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「な…………っ」
何でこの人がここに!?
早く閉めないと!!
ドアをおもいっきり引くも、閉められない。長谷川奏人が自分の足を玄関の扉の隙間に挟めているからだ。おかげでドアが閉められない。
「ねぇ、なにそのえっろい下着。そんな格好でドア開けちゃダメでしょ? 襲ってくれっていってるようなモンだよ」
「…………ッ、違う……これはヒロシに………」
「ふーん? でも、秒で帰ってたよね? まあ、いいや。部屋の中入るよ」
強引に足を踏み入れては、ドアを開けて入ってきた。長谷川奏人はそのまま玄関のドアを閉め、鍵を掛ける。
……………どうしよう、どうしよう、どうしたらいいの!?
警察………!?
ヒロシ……!?
「ハハッ。そんな顔しないでよ。取って食おうとなんかしてないから。ただ、ちょっとね。ほら、連絡先も知らないしさ」
「だからって家の中までは普通来ない……」
「あーうん。玄関先で少し話せればって思ってたけど川口さん……いや、凪ちゃんのそんな格好見たら、ね?」
『しょうがないよね?』と、微笑む長谷川奏人に血の気が引く。
「…………私は何も話すことありません。帰ってください」
ムカついて、悔しくて、情けなくて。
湧き出るイライラを長谷川奏人にぶつけてしまっている。
「何をそんなに怒ってんの? それより、ちょっと急がないと。凪ちゃん外出る準備して? 帽子とかサングラスとかあるかな? あったら変装用に持ってきて」
「は? 何で……」
「彼氏を追いかけるよ」
ヒロシを? なんで? 話にきたんじゃないの?
目をまん丸くして、突っ立っている私のパーカーを手慣れた手つきで脱がせる長谷川奏人。
なにをするのかと体を硬直させていると、自分が着ていた厚手のパーカーを私に被せ、勝手に衣類のクローゼットを開けては、ズボンを手に取り強引に履かせられた。
「今から凪ちゃんの彼氏は浮気相手と会うよ。間違ってたらもう凪ちゃんにつきまとうのはやめるよ」
「え、な、なんでそんなこと………」
「ただの勘。正しかったら凪ちゃんはオレのものになってもらうからね」
『ただの勘』なら当たるわけがない。
ヒロシは友達と会うって言って家を出たんだ。嘘をつくはずない。
私は最後までヒロシを信じる。
「行かないなら彼氏の浮気を認めたってことで、いますぐここで襲うよ?」
「……分かった。行く」
大丈夫。大丈夫、大丈夫、大丈夫。
ヒロシは私を裏切るような人じゃない。
帽子とサングラスを身に着ける。
『行こう』と手を引かれ、長谷川奏人に着いていくように小走りで走る。迷いなく歩く長谷川奏人に、私は足を止めた。
「まって、どこ行くか分からないじゃん……」
「だから急いでって言ったの。ほら、走って」
足を止める私にお構いなしに、長谷川奏人は私の腕を引いて、再度走り出した。
息を切らしながらどこまで歩いてるか分からないヒロシを追う。
「…………あっ!!」
見つからないかもと思っていたけど、案外早く見つけてしまった。アレは間違いなくヒロシの背後だ。スマホを見ながらウキウキ気分で歩いている。
……………友達だと、信じたい。
見つからないようにヒロシの後を、長谷川奏人と追いかける。
電車に乗り、二駅ほど移動してしばらく歩く。
ヒロシが足を止めた場所は、とあるコンビニだった。どうやらここで待ち合わせをしているらしい。
ヒロシはコンビニには入らず、待ち合わせの友達への電話なのか、通話をし出した。
何を喋っているのかは分からないけれど、一人の女の人がヒロシに近寄った。
髪がボブで茶色の髪の、派手目な女の人だった。
長谷川奏人は、私へ以前見せてきたヒロシの写メをまた私に見せる。
同じ人だ。ヒロシが待ち合わせしていたのは、腕を組んでいた女の人だった。
……でも、友達かもしれない。
――信じたいけれど『久々に会う友達だから』と言っていたのを思い出した。
この前その子と会ってるじゃん。久々じゃないじゃん。
不満を募らせる中、ヒロシと女の人は歩き出した。
長谷川奏人は私の腕を引くけれど足が進まない。行きたくない。事実を受け入れたくない。
………ヒロシが持っていた高級店の紙袋。そのプレゼントは今、横にいる女の人にあげる物だということも理解した。
アレは友達じゃない。
「奏人さん、行きたくないです……」
「まだ分かんないよ? じゃあ、二人が飲食店に入ったら友達ってことにしようか」
「…………飲食店」
「友達同士だったら一緒に飯食って、そのまま解散でしょ。このまま飲食店に向かったら、オレは凪ちゃんを諦める」
「……………分かりました」
二人が飲食店に入ったら友達……
飲食店に行く確率はどれくらいなんだろう。
仮に飲食店に入ったとして、その場で解散する確率もどれくらいなんだろう。