「兄さん!!!夏祭りに行こうよ!!」
僕はソファで参考書を読んでいた
実の兄でも 恋人でもある人に声をかけた。
兄は顔をしかめ、僕の方を見る。
「はぁ……?なんで急に……」
「ここの市でお祭りがあるんだって。
ねぇ兄さん行こうよ!!」
「……お前、俺が人混み苦手なの
知ってるだろ 」
「なるべく避けるから……!」
「……………だめだ」
「えぇっ、なんで!?」
「そもそもお前、夏休みの宿題もまともに
進めてないくせにエンジョイする気か??」
「兄さんが真面目すぎるだよ!!!僕は
直前にならないとやらないタイプな の」
兄さんはしばらく黙り込んだ後、
盛大にため息をついた。
「………はぁ、もう、 しょうがないな…」
「やった!!さすが兄さんだね。
じゃあ早速準備しよ!!!」
僕達は、母親が念の為に、と買ってくれた
浴衣をそれぞれ着た。
色違いの霞模様で、僕が水色、
兄さんが黒だった。
「どお?兄さん似合ってる?」
「自分の事可愛いって言ってるのと
同じだろ」
「……ちぇ、兄さんってば
分かってないなぁ……
…あ、そうだ、
ねぇ兄さん。僕の髪お団子に結んでよ」
「………………なんで」
「お祭りだし、雰囲気出したいな~って」
「…………わかったから後ろ向け」
「はーいっ」
兄さんはなんだかんだ言って僕に優しい。
髪を結んでくれている時だって、
痛くないように 慎重にやってくれている。
「……ん、できた」
「わぁっ、兄さん上手だね。ありがとう。
ねぇ、兄さんは結ばないの?」
「俺は1つ結びでいい。」
「えぇ、お揃いにしようよ」
「嫌だ。俺は1つ結びって決めてんだよ」
「……謎な所に頑固だよね兄さん」
「うるさい」
*
玄関のドアを閉めたか確認し、
僕達は祭りへと移動した。
しばらく歩くと、屋台が見えて来た。
「わっ、予想通り人いっぱいいるね」
「当たり前だろ夏祭りなんだから」
「んー、何食べようかな。やっぱりここは
王道のかき氷??」
「…ありだな」
「よしっ!!じゃあかき氷買おう。
兄さん何味にする?」
「………………いちご」
「………ふ、」
「な、なんだよ!言いたいことあるなら
言えよ… !!」
「ふふっ、なんでもない。じゃあ買おっか」
本当は可愛いと思ってしまった。
*
かき氷を買った僕たちは近くにあるベンチに
座り、仲良く二人で食べた。
「んー!!おいひぃ……」
「…キーンってするな……」
かき氷を食べ終え、次に僕たちは
いちご飴を食べることにした。
「僕いちご飴初めて食べたかも……
案外美味しいもんだね」
「ん……、美味しいな……」
兄は甘いものを食べた時だけ、
少し 素直になり、微笑みを見せる。
本当はスマホを向けて撮りたいところだが、
殺されそうなのでここはグッと堪える。
*
「ふーっ、次、何食べる?」
「……甘いものだけじゃ
あれだし、たこ焼きとかどうだ。」
「あり!!!」
僕達はたこ焼きを頼み、口に運んだ。
夏祭りで 食べているからなのか
分からないが、
なんだかいつもより 、美味しさが
倍になっている気 がした。
「はー、お腹いっぱい。」
「そうだな……。そろそろ帰るか?」
「えっ、早くない??まだ居ようよ。
しかも この祭りは花火もやるんだし、
やるまでもう少しここで楽しもう?」
「……疲れた」
「んー、じゃあそこら辺のベンチに
兄さんは座っててよ。僕飲み物
買ってくるからさ」
「…………ん、わかった」
兄をベンチに座らせ、僕は 自販機へと
移動した。
何飲むか聞いてくれば良かったなぁ、
とも思ったが、わざわざ聞くために
戻るのも めんどくさいため
さっぱりする ジャスミン茶を2つ買った。
*
「……あれって…………」
兄さんのいるベンチに戻ってくると、
兄さんは複数の男性に囲まれていた。
……完全にナンパだ。
兄さんは髪も長いし顔も整っているので、
よく女性と間違われナンパされることが
多い。その時はいつもぼくが助けているが、
兄さんを1人にした僕が馬鹿だった。
こんな夏祭りに兄を置いてけぼりにしたら
そりゃあナンパされるだろう。
僕は何度も兄さんをナンパから 助けたことがあるので、男共を どかす方法は
何となくわかっている。
兄はびっくりしたり困ったりすると固まる
タイプなので、兄はわたわたと
『あ、いや……』と焦っていた。
「いやいや、君ほんと可愛いからさ。
俺たちと夏祭り楽しもうよ。 ちょっとだけ
だから。な?」
その時、男は汚い手で兄を触ろうと
していた。
僕は急いで駆け寄り、ギリギリな
ところで男の手を払った。
「……君たちさぁ。何勝手に僕の兄さんに
触ろうとしてるの?気持ち悪いね。
しかも僕たち男なんだけど。ありえない。
さっさとあっち言ってくれないかな」
「……なんだお前、 俺は男でもいいぜ?
