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私の目から大粒の涙がこぼれてくる。
溢れてくる気持ちを抑えることができなかった。
「仁美は、私の夢だけじゃなくて、私の最低なところや汚いところ、全部受け止めてくれたのに。なのに私は、私の都合で約束守ってあげられなくて。頑張っていた仁美に冷たくして、酷いことたくさん言っちゃって。だから、私は、仁美に殺されても仕方ないかなって……。だから、仁美の気が済むならって……。でも、やっぱり私、死にたくなくて。だから、また仁美の事を傷つけたりして。私、もうどうしたら……」
みくりは、一花の懺悔に対していっさい口を挟まずただただ聞き続けていた。
その視線は乾いていて、つまらないものを見る眼差しだった。
私の話が終わると、
みくりは大きくため息をついた。
「はぁ、分かった、もう充分。もうなにもかも辻褄が合っちゃったわねー」
「やっぱり、仁美が憎んでるのって私ですよね。ううん、恨まれて当然だと思ってる。あの子はただ、私と一緒に夢を追いかけようとしていただけなのに。私はあの子の気持ちを徹底的に踏みにじってしまった。みくりさん、私があの子に殺されれば、彼女の恨み、晴らせるんですか?」
「アンタ、勘違いしてるわ」
「え?」
「アンタは自分のワガママのために、仁美の心を深く傷つけた」
「……………………」
「でも、それはイコール、仁美がアンタを憎む理由にはなってない」
「え?」
「まぁ、傷付いて深く悲しんでたのは当然だけどね。でもね、仁美がアンタに向けているのは、愛憎がないまぜになった、いびつで狂った愛情よ。もちろん、このままだとアンタは仁美の狂気が伝染して、魂が食われて廃人になる。でも、アンタが死んだところであの子の恨みは晴れないわ。はぁ、何もかも裏目に出ちゃったわね。こんなことならお姉さん風吹かして安易にあの子をデビューなんかさせなきゃよかった」
「それってどういう……」
「一花、一つ聞かせて。あなたにとって仁美は何? ただの友達? それともストレスのはけ口のための便利な道具? それとも、ほんのちょっとでも、あの子と同じように恋愛感情を持っててあげたの? あの子にとって、一番大事なのはそこなのよ?」
「……………………」
そう訪ねられるが、今の私は、いろんな感情が入り混じってまったく整理がつかない。
「そんなの、もう考えたって意味なんかないですよ。それにどうせ仁美は死んじゃって、私は仁美に恨まれてる。だったらもう、私が自己中なワガママで振り回したのと同じように、私も仁美のワガママに振り回されてあげれば……」
「はぁー。アンタは何も分かってないのね。あのね、そもそもあの子が本当に恨んでいるのはアンタじゃなくて――うっ!」
みくりが突然苦しそうな声を上げて、自分の口元を抑える。
「みくりさん!?」
みくりは目からキャラメル色のドロついた涙をこぼし始める。
嘔吐をこらえるようにえずきはじめ、こらえきれなくなったみくりが口から手を離した瞬間に、
「ぐえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
口から粒状のキャンディを大量に吐き出した。
「――――ッ!」
それはアイスクリームのフレーバーとしてちりばめられるような砂粒のようなキャンディーだ。
原色の派手な色をした色とりどりのキャンディがみくりの口から吐き出される。
さらにはみくりの目や鼻、耳の穴からはキャラメル色のドロついた液体が溢れてくる。
どれだけの苦痛を感じているのか、みくりの端正な顔が醜く歪む。
そして気付けは、みくりの頬にはサソリを模したハート型のアザが浮かんでいた。
「一花ちゃんの時間を奪わうみくねぇは――」
「――――ッ!」
みくりの背後に突然現れた仁美。
「アイスクリームになって溶けて消えちゃえ」
「がは――!」
みくりの身体が、突如アイスクリームのように溶け始める。
「ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
断末魔の声とともに、みくりだったそれは、まるで地面にべちゃりと落ちたアイスのかたまりのように潰れ、そして溶けていく。
「あはっ♪ あはははははははははははは♪ 一花ちゃん、みーつけた♪」
「ひっ、いぃっ…………」
「フフ♪ 怯えてる一花ちゃんも可愛いなぁ♪ 震えてる声も、かわいい♪」
「なんで、なんで、こんなこと……」
死んだ。
目の前で人が死んだ。
仁美に殺された。
おぞましい死に方をしたみくりを見て、私はもう錯乱していた。
「なんでって、言ってるじゃない。私は、一花ちゃんの時間を独り占めしたいの。私と一花ちゃんは、ずーっといっしょ♪ ずっといっしょ♪ あはは♪ 邪魔するやつは全員殺しちゃうの♪」
「う、うぅ……」
「ねえ一花ちゃん、一花ちゃんも死んだら私と同じになるのかな? そうしたら、私一花ちゃん、ずーっと一緒にいられる?」
「ひっ――!」
罪悪感に負けて、私は仁美に殺されてもいいとさっきまで思っていた。
たがさっきまで感じていた罪悪感すら吹っ飛んで、私は狂乱した。
「いやだ! いや! 死にたくない! 助けて!」
私はみっともなく命乞いをしてしまった。
「あはは♪ 一花ちゃん、そーいう声も出せるんだねー♪ もっと聞かせてよ、一花ちゃんの声♪」
そう言いながら、仁美の手が私の顔に触れる。
彼女の吐息が感じられるほどに、彼女の顔が近い。
――と、
「うぐっ――!」
「逃げなさい! 一花!」
アイスのように溶けて消えたはずのみくりが背後から仁美を拘束した。
「みくねぇ!?」
「私の魂が消え去るまで、なんとか仁美を抑え込む! 私が調べたことは全部貴方にゆだねる! 仁美の魂を救って永眠させるの!」
「みくりさん……」
「ああ、一花ちゃん――」
みくりは再びアイスのようにドロドロに溶けて消える、仁美を巻き添えにして。
そして仁美とみくりは溶けて消え去った。
呆然とする私。
まるで何もかもが嘘だったかのようだ。
学校にも生徒はおらず、まるで私一人だけが取り残されたようだ。
私は精神的にも肉体的にも限界で、もう何も考えられず……、
私は家にたどり着くなり、そのまま倒れるように眠ってしまった。
やがて目を覚ますと、ポストに郵便の封筒が届いていることに気付いた。
それは仁美のカセットテープと、それからみくりが書いた手紙も入っていた。
そこには仁美の負の想念の根源、私が知らない事実が端的に記載されていた。
みくりの手紙を、私は落としてしまう。
「…………そんな」