葛葉side
「サーシャ!行きますよー!」
「待って、おかあさま!」
「よーく聞いてね。今から人間界に行きます。私たちが吸血鬼ってことは気づかれちゃいけません。」
「分かってるよ!何回も聞いたもん!」
「羽出てますよ」
「あ、」
(心配…)
「ワープするからしっかり捕まっていてね」
「う、うん(ブルブル)」
「せーの!」
叶side
「パパ、ママ…」
(いつになったら帰ってくるの…?)
「寒いよ…」
(おなかすいたなぁ)
(ご飯、探しに行かなきゃ…)
ガチャ タッタッタッ
「お母様ね、今から少しお仕事に行ってくるからサーシャはこれでおいしいもの食べてね」
お金を渡す
「分かりました。おかあさま!」
「いいお返事」
「すぐに帰ってくるからこの道から出たらダメよ!」
「はーい!」
広い一本道の商店街には露店がズラリと並んでいる
「いちごあめ屋さん、、、」
「いやいや、他のお店も見よう」
「んぉ?」
店と店の間に大きなかたまりが見えた
しゃがんで見てみると、僕と同じくらいの男の子だ
「どーしたの?」
『…』
「だいじょーぶ?」
『…おなかすいた』
「え、」
『おながずいだ!!!』
その子は急に泣き出してしまった
(ど、どうすればいいのか分からない…)
「い、一緒にご飯食べないか?」
(おなかすいたって言ってたし…)
『…いいの?』
「いーよ、僕も友だちと食べたかった!」
『友だち?』
「うん!会ったら友だち!」
『………うん』
「名前は?」
『叶』
「かなえ…」
「いい名前だね、僕はサーシャ!」
僕たちはたくさん遊んだ。
歌を歌ったり、鬼ごっこしたり、僕のひみつも話した。
『サーシャ、背中のそれ…』
あ、羽出ちゃってる!
まぁかなえならいいか。
「僕ね、吸血鬼なんだ。」
『えっ?』
「2人だけのひみつね?」
『わ、わかった(2人だけのひみつ…//)』
何時間遊んでいただろうか
空はオレンジ色に染まっている
「サーシャ!」
おかあさまが僕を探す声が聞こえた
「おかあさまが呼んでる!そろそろ帰らないと。」
そう言ってかなえのほうを見ると、少し寂しそうで、
『もう帰るの?』
「またすぐここに来るよ!」
「またね!!」
『…またね』
約束して僕はかなえの元を去った
「おかあさま!おかえりなさい!」
「ごめんね、ずいぶん遅くなっちゃった」
「ううん、大丈夫!楽しかったから!」
「何してたの?」
「ないしょ」
「誰にも吸血鬼だって気づかれてないよね?」
「…うん!」
かなえとのひみつだから。
いつの間にかおなかはいっぱいで、僕はまた1人で帰り道を歩く。
『サーシャ…』
太陽みたいな男の子
嫌なことなんて全部忘れて遊んじゃった…
でも最後にサーシャがお母さんに呼ばれたとき、胸がチクっとして。
『僕にはサーシャしかいないのに』
1週間後…
「おかあさま!僕も連れてってください!」
「前は1人になっちゃうから連れていったけど、今日はお父様もいるのよ?」
「向こうで食べたいちご飴が美味しくて…」
「また食べたいな…」
「うっ…(かわいい…)」
「しょうがないわね…今回もいい子でいること!約束ね。」
「うん…約束!」
「じゃあちゃんと捕まっていてね。」
「せーの!」
『サーシャ、まだかな…』
あれから毎日待っている。
晴れの日も、雨の日も、風の日も。
サーシャはもう来てくれない…?
