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式が終わって解散の合図がかかった瞬間、私はクラスの列を抜け出した。
向かう先は、3年生の席。人混みをかき分け、憧れの背中を追う。
「あ、凌先輩……!」
声をかけると、友達と笑い合っていた先輩がこちらを振り向いた。その瞬間、私の世界に色がつく。
「紗南ちゃん? そっか、今日からだね。入学おめでとう。……制服、似合ってるよ」
「ありがとうございます! 私、先輩を追いかけて、本当に頑張って勉強したんです」
「あはは、知ってるよ。遥から『紗南が泣きながら机にかじりついてる』って聞いてたから。合格してよかったな」
先輩が、昔みたいに私の頭をポンと撫でた。大きな手のひらの熱が、髪を通して頭の芯まで伝わってくる。
やっぱり、この人の隣が私の目指していた場所だ。
「これからは毎日会えますね。私、先輩の部活のマネージャーとか……」
「おい。いつまで喋ってんだよ」
盛り上がっていた私の言葉を遮ったのは、後ろから首根っこを掴んでくる力強い手だった。
「……げっ、遥」
「『げっ』じゃねーよ。担任が教室戻れって言ってんだろ。行くぞ、バカ紗南」
「ちょっと、放してよ! 今いいところなんだから!」
遥は私の抗議を無視して、まるで荷物を引きずるみたいに私を強引に歩かせた。
私はバタバタと暴れながら、遠ざかる凌先輩に手を振る。
「また、また後で行きますから! 先輩!」
「あはは、またね。遥、あんまりいじめるなよ?」
先輩の爽やかな笑い声が背中に届く。
それなのに、私を引く遥の手の力は、教室に向かうにつれて少しずつ強くなっていった。