テラーノベル
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教室に戻っても、私の心臓はまだバクバクと騒いでいた。
自分の席に座ってからも、先輩に触れられた頭のてっぺんをそっと押さえてみる。まだ熱が残っているみたい。
「……いつまで浸ってんだよ。前髪、ぐちゃぐちゃだぞ」
隣の席から、遥がシャープペンシルの先で私の肩をツンツンと突いてきた。
「ぐちゃぐちゃじゃないもん。もう、遥はいつも邪魔ばっかりして! 先輩といい感じだったのに」
「どこがいい感じなんだよ。あいつ、お前のこと近所のチビとしか思ってねーって。頭撫でるのも、犬かなんかだと思ってんだよ」
「失礼な! これから毎日同じ学校に通うんだから、ちゃんと女の子として意識させてみせるわよ」
私が鼻息荒く宣言すると、遥は心底めんどくさそうに頬杖をついて、窓の外を眺めた。
「……ふん。マネージャーだっけ? お前みたいな運動音痴、一日で熱中症になって倒れるのがオチだ」
「やってみなきゃわかんないでしょ。遥は、私が先輩に近づくのがそんなに嫌なの?」
冗談のつもりで茶化すと、遥はピタッと動きを止めた。
そして、ゆっくりとこちらを向いた彼の瞳は、いつになく真剣で。
「……嫌とかじゃねーよ。ただ、お前が勝手に期待して、勝手に傷つくのが……」
そこまで言って、遥は「あー、クソ」と小さく毒を吐いて顔を伏せた。
「……なんでもねーよ。せいぜい頑張れば」
ぶっきらぼうに投げ出された言葉。
遥の耳の端が少しだけ赤いことに、私は気づかないフリをして、カバンの中からこっそり『恋が叶うリップ』を取り出した。
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