1人で丸まっていると、遠くで声が聞こえた。
「叶ー!」
『サー、シャ…?』
それはずっと待っていた大好きな声で。
『サーシャッ!!』
「うわぁ!?」
思わず走って抱きついてしまった。
『ご、ごめん!』
自分でもびっくりしてあわてて離れる。
「前はビクビクしてたのに、今日はかなえから来てくれたね!」
焦った僕とは裏腹に、サーシャはなぜか嬉しそうだ。
『もう、来ないのかと思った…』
「僕たち友だちでしょ?何回だって来るよ!」
やっぱり、太陽みたい。
眩しいくらいに優しくて、キラキラしてる。
でも僕は…
『ゔ…ぐすっ…』
「か、かなえ?どーしたの?」
なんでだろう、涙が止まらない。
「……」ドサッ
サーシャは泣きじゃくる僕のとなりに何も言わずに座った。
『ごめん…』
それしか言葉は出てこなくて、
サーシャのとなりで泣き続けた。
どれくらい泣いていただろう。
泣き疲れた僕は、自分でも分からないこの気持ちをサーシャに伝えることにした。
『うちのパパとママが仲悪くて、パパが出ていったあと、ママと暮らしてたんだけど、ママも男の人と出て行っちゃって、寂しくて、それで、サーシャと会って、楽しかった、でもお母さんと仲良しなサーシャを見て、胸がチクっとして、僕にはサーシャだけなのに、サーシャにはいるんだって、、、』
やっぱりうまく言えない。
「……」ギュッ
暖かい。気づいたら抱きしめられていた。
「まだかなえのことほとんど知らない。」
「でも友だちだから、つらいなら助けたいし、困ってたらいっしょに悩みたいよ!」
「かなえの笑ってる顔が好きだから、さ、」
『んふふ』
言い終わって少し恥ずかしそうなサーシャに思わず笑ってしまった。
「なっ、んで笑うの!?」
『ふふ、あははははは!』
「は!?」
サーシャが一生懸命僕のことを励まそうとしてくれてる。
その不器用な言葉がすごく嬉しかった。
『ありがとう!、っふふッ』
「まあ、笑ってるからいい…のか?」
これからどうやって生きていこうか、まだ分からない
でも今はこれでいいや。
「かなえー!」
『サーシャ!!』
タタタッ ギュッ
「ぐへッ」
「ぐるじい…いつも勢いが…」
『えー?サーシャがカリンチョリンだからかな?』
「かなえも変わらないでしょ!」
『一緒にされたくないなぁ』
「(ꐦ°д°)」
『顔、顔がw ごめんごめん!』
「次は無いよ?」
サーシャはたびたびここに来てくれて毎回僕と話して遊んで帰っていく。
ずっと一緒に居たい、だけどサーシャは人間じゃなくて吸血鬼だもんね。
(そんなこと分かってるよ)
今は、今だけはこのままで。
「行ってきます」
「お母さま!僕も連れてってー!」
「うーん…」
「ねぇねぇ、いつも私がお仕事に行っている間は何をしているの?」
「遊んでるよ!」
「1人で?」
「…うん!」
「そうね…ならいいのだけど」
「吸血鬼だって気づかれたらどうなっちゃうか分かる?」
「うーん、追い出されちゃうとか?」
「それなら良いほうよ。」
「捕まったり、殺されちゃうかもしれないの」
「え…?」
「そんなところでサーシャは遊んでいたのよ」
急にまわりが寒くなったように感じた
ブルブルブル
「ごめんね、怖がらせるつもりはなかったの」
「とても大事なことだから話しておかなきゃと思って」
そう言ってお母さまは僕をぎゅっと抱きしめた
(あったかい…)
「それでも行きたい?」
(怖い…でも僕は、、、)
「行く!」
かなえが待っているんだ
「おはよう!かなえ!」
『サーシャ!』
タッタッタッ ギュッ
「ぐふッ( ◜ཫ◝)」
『今日は何する?』
「いや、勢いが…」
『何する?』
(聞いてないなこれ)
「決めてない…」
『それならさ、!』
『やりたいことあるよ、僕!』
「え!?何!」
『それはね〜僕の家にあって…』
「かなえの家…」
まだ僕たちは遊びでこの商店街から出たことがない
お母さまにもたくさん言われているし…
でもちょっとなら、、、
「いーよ!行こう!」
僕は初めて、外に出た。
1歩踏み出すとそこには別世界が広がっていた。
本で読んだことがある、「車」が走っている。
「かなえ!あれなに!?」
『光ってるのはね「信号」って言ってみんなが安全に通りやすいように置いてあるんだよ』
「すっごい…」
『サーシャー!早くー!』
気がつくと、遠くからかなえの声が聴こえて、急いで声の方へ向かう。
その時、
『危ない!!』
え、、、
横を見ると大きな「車」が目の前にあった。
振り返るとサーシャはかなり遠くにいて、
信号は赤になっていた。
『危ない!!』
必死に走っても追いつけるはずもなく。
(ぶつかる…!)
