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「あ、なんか近いな。」
第6話:『なんで、お前のことばっか気になるんやろ。 』
夕暮れの風が、制服の裾を揺らした。
坂道を下りながら、光輝が笑う。
「なぁ、今日の体育、先生めっちゃ怒っとったなぁ。」
「せやな。お前がふざけすぎやねん。 」
「いやいや、樹も笑ってたやん。 」
ふたりの声が重なって、静かな街に響く。
いつもと変わらん帰り道。
けど、俺の胸の奥は少しざわついてた。
笑う光輝の横顔を見てると、
なんでか、目を離せん。
ほんまはただの友達やのに。
なんでこんなに──。
光輝がジュースの袋をぶら下げながら。
「ジュース買う?」と聞いてきた。
「いらん。家あるし。」
「そっか。俺、オレンジにしよ。」
光輝がキャップを開けて、笑いながら一口飲む。
その何気ない仕草に、
また胸が少しだけ苦しくなった。
“なんで、俺そんなことで心臓動くねん、俺。”
歩く速度が、自然と遅くなる。
並んでる距離が、いつもより近く感じた。
夕陽が沈んで、街の灯りが少しずつ点き始める。
風が吹いて、二人の影が並んで伸びた。
俺は空を見上げながら、小さく呟いた。
「…なんで、お前のことばっか気になるんやろ。 」
光輝には届かへん声。
でも、確かに口の中で転がった言葉。
その夜、俺はベッドの上で天井を見つめてた。
光輝の笑顔が、ずっと頭から離れへんかった。