その頃……密猟者《みつりょうしゃ》たちは……。
「隊長! 目標が見えました!」
「ほう、ようやくか……。どうやら『四聖獣』の一体が『ビッグボード国』付近に潜伏《せんぷく》しているという噂《うわさ》は本当だったようだな……。総員に告《つ》げる! これより『一攫千金《いっかくせんきん》作戦』を開始する! 繰り返す! これより『一攫千金《いっかくせんきん》作戦』を開始する!」
「やっほー!」
「やってやるぜ!」
「待ってました!」
黒いローブを身に纏《まと》い、箒《ほうき》に跨《またが》った状態で空を飛んでいる彼らは、口々に歓喜の声を上げていた。
「総員! 突撃ー!」
『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』
彼らは、一斉に『青龍《せいりゅう》』に向かって進み始めた。
彼らが『青龍《せいりゅう》』に向かって進み始めた頃、ナオトと乃木《のぎ》は一列横隊でこんな話をしていた。
「……なあ、ナオト」
「ん? なんだ?」
「この世界には、俺たち以外のやつらもいるのか?」
「それは俺たち以外の元同級生たちがいるのかって、意味か?」
「ああ、そうだ。それで、どうなんだ?」
「そんなの言うまでもないだろう?」
乃木《のぎ》は、ニシリと笑うとこう言った。
「ああ、そうだな。それじゃあ、久しぶりに……やっちまうか!」
「ああ、そうだな。けど、できるだけ殺すなよ?」
「ああ、分かってるよ。けど、油断は禁物だぞ?」
「ああ、そうだな。それじゃあ、行くか!」
「おうよ!」
二人は、彼らが近づいてくると、攻撃を開始した。
「行くぞ! 『白神槍《はくじんそう》』!!」
乃木《のぎ》がそう言うと、彼が乗っている槍《やり》が白い光を放《はな》ち始めた。
「乃木式|爆槍《ばくそう》術……壱《いち》の型一番『白風一掃《はくふういっそう》』!!」
彼はそう叫びながら、一瞬だけ槍《やり》を振《ふ》った。
すると、白い風が……いや、白い竜巻のようなものが彼らを吹き飛ばした。
「い、今のはいったい……」
「他人の心配してる場合じゃねえぞおおおお!!」
ナオトは、黒い影で作った二本の剣を交差させた状態で彼らに襲いかかった。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
ナオトは、ただただ目の前にいる敵を剣で殴《なぐ》るように倒していった。
それは『真紅の大天使』による『裁《さば》き』だった。
「く、くそ……! 何なんだ! あいつらは! こんなの聞いてないぞ!」
「隊長! ここは一旦、退《ひ》きましょう! 今の我々の戦力ではどうやってもやつらには、敵《かな》いません!」
「だ、黙れ! ここまで来て、そのようなことができるわけが」
「隊長ー! 助けてくれー!」
「し、死にたくなーい!」
「う、う、うわああああああああああああああ!!」
同志たちが次々と倒されていく様《さま》を目《ま》の当たりにした隊長は拳を震《ふる》わせながら、こう言った。
「総員に告げる! 直《ただ》ちに撤退《てったい》せよ! 繰り返す! 直ちに撤退せよ!」
「な、なんだって!?」
「隊長! それはあんまりだ!」
「そうだ! そうだ!」
隊長の命令に異議《いぎ》を唱《とな》える者《もの》もいたが、隊長はそれを聞いてもなお、彼らに撤退《てったい》を命《めい》じた……。
「く、くそ……!」
「覚えてろよ!」
「ま、待ってください! 隊長ー!」
彼らは九割近くの仲間たちを倒されながらも、なんとか撤退《てったい》した。
しかし、そいつは彼らを待ち構《かま》えていた。
「おいおい、本気で逃げ切れるとでも思っていたのか?」
先ほどまで仲間たちが足止めしていたはずの『真紅の大天使』は、黒い影でできた剣を両手に持った状態で彼らにそう言った。
「な、なぜ……なぜお前がここにいる! お前はまだ我々の仲間たちと戦っているはずだ!」
隊長は恐怖で声が震《ふる》えていたが、その目は怯《ひる》んでいなかった。
