お前が相手役の人と握手をしているとき、俺は対して好きでもない女の乳を舐めてんだ。
テヒョンア、お前は16の夜、コンビニ裏で初めて飲んだビールの味を覚えてるか?
それとも…もう、忘れちまったのか?
そりゃ…そうだよな…
一世を風靡する人気俳優が俺の事なんて…もう覚えてるわけが…無いよな…。
誰もが憧れるような、煌びやかな世界で、俳優仲間に囲まれて生きるお前とは違って。
俺は、こんな穢れた世界で、汚ねぇ職に手を染めてんだ。
なぁ、テヒョンア。
俺は見てきたぞ。
お前が知らないような、どす黒くて汚くて、穢れた世界を。
一人で、生き抜いてんだ。
♡→300以上…
新連載…始めましたっ
テギとかSINとかで繰り広げられるBL系の物語ですっ
テギ、SINだけでなく、ユンギさん中心に繰り広げられる感じのR-18要素も追加してく感じですね。
R-18の過激系+切ない系みたいな感じです。
後から結構過激になるかもなので、そういうのが無理な方は、気を付けて!!