テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
平和に生きたい。ただそれだけの思いでずっと心臓をドク突かせる。ファントムは野蛮で恐ろしいものであるから他の人に鎮圧を任せる、誰かが怪我するを見るのは嫌だから庇いに行く。話が通じる奴ならどんなのでもまずは対話を試みる、ダメそうだったら裸足で逃げ出す。
そうやって生きて、そうやって死んで、鏡に映る自由な私と、実際の私を私たらしめる屈服した私と、遅れてやってきた私。それぞれが手を繋いで輪になって。語り合う。そこには私しかない。私でしかない。これは。なんという陶器だろう。なんという実像だろう。私は私の意思を持ってして普遍的に孤独な平和主義として封鎖するのだ
そう思い始めたのはいつだったろうか、いや。振り返るほど遠いことでもない。だが振り返らねば、人間は普通そういうものだから。
それこそ、それは初めて(いつもと比べ一寸だけな具合だが)大きめの迷宮へと、対調査探索者として出向いたときであったと思う。
そのときやっと補助が終わり3級になれたぐらいだろうか。確か同じ3級だが歴では私よりもずっと上の先輩と共について行ったと思う。
これがまた非常に傲慢で不遜で高飛車な人のようだった気がする、まぁだからとて私は居飛られるなんてことは全く無く、ただ荷物持ちをやらされて武勇伝を永遠と聞かされるぐらいであった。
それから程なく手に、大体発掘も終わり、もう帰ろうとした時だったと思う。突然地面が割れたと思ったらここには居ないはずの、おおよそ大型と言っても差し支えはない程の規模のファントムが出てきて、その巨体で隣にいた先輩を殴り飛ばした。あまりにも一瞬の出来事過ぎて、まるで誰かの記憶の一場面でも覗き込んでるような。そんな他人事の様な気持ちでしかいることが出来なかった。それからファントムがゆっくりとこちらに向かって歩き出してきたぐらいで、私はやっと事態を把握することが出来た。それと同時にファントムの股下を走って潜り、急いで先輩の元に駆け寄る。先輩は口をはくはくとさせながらしきりに増援を呼べ私を置いて逃げろと言われたが、当時の私はファントムと人死にの両方の恐ろしさに駆られ話も聞かずに抱きかかえて出口へと全力疾走していた。途中に何度も何度も後ろから追ってくるファントムに吹き飛ばされて引き裂かれてぶん殴られていたかは覚えていない。
結局、街に戻ってから意識を失った私は仲良く先輩と共に病室で寝かされていた。隣を確認したときに目が合って気まずかしい気持ちが込み上げ、あの、と。声を出す前に先輩が話しかけてきた
「なんで、私の言う事を聞かないで助けた?」
答えることは出来なかった。目上の者に対する言葉遣いを知らなかったってのもあるが。恐ろしくてそうしましたなんて言ったらそれこそ、この世の嘲笑と言う嘲笑を全て投げつけられたような目で見られることは絶対であったろうし。そうして黙っていると、彼女は憂いを帯びたような息を一ツ吐き出した後、続けた。
「お前は烏瞰図だな」
はい?と、思わず声を出していたと思う
「烏瞰図…、とは?」
「鳥瞰図には目があるだろ、だけど烏瞰図にはな、目がないんだ。目がないのに、あるように見下ろしてるんだ。」
「まるでオマエだ。…まるきり、オマエを写した様な言葉だと思わないか。」
言っている意味が何一つ分からなかった。だが、何故かその言葉を聞いた瞬間。今までにないぐらい心がドキンと飛び跳ねた。それが本当に私の本質であると、自分の本質を知らないままくっついて引っ付き回っていていた私には、それは堪らなく魔性の魅力があるように感じたのだ。
烏瞰図
烏瞰図ですか
そう、私は鸚鵡の様に2度繰り返した。
たった、二言。繰り返しただけだが、その二言だけでやっと私と言う虚像が鏡に映りだすようになったと思う。
それからは、ずっと。自分の中に鏡を飾ることが出来た。その言葉を私として平和を愛する私を虚像とし映せた。破れた壁紙に死にゆく蝶を見るような。それは幽界に絡み合う秘密の通話口の様な。烏瞰図を癒着させ、私を私たらしめ、いつしか烏瞰図が私となっていた。
私は平和を愛する。目の無い烏として、蔓延る死から目を背けて、そんな事象はないというように。平凡を愛し、言葉を交し、傷つけられる者に翼で覆ってやる。それこそが烏瞰図であり、それこそ私の映る鏡と言う瑞夢だ。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!