「あー、それなら、俺の分身たちが戦ってくれてるから問題ねえよ。俺の翼の羽をむしり取って、空中に投げれば……ほら、この通り」
彼がそう言いながら、生み出した彼の分身は彼にそっくりだった。
「くっ……! お前は、そんな卑怯《ひきょう》な手を使ってでも我々を潰《つぶ》したいのか!!」
「潰《つぶ》すだと? おいおい、勘違いするなよ。俺はただ、青龍《あいつ》の鱗《うろこ》を守りたいだけだ。お前らを潰《つぶ》す気なんて、これっぽっちもねえよ。けど……ここでお前らを倒しておかないと、また青龍《あいつ》のところに行くかもしれないから……全力で倒させてもらうぜ?」
「そ、総員、かかれー!」
『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』
彼らは隊長のかけ声が聞こえた直後、一斉にナオトのところへ向かい始めた。
「やれやれ……俺に勝てる確率なんて、これっぽっちもないことくらい、分かっているだろうによ……」
彼はポツリとそう呟《つぶや》くと、彼らを倒し始めた。
それから彼らが全滅したのは、五分後である。
「あ、悪魔め……」
隊長がナオトを睨《にら》み付けると、ナオトは黄緑色の瞳を光《ひか》らせながら、こう言った。
「いーや、今の俺は『真紅の大天使』だ。だから、間違っても『真紅の悪魔』が現れたなんて情報を流すんじゃねえぞ?」
ナオトはそう言うと、黒影でできた剣で隊長の箒《ほうき》を斬《き》ってしまった。
隊長は「く……くそおおおおおおおおおお!!」と言いながら、雲の下へと落ちていった。
「……さてと……行くか」
ナオトはそう言うと、自分の分身を羽に戻しながら青龍のところへ戻り始めた。
*
「ただいまー」
「おかえり」
「おう! ナオト! 残りのやつらは倒せたか?」
「ああ、ばっちりだ。隊長っぽいやつもいたから、多分あれで全部だろう」
「そうか。ということは……」
「ああ、ミッションコンプリートだ」
「ううん、まだ終わってないよ」
「ん? それはどういう意味だ? 青龍」
「まあ、要するに……私に似合う名前を付けてくれないと約束は果たせない……ってことだよ」
「なるほど。そうきたか」
「なあ、ナオト。俺、状況がよく分かんねえから説明してくれよ」
「うーん、まあ、簡単に言うとだな。こいつは、俺に自分のマスターになってほしいってことだよ」
「へえ、そうなのか……って、なにい!? それは本当か!? ナオト!!」
「ん? ああ、そうだけど、それがどうかしたのか?」
「いやいやいやいやいや、普通もう少し慌てるだろ! だって、体長五百メートルくらいの龍にマスターとして認められるなんて世界のどこを探しても、そんなにいないぜ?」
「うーん、そうかな? 俺はもう『玄武《げんぶ》』と『朱雀《すざく》』のマスターでもあるから、別に特別だとは思わないが」
「は? ちょ、ちょっと待て。お前、今、なんて言った?」
「え? いや、だから、俺はもう『玄武』と『朱雀』のマスターでもあるから、別に特別だとは思わないと言ったが」
乃木《のぎ》はナオトの両肩に手を置くと、ニコニコ笑いながら、こう言った。
「よし、なら、お前に任せる。頑張れ!」
「お、おう、任された」
ナオトは彼の行動を不思議に思ったが、青龍の名前を考えることにした。
「なあ、一つだけ訊《き》いていいか?」
「ん? 何かな?」
「えーっと、その……お、お前の外装じゃなくて……ほ、本体の目の色って何色なんだ?」
「さぁ? 何色だと思う?」
「疑問形を疑問形で返すなよ」
「ごめん、ごめん。冗談だよ。うーんとね、きれいな緑色……だよ」
「そっか、そっか。どうも、ありがとう」
「どういたしまして」
ナオトは、その直後、意識を集中し始めた。
顎《がく》部《ぶ》にある逆鱗《げきりん》に触れると、たちまち暴れ始めるという伝説がある青龍。
しかし、彼女はとても優しそうである。
そんな感じの名前にしてあげられたら、きっと彼女も喜ぶに違いない。
ナオトは、いい名前が思い浮かぶまで、ずっと腕を組んでいたが、しばらくするとそれをやめた。
そして、彼はポツリとこう呟《つぶや》いた。
