テラーノベル
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実際のバベルの塔との関係は全く有りません。基本作者の想像になっているのでご注意下さい。
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時間の間を縫うようにリハーサルを幾度も終え、とうとう本番の時期がやってきた。体調を崩しつつも1回の練習時間は少なくとも日にちをかけたからきっと大丈夫。あのへばりつくような暑さが去っていくと、体力が削られる感覚が緩やかになった。とはいえ羽は少しずつとも大きくなってきている。Tシャツだと明らかな出っ張りが目立つくらい。その為ライブ衣装を元貴が、背中の当たりを目立たなくなるように改良してくれた。
今回のライブ衣装は意外にも黒を基調としていて、ガウン風なので袖がひらひらしている。デザインは裁判官が着る法服に近しいものを感じる。でも真っ黒だと映えないので、スパンコールでロゴが沢山デザインされていて可愛い。仕上げにメイクとアクセサリーを雰囲気に合わせる。このために伸ばしてきた髪をハーフアップにして貰うと完成。髪色はやっぱり落ち着く金髪だ。
「終わったよー。うわっ、涼ちゃん…。アトラの時も凄かったけど今回のもヤバいね。なんか美しいっていうか。ガチ恋勢が倍増するんじゃないの」
若井が一足先に準備を終えて楽屋に入ってくる。久しぶりの赤髪は、僕のと違ったタイト目な衣装とマントによく合っている。やだな、若井さん。ライブ前だからって気分をあげるお世辞が上手ですね。
「いやガチだって。また女神のあだ名に磨きがかかるよ」
「女神って。そんなにぃ…?まあ、僕が一番可愛いk…」
「はーい調子乗らない。涼ちゃんを褒めるとすぐこうなるんだから」
元貴も終わったみたいで、途中で遮られる。だいぶ伸びた襟足に、前髪は1部だけ黄色くそめられた髪型。衣装はゆったりしているが僕より丈が短め。黒も似合うなあ。若井が意味ありげに元貴をチラ見した。口元が緩んでいる。それを受け思いっきり顰めっ面をする。何、ここ2人どういう状況?
「また2人で何か変なこと考えて…」
「いっ、嫌、変な事じゃねえし」
少し火照った顔で唇を尖らせる。見兼ねた若井がため息をついて元貴の肩をぽんっと叩き、すたすたと部屋を出て行ってしまった。何が始まるのか検討もつかない。僕に背を向けていた元貴がこちらを向く。目は合わない。
「涼ちゃん」
あの時のように優しさがたっぷり含まれた声で呼ばれる。元貴が僕の正面に座った。これまでライブ中無理をしないようこっぴどく色々言われてたから、なんだろうとドキッとする。
「…『思い』は散々伝えたから、理解してもらったと捉えるね」
うん、とゆっくり頷く。元貴が遠慮がちにこちらを見る。揺れる瞳を隠すカラコンは淡いグレーで、儚さを増していた。吐息が、震えている。
「俺の勝手、なんだけど。ライブが終わったら、伝えたい『想い』があるんだ」
あぁ、終わってしまう。一番に思ったのは、それだった。ここまで来るときっと僕らの『想い』は同じだろう。信じられないし、勿論嬉しい。でもそれはこんな仕事をしている手前絶対に認められない事だから、通じ合わせることは終わりを意味していた。それは、ミセスとしても、僕の…人生も。
聴くのは怖い。でも聴かないまま死ぬのはもっと怖い。
「だからと言って、重く受け止めないで欲しい。こんなタイミングに言ってごめん。俺も良く考えて落ち着いた状態で話したいし、涼ちゃんにも気持ちを整理して置いて欲しくて」
そこで言葉を切った。突如、元貴の瞳から雫が溢れる。思わず素っ頓狂な声でうえっ?!と驚いてしまう。慌てて近くにあったティッシュを差し出した。
「あぁ…ごめんっ…。うぁっどうしよう、ライブ前なのにメイク落ちちゃう…」
ずび、と鼻をすする。普段あまり泣かないから、きっと止められないのだろう。元貴はただでさえミセスのフロントマンとして物凄く意識することがある。なのに、僕の事でで沢山考えさせた申し訳なさと大好きな人のボロ泣き、嬉しさがぐちゃぐちゃになって自分も涙目になってしまう。
「また直して貰えばいいよ、それより、ごめん元貴…っ」
そっと、抱きしめる。
腕の中でふるふると首を振る。言葉が嗚咽で遮られているのか、中々続かない。また、あの時みたいだ。
君は僕の病気の発覚に、涙を流してくれた。これで二回目だ。今更ながらやっぱり勝手に自分だけ踏ん切りをつけてしまうなんて自己中でしかない。それに、自分の弱さを言い訳に見て見ぬふりをしちゃダメだ。大きく、息を吸う。
「…分かった。聴かせて。僕も、簡単には難しいかもしれないけどしっかり受け止めたいから」
うん、そう言って自分でも違和感を覚えるくらい大きくなった羽ごと、抱きしめ返される。
いつまでもこうして居られたら良いのに。奇病に掛って何度感じたことか。
そんな思いは虚しく、ノック音が響く。
「スタンバイするよー、準備良い?」
若井だ。彼の思いにも応えないと。それに、来てくれているジャムズやスタッフにも。まだ涙目の元貴と顔を見合わせて、頷く。
「「…はーい!」」
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読んで下さりありがとうございます!
今日から復活します〜、と言っても今後また私生活が忙しくなるので頻度は落ちると思います。楽しみにしてくださっている方には申し訳ないですが、気長に待って頂けたら有難いです。
このお話、最初はもう少し簡潔にする予定だったのですが、バベルの塔の規模を考えたりしていると気づけばもう13話…。くどくないかな?内容が短調過ぎても良くないですし、難しいですね…。泣
次も是非読んで頂けると嬉しいです。
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