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第二十六話 見つかってしまったものへ
『わたしは、どうすればよかった』
海が軋む。
暗闇が揺れる。
未観測光たちが、不安そうに明滅していた。
でも。
その問いの中心にあるのは、怒りじゃない。
悲しみだった。
あまりにも長く、“いないこと”を選び続けた存在の悲しみ。
⸻
私は、すぐには答えられなかった。
だってきっと。
正解なんて簡単にはない。
見つかれば傷つく。
期待すれば苦しくなる。
好きになれば、失う。
それは本当だから。
⸻
でも。
それでも。
私は小さく息を吸った。
「……見つかってよかったんだと思う」
蒼い瞳が揺れる。
『……なぜ』
「だって」
胸が熱くなる。
「今、あなたの声が聞こえてるから」
空間が静まる。
私は続ける。
「苦しかったことも」
「寂しかったことも」
「“ここにいた”って、ちゃんと分かるから」
海が、小さく震える。
⸻
『……観測は』
深い声。
『欠損を生む』
「うん」
私は頷く。
「でも、繋がりも生むよ」
その瞬間。
周囲の未観測光たちが、淡く共鳴した。
『……つながり』
『ひとりじゃ、ない?』
『いても、いい?』
小さな声たち。
私は笑う。
「いいよ」
その言葉だけで。
暗い海の色が、ほんの少し変わった気がした。
⸻
伊織が静かにこちらを見ていた。
たぶん。
昔の図書館なら、こんな言葉は危険だった。
未練を増幅させるから。
執着を固定するから。
でも今は違う。
“存在していた時間”として観測するなら。
繋がりは、異常じゃない。
⸻
蒼い瞳が、ゆっくり閉じたり開いたりする。
まるで。
初めて呼吸を覚えたみたいに。
『……わからない』
その声は、少し幼く聞こえた。
『わたしは』
長い沈黙。
『どう、存在すればいい』
その問いに。
今度は澪が前へ出た。
胸元の恒星核が、やさしく光っている。
『……たぶん』
澪は少し迷いながら言う。
『最初から、うまくじゃなくてよかったんだと思う』
蒼い瞳が澪を見る。
『わたし、ずっと』
澪は苦く笑う。
『返したくないって、暴れてたから』
私は少し吹き出す。
伊織も小さく肩を震わせた。
澪が恥ずかしそうに続ける。
『でも、本当は』
星核が揺れる。
『消えたくなかっただけだった』
静かな言葉。
でも。
その言葉は、暗い海へゆっくり沈んでいく。
⸻
すると。
蒼い瞳の周囲に、小さな光が浮かび始める。
最初はひとつ。
それから無数。
未観測光たちが、海の底から浮上してきていた。
『……みえる』
『わたしたち』
『ここにいた』
声が重なる。
泣きそうな声。
安心した声。
やっと誰かに届いた声。
⸻
栞が静かに表示を更新する。
⸻
【未観測海域 定義変化確認】
【孤立領域 → 共有観測領域】
⸻
伊織が呆然と呟く。
「海域そのものが、変わってる……」
その時。
蒼い瞳が、ゆっくり細められた。
初めてだった。
それはまるで。
不器用に笑おうとしているみたいだった。
⸻
『……ああ』
深い海の声。
でも今は少しだけ、あたたかい。
『だから、朝が来たのか』
コメント
1件
うわぁ…第26話、読み終わったけど全然余韻から抜け出せないんだけど…!?😭💕 「見つかってよかったんだと思う」って台詞がめっちゃ刺さった…。ずっと孤独で、見つかる=傷つくって思ってた存在が、初めて「いてもいい」って許される瞬間の描写が美しすぎて泣ける。海の底から浮かび上がる未観測光たちの描写とか、視覚的にすごく鮮やかで、心が震えたよ…。 それに澪の「消えたくなかっただけだった」っていう告白もグッと来た。最初は返したくないって暴れてたのに、本当はただ存在したかったんだって…もう、その不器用さが愛おしすぎる🥺💕 海域が「孤立領域」から「共有観測領域」に変わったところとか、もう設定の奥深さに感動しちゃった。続きが気になりすぎる…!!
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