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「あ、なんか近いな。」
第5話:『なんで、そんな顔すんねん。』
昼の授業が終わって、教室に残るのはもう数人だけやった。
窓の外には、沈みかけた夕陽。
俺はノートを開いたまま、ただぼんやりと外を見てた。
「…どうしたん?」
振り向くと、光輝が立っていた。
笑ってるようで、少し真剣な顔。
「べつに。ちょっと考えごと。」
「考えごとって……お前、昨日からなんか変やで。 」
光輝が、 俺の机の前に座る。
いつもと同じ距離のはずやのに、今日は近く感じる。
俺は目を逸らして、小さく息を吐いた。
「…俺、なんかした?」
静かな教室に、その声だけが落ちた。
俺は返事に詰まって、視線を机に落とす。
ノートの端が、少しだけ揺れてた。
光輝はその様子を見て、小さく笑うでもなく、真っ直ぐ見つめた。
「なんで、そんな顔すんねん。」
その一言が、胸の奥にじんわりと広がった。
優しさと、少しの痛みが混ざってた。
「…ごめん。なんか、上手いこと言えへんねん。」
「別に謝らんでええけど……お前がそんなやと、俺まで変な気分なるわ。 」
光輝の声は、いつもより静かやった。
無邪気な笑いも、軽い冗談もない。
ただ、俺のことをちゃんと見てた。
沈む夕陽が、2人の影を長く伸ばす。
風が少しだけ吹いて、カーテンが揺れた。
「…なぁ、樹。」
「ん?」
「俺、お前が笑ってへんと、なんか落ち着かんわ。」
俺はその言葉に、なんも言えんかった。
胸の奥があったかくて、苦しくて。
“それって、どういう意味なんやろ”って、考えてしまう自分がいた。
教室の外でチャイムが鳴る。
いつもの放課後やのに、今日は少し違って見えた。