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両国の和平が締結された四年後――、現在。
「お前の婿が決まった」
「えっ?」
十九歳の伯爵令嬢シャーロットが父からいきなり告げられたのは、趣味の刺繍をしていた時だった。
考えた図案をもとに針を進めていたところ、思いも寄らない事を言われたので、手が止まってしまう。
彼女はエメラルドグリーンの大きな目を見開き、父を見つめて固まる。
結婚。……は、自分からかけ離れたものではない。
日々、良い婿と出会えるように夜会に赴いているし、友人たちとの情報共有も忘れていない。
十六歳で社交界デビューしたあと、目が回るような忙しさで毎日のように夜会に向かっていたが、生来マイペースなシャーロットは同じ事の繰り返しに飽きを感じていた。
家のために良い相手を探さないとならないのは分かっているが、彼女は男性にあまり興味を持てずにいた。
話しかけられたら感じよく相手をする事はできるが、〝男性〟は自分が想像していたより素敵な存在ではなかった。
女性がデコルテを大きく開いたドレスを着るのは当たり前だが、シャーロットは普通の令嬢より胸元にボリュームがある。
彼らはまずそこに目をやり、一瞬下卑た笑みを浮かべる。
それだけでシャーロットは「この人と結婚したい」という想いを失うのだ。
理想を高く持ちすぎているつもりはないし、女性の中には谷間を見せつけて相手を籠絡させてこそ、と言う人もいる。
けれどこれから長く結婚生活を送っていくにあたり、体が目当てで結婚したなら、若い時期を過ぎればすぐに飽きられてしまうのでは……と不安になる。
だからシャーロットは積極的に結婚相手を探そうと思えなくなったし、来る日も来る日も似たような男性を相手にして、辟易としていた。
このままではいつか、両親か親戚が見つけてきた相手と結婚させられてしまう。
自分で決めるより選択肢のない結婚は、なるべく避けたい……と思っていたのだが、とうとう父にそう言われてしまう日がやってきた。
「……私、お慕いする方もいないのですが……」
戸惑った様子のシャーロットを見て、アレクシスは苦い表情をする。
娘が慎重に相手を見極めようとしていたのは分かっていたし、なるべくその意志は尊重したいと思っていた。
だが今回の縁談は、伯爵である自分が断る事のできない〝命令〟なのだ。
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