そう思ってギュッと目を瞑った。
…………
『あれ…?』
音がしないので恐る恐る目を開けてみると、そこには
「か、かなえ…」
羽を生やして飛んでいるサーシャが泣きそうな顔でこっちを見ていた。
目が燃えるような赤に染まっている。
「ど、どうしよう、僕…」
怯えてる…?
(えーっと…サーシャは吸血鬼で、とっさに飛んで車を避けて、おかげで助かって、でもたくさんの人が見ていて、僕は知っていたけど他の人は吸血鬼ってこと知らなくて、吸血鬼を良く思っていない人もいて)
つまり、、、
(まずい)
僕は急いで駆け寄って、庇うように前に立った。
そして驚く。
これが、君の見ている景色…
大人たちの目には、怯え、好奇心、敵意、様々な感情が滲んでいた。
どれをとっても不快なものでしかない。
気がつけば、僕たちにカメラが向けられていた。
『行くよ!』
サーシャの手を取って走り出す。
サイレンの音が近づいている。
守らなきゃ、とにかくそう思った。
「2人共ー!止まってくれる?」
子供の足なんてたかが知れていて、すぐに大人に追いつかれてしまった。
何台かのカメラに追いかけられている。気持ち悪い。
「あ、ぁ、、、」
パニックに陥っているサーシャを宥めるように手を強く握るも、彼は震えたまま。
『止まりなさいって!』
もう、限界…
『!?』
突然の強風に、数m吹っ飛ばされる
『痛っ』
(サーシャは!?)
そう思い前を向くと、
髪は伸び、目は赤く充血し、牙を覗かせる吸血鬼の姿がそこにはあった。
「触るな…かなえに触るな…!」
パトカーから降りてきた大人が、銃でサーシャを撃とうと構える。
その場から動けない。
次の瞬間、
「何やってんのよ…!」
空から来た大きな影がサーシャをさらっていく。
一瞬だけ見えたそれはサーシャのお母さんらしき影だった。
『………』
僕の目の前にいた大好きな友だちは、もう、いない。
「大丈夫!?怪我してない?」
大人が駆け寄ってくる。
もう感情はぐちゃぐちゃだった。
気持ち悪い
僕はその場に嘔吐して意識を手放した。
「か、かなえ…」
「助けなきゃ…」
「いい加減にしなさい!」
お母さまに思いっきりほっぺたを叩かれた。
痛い
「あんなところで何してたの!」
「出ないでって言ったよね!?」
「気づかれちゃダメだよって言ったよね!?」
「で、でも」
「もう人間界には連れていかないからね」
「それはやだ!」
「頭冷やして考えなさい」
「なんでお母さまがこんなこと言ってるのか、分かったら出てきていいですよ」
ドサッ
部屋に放り込まれてしまった。
「もうかなえに会えない…?」
お母さまは僕を心配して言ってくれている。
分かってる。分かってるけど…
「身体…痛い…」
目を覚ますとそこは知らない部屋だった。
たぶん病院だと思うけど。
えーっと確か…
パパとママが帰ってこなくて家に1人だったはず…
そこを保護されたのかな?
頭にもやがかかったような感覚。
何かを忘れている気がする。
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