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午前中に読んだBL漫画はそっと折れないように段ボールに戻し、また違うBL漫画を五冊ほど取り出す。今から読めば六時までには読み終わる。そこから夜ご飯の準備をすれば間に合うだろうと考え、両手で大事にBL漫画を抱えてリビングに戻る。
「はぁ……良き」
深く息を吸い艶めいた溜息が出てしまう。つい漫画に集中すると息をするのも忘れてしまうくらい夢中になってしまう。
明らかに性格がツンとしている男が受けパターンとかもう最高でしかない。だって普段はクールなくせにエッチする時はトロンと甘えて受けとか尊すぎて……思わずため息が出る。
「って、もう六時!? やばいぃぃいい」
今から準備して八時までに作り終わるか!? 急いで部屋にBL漫画をそっと段ボールにしまう。(急いでいても絶対雑に扱わないのだ!)
「よし! やるぞーっ」
スマホに昼間検索したハンバーグのレシピを出しエプロンをつけ、手を洗う。準備は万端。
「えぇと、まずは玉ねぎをみじん切り……」
玉ねぎの皮を剥く。茶色い皮の次に白い部分が見えてくる。でもまだちょっと頭の上部分が緑色だ。もう少し剥いたほうがいいのかな? もう一枚剥いてみる。まだすこーしだけ緑。もう一枚。
「な、なんてこった……」
あろう事か元の玉ねぎの大きさから半分くらいの小ささになってしまった。ギャグ漫画じゃないんだから! って自分にツッコミたくなった。
「ま、まぁ玉ねぎは少なくてもい、いいよね! うん、お肉たっぷりハンバーグだ!」
「うぅ……目ぇ……死んだぁ……」
玉ねぎのみじん切りの洗礼にやられた。泣きながらちょっと大きめのみじん切りをボウルに移し合い挽き肉と生卵、牛乳を大さじ二杯、パン粉を二十グラム(この前の料理事件の後に計り機や計量スプーンを隆ちゃんがネットでポチってくれた)塩胡椒を少々……少々……
「また、少々って……なんなのよーっ!」
入れすぎてもしょっぱくなりそうだし、少なすぎても味がしないかもしれないし……
「調べればいいんだ!!!」
スマホに【塩胡椒 少々 どのくらい】と打ち込み検索する。
「えっと、少々は大体0.3グラムから0.5グラム……」
また計り機で計るのが難しすぎる量だ。心が折れそうになったけれど、美味しいハンバーグを隆ちゃんに食べて欲しい、よし! と気合いを入れ直して慎重に計り機で計る。
(デジタル計り機で良かったぁ〜)
捏ねて捏ねて捏ねて、ネチョネチョと粘り気のある音になってきた。
「はぁ……もう私って変態なのかも……」
お肉を捏ねてるだけなのにネチョネチョ音がした途端にドクンと心臓が高鳴り隆ちゃんとのエッチを思い出してしまうなんて……もう変態確定だよ……
はぁ、と溜息をつきながらパンパンとレシピ通りハンバーグの空気を抜く。
「はぁ……ハンバーグ作ってるだけで妄想膨らむとか変態すぎるよね」
フライパンに油を大さじ二杯いれ火をかける。ゆっくりとハンバーグをフライパンに入れるとジュウと音が鳴る。焼かれているって感じだ。
「えーっと、まずは片面に焼き目がつくまで焼く」
何度も何度もフライ返しでチラッと覗き見て確認した。よし、きっと大丈夫。フライ返しをハンバーグの下にスルリと入れよいしょっとひっくり返す。
す、凄く緊張した……驚く程の手汗。けれどひっくり返しの作業は無事に成功。はぁ、と安堵の溜息が出る。
「次は、蓋をして六分蒸すっと……」
ジュウ、ジュウとお肉の焼けていくいい音が蓋からはみ出して聞こえてくる。じっとフライパンの蓋から中の焼かれているハンバーグを覗き込む。段々と色がお肉の赤い色から白、そしてこんがり焼き目がついてきた。ピピピ、ピピピ、と六分を知らせるキッチンタイマーが鳴り火を消し、蓋を開けるとモワンと湯気が飛び出してきた。
お皿によそり、レシピ通り大さじ三杯のソースとケチャップをフライパンの中で混ぜで簡単デミグラスソースの出来上がりだ。
「え、凄く美味しそうにできたぁ」
ふっくらと焼けたハンバーグに艶々したデミグラスソースに食欲をそそられる。お、お腹すいたぁ。
「え!? もう八時!?」
ハンバーグ作るだけで二時間費やす私って……付け合わせにと思っていたブロッコリーは茹でていないし、人参グラッセもポテトも出来ていない。(当たり前か、作ってないんだから)
でももう夜の八時だし、隆ちゃんが帰ってくるかもしれない。ハンバーグだけをポツンと白い皿に盛り付け、ダイニングテーブルに並べる。
まだかな、まだかな、と思っている時ほど時間が長く感じるのは何故なんだろう。一秒は一分に、一分は一時間のように感じる。何度時計を確認しても五分と経っていなかったりする。
「九時か……」
冷め切ってしまったハンバーグにラップをかけ冷蔵庫にしまう。お腹が空いていたのが嘘みたいに食欲が湧かない。最近はずっと隆ちゃんと一緒に食べていたからか、やっぱり一人で食べるご飯は寂しい。
スマホを開き隆ちゃんの名前をタッチしメールを送る。
“何時ごろ帰ってきますか?”
全く既読にならない。初めての隆ちゃんとの音信不通に更に寂しくなった。
ソファーに座り直しもう一度スマホを確認するがやっぱり既読にはならない。
お風呂から出てスマホを確認するがやっぱり既読にならない。
大好きな漫画を読んでいてもどこか上の空。その世界にどっぷりと浸かれず何度もスマホを見てしまう。