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#Whimsical開館中 という企画に参加させて頂きました。 1作目の「終点までの春」、お楽しみいただけましたでしょうか。 タイトル提供は林檎さんです。ありがとうございました。 全提供タイトルを少しずつ公開していきますのでよろしくお願い致します。 エルナ
『恋の終点はどこにあるのか』
僕はその見出しに引かれて本を手に取ってぱらぱらと内容をさらっていた。
「……っふ、恋愛なんてロマンチックな妄想でしかないのに、くだらないわね」
声が聞こえた僕は本から声を発した女性の方に視線を動かした。
「……そうですかね?僕はそう思いませんよ?
駆け引きしたり、夢中になって自分磨きしたり、そういうの、良くないですか?」
「ふーん、あなたは私の意見を否定するって訳ね?
まあ別にいいけど。
と言うより、私にそんなに自分の考え話してくれるってんなら、貴方、恋愛したこと、当然あるんでしょうね?」
「……それは……」
僕はあまり人と関わるのが得意でなく、一人でいる方が好きだった。
……否、一人でいざるを得なかったとでも言うべきか。
「昔から、そういうことに縁はありませんでしたが、小説は好きなので……
そこから意見を話しましたよ。何か問題が……?」
「……あっそ、ないんだ、ふーん?
まあそうだよね、見た目からして恋愛したことないですって言ってるようなもんだし?」
「それは失礼すぎませんか?初対面の人に対してそんなこと言うべきじゃな」
「初対面じゃないでしょ?
わかんないの?私、貴方と同じクラスだよ?」
……え?
「噂通りほんとに隣に座ってるクラスメイトも覚えられないのね……私、貴方の隣の席なの。香澄って呼んで」
僕が話終わる前に割り込んで絶対にありえないことを口にした彼女は何事も無かったかのように話を続けた。
……え?
香澄と名乗った目の前の女性は確かに同じ高校の制服を着ていた。
……が。
───本当にこの人は僕の隣の席なのだろうか?
────もしかしたら僕に直接近づくための嘘?
否。後者は絶対にない。僕は根っからの陰キャで女子に話しかけられるようなタイプではない。
前者は……明日にでも覚えていたら確かめるとしよう
「おーい???大丈夫??」
あ、そうだ、僕はこの隣の席の人(仮)と話してるんだった。
「あぁ、少し考え事をしていて」
「ふーん?本当に私が貴方の隣の席か疑ってるって訳だ?」
「な、違うよっ!!」
「何が違うの?」
「全部っ!!」
「顔に書いてあるよ、合ってます〜って。
貴方、結構わかりやすいのね」
悔しい。この女にペースを崩されている。僕はそんなに単純な男じゃ無いはずだ、ちゃんと言い返せ、自分!
「違うよ、早とちりしすぎじゃないの?」
あえて落ち着いた口調で話してみたが、どうだろうか
「そうやって急に落ち着いた口調で話すのが益々怪しくなるって分からないのかな?
ふふっ、貴方って思ったよりも面白いのね」
「な、僕はそんなに揶揄うほど面白い人じゃないぞっ」
「ううん、面白いよ。初めて話したけど、こんなに打ち解けてくれると思わなかったよ。
私バイトあるしそろそろ帰らなきゃ、じゃあねっ!」
「あ、うん、また明日……?」
彼女を見送ろうと本屋の外を見ると日の色が変わり夕暮れを示していた。
太陽が水平線という終点にたどり着く頃には、恋の終点にたどり着くかもしれないと期待を膨らませた僕は、あの見出しの本を手に取ってレジに向かった。
───僕の春と、この本の春。どう違うのか、試してみないとなあ
「これ、ください」