「……ハルキ」
「ハル……キ?」
「ああ、そうだ。『青い木』と書いて『青木《はるき》』だ。どうだ? 気に入ったか?」
その時、彼女は彼を食べた。
これには、乃木《のぎ》も驚いた。
「え、ええーっ!? お、おい! ナオト! 大丈夫かー!」
「ああ、大丈夫だー。それより、そこでしばらく待っててくれー!」
「あ、ああ、分かった! 気をつけろよー!」
彼がそう言うと、ナオトは青龍の口内に立っている身長百三十センチくらいの幼女に話しかけた。
「よう、もしかして、お前が『青龍』か?」
青い鱗《うろこ》をほぼ全身に纏《まと》った緑色の瞳と長い青髪が特徴的な美少女……いや美幼女は、ナオトがそう言うとコクリと頷《うなず》いた。
「そうか……。お前が……青龍か……。それで? 俺が考えた名前はどうだった? もし気に入らないようなら考え直すが……」
「ハルキでいいよ……。直接、君にそのことを言いたかった……」
「だから、いきなり俺を食べたりなんかしたのか?」
「うん、そうだよ」
「そうか……。意外と大胆なことするんだな」
「よく言われるよ」
「そうか……。じゃあ、これからよろしくな。ハルキ」
「うん、よろしくね。ナオト」
二人は歩み寄ると、ギュッと握手をした。
これにて契約成立である……。
*
「なあ、乃木《のぎ》。お前はこれからどうするんだ?」
青龍(外装)の頭の上に乗ったまま、ナオトは彼にそう訊《たず》ねた。
「うーん、そうだなー。まあ、お前について行くのも面白そうかもな」
「そうか。じゃあ、深谷《ふかたに》と名取《なとり》に挨拶しないといけないな。あー、あと、俺の家族や新しい仲間についても説明しないといけないな」
「え? お前、結婚したのか?」
「いや、結婚はしてないが、訳あってモンスターチルドレンっていう子たちの親代わりみたいなことをやっていてだな……」
「そうなのか……。まあ、帰りながらにでも、ゆっくり聞かせてくれ」
「おう、分かった。じゃあ、早く乗ってくれ」
「おう! 分かった!」
乃木《のぎ》は青龍(外装)の頭の上に飛び乗ると、ナオトの隣《となり》に座った。
「ミサキ、聞こえてるかー?」
ナオトは出発前、ミサキ(巨大な亀型モンスターの本体)に連絡した。(念話である)
『うん、聞こえてるよ。どうやら無事に青龍のところに行けたみたいだね』
「ああ、おかげさまでな。あー、それとな。例の温泉はその青龍の汗だってことが分かったから、ミノリたちにそう伝えてくれないか? 場所はもう少ししたら教えるから」
『うん、分かった。じゃあ、ご主人、また後でね』
「ああ、また後でな」
ナオトが念話を切ると、乃木《のぎ》は不思議そうにナオトを見ていた。
「ん? なんだ? 俺の顔に何か付いてるか?」
「いや、その……今、誰かと話してなかったか?」
「うーん、まあ、話していないと言ったら嘘《うそ》になるかな。それも含《ふく》めて、道中に話すから今は気にするな」
「そうか……。よし、分かった。ただし、俺にも分かるように説明するんだぞ?」
「おう、分かってるよ……。それじゃあ、出発進行ー!」
「おー!」
ナオトと乃木《のぎ》と青木《はるき》は『橙色に染まりし温泉』を作るための場所に向かい始めたのであった。
*
その頃……ナオトの伝言を受け取ったミノリ(吸血鬼)は。
「とうとう青龍まで従えてしまうなんて……やっぱりナオトはすごいわね。けど、だとしたら、あと一体は北海道の方にいるのかしら? うーん、でもまあ、今はナオトがまた連絡してくるまで、ゆっくりしましょう」
ミノリ(吸血鬼)はそう言うと、三色団子を食べ始めた。その時の彼女の顔はとても幸せそうだった。
*
その頃……白虎《びゃっこ》は……。
「誰……? 私の眠りを邪魔するのは」
とある雪山の洞窟の奥地で眠っていた白虎《びゃっこ》の前に、立ちはだかった者がいた……。
「俺か? 俺は……龍すら屈服させられる力を持つ者だ!」
その時の彼の瞳はルビーのように輝いていた。
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