それに、 お前も可愛いツラしてる
じゃねぇかよ。 お前も俺たちと遊ぼうぜ。」
「………………はぁっ、!?」
……大体の奴は、男だと言ったら逃げる。
兄をナンパする人達はみんな
兄のことを女だと勘違いしているから。
なのに、こいつらは違う……
いつも男だと言うと逃げていくから、
まさか男でもいいとは思わなかった。
しかも、僕までナンパされたので、
顔が一気に熱くなった。
まずい……どうしよう。
「顔赤くしちゃって可愛い~笑 やっぱり
俺のこと好きだろ?」
「なっ、何言って……!!僕は お前らの
ことなんか 大嫌いだ!!!あっち行け
よ!!!」
「顔面が女だからなんも怖くねーわ。
ワンチャンこいつ女なんじゃね?www」
「ちょっ、やめ…………っ」
その瞬間、男は僕の浴衣を 捲ろうと
してきた。
もうダメだと思ったとき……
「おい!!!何してるんだ!!!」
「……えっ、炭治郎!?」
「……ッチ、まずい、 逃げるぞ!!!!!」
男共は炭治郎を見た瞬間逃げ出した。
「時透くん達、大丈夫!?」
「……うん、ありがとう……、
というか、なんでここに居たの?」
「ああ、俺は逸達と夏祭りを
楽しんでたんだ。 そしたら、
時透くん達が男の人に
絡まれてるのを見て……咄嗟に体が
動いてたんだ」
「そうなんだ……本当にありがとう。
炭治郎が助けてくれなかったら、
僕どうなってたか分からなかった……」
「いいんだ。お互い様だろう?
あ、有一郎も大丈夫??」
「…………大丈夫、です。
助けて下さりありがとうございます。
炭治郎先輩」
「ふふ、なら良かった。じゃあ俺邪魔しちゃ
行けないし、そろそろ戻るな。善逸達も
待ってるから。」
「うん、、!ありがとう。また学校でね!」
そう言うと、炭治郎は戻って行った。
「ふぅ……危なかった。まさか僕まで
ナンパされるとは思わなかったよ。」
「………………ごめん」
「えっ、なになに、どうしたの」
「…………俺、怖くてお前を助けて
やれなかった……兄として失格だ……」
「………!?そんなことないよ!!
兄さんは僕の大切な兄さんだし、
恋人でもあるから……!!」
「…………じゃあ逆に言うが、恋人ナンパ
されてるって言うのに、俺は 助けて
やれなかったんだぞ」
「…………兄さんはそれでいいの。
だって兄さんは僕のお嬢様だもん」
「…………なっ、!?んだよそれ……」
「……ふふ、ほら。顔、赤いよ。
お嬢様…………?」
「ッ~〜ー!!!!からっ、かうな……!」
「からかってないよ。だって兄さん、
いつもキリッとしていてかっこいいけれど、
たまに僕に向かって甘えてくるし、
びっくりするとすぐ固まっちゃうし、
恥ずかしいことされちゃうと顔が
赤くなるところがすごく可愛いんだもん」
「…………ぅ~~、、~」
「……ふふ、かわいい」
「…………、」
「…………さて、そろそろ花火が
よく見えるところに移動しよっか。
あと少しで 始まるらしいから」
兄さんはこくっと頷き
僕の浴衣に弱々しくしがみついた。
きっと恥ずかしくなってしまったのだろう。
僕の有一郎可愛い。
外じゃなかったら危うく犯している
ところだ。
*
「あ、着いた。ここ、人少ないけど
花火がよく見えるらしいんだ。
小鉄くんが言ってた」
「…………そうか」
その瞬間、タイミングを狙っていたか
のように、花火が夜空に打ち上げられた。
青や赤、緑などたくさんの花火が
大きな音と共に上がっている。
「綺麗だな……」
「………………うん」
花火は綺麗だ。でも、
花火を見る兄さんの横顔の方が綺麗。
綺麗な輪郭、美しい鼻筋、 色付いている
ぷっくりとした唇、花火が写っている瞳。
ああ、なんて綺麗なんだろう。
僕と同じ顔なはずなのに。
キス、したいなぁ。いましたらきっと
怒られるだろうなぁ。
ぼーっと考えていると花火から
目を 逸らさない まま 兄さんは僕に
話しかけてきた。
「…………なぁ、無一郎」
「?なあに、兄さん。」
「………………また、来年も 見に行こうな」
「ッ………!うんっ……!!!」
兄さんからまさかこんなことを聞けるとは
思わなくて、僕は思わず兄さんに
そっと一瞬口付けしてしまった。
「ん、!はぁっ、………ちょ、むいちろ、」
「………………すきだよ、有一郎」
「…………しってる」
花火が終わるまで、
もう少しだけ 独り占めさせて。
コメント
1件
今回も最高です·····