自分の部屋って一番落ち着く。
六畳の正方形の部屋に、社会人になってから揃えたベッドと飾り棚と小さな机が置いて有る。
どれも平凡な家具だけど、カーテンとベッドカバーには拘ってアンティークな雰囲気のものを選んだ、お気に入りの空間。
バッグを床に放り投げ、ベッドにごろりと身体を横たえると、大樹の顔が脳裏の浮かんだ。
……プレゼントだって言ってたタルトを付き返したのはまずかったかな。
もしあれが本当に私宛のプレゼントだったとしたら、人として相当酷い行いをしてしまったことになる。
それに自覚もしている。
お母さんが眉をひそめるくらい、私の大樹に対する態度は喧嘩越しで良くなくて、いい加減、改めなくちゃいけないかなって……。
でも、そうやって考えても、顔を合わせると嫌悪感が浮かんでしまい結局冷たい態度しかとれなくなる。
だって、大樹こそが私の悩みの赤面症を痛烈に自覚させ、意識過剰を加速させた張本人なんだから。
あれは今から10年以上前。
中学生の頃の出来事だ。
私は隣のクラスの知的メガネのイケメン近藤君が好きで、何かと話しかけたりちょっかいを出していた。
用も無いのに隣のクラスに出向き、仲良い女子に話しかけつつ近藤君の様子をチラチラ見たり。運がいいと話したり。とても楽しくて、舞い上がり……まさに初恋。初々しくて、真剣だった。
けれどそんな日々は、ある日大樹が発した一言で呆気なく終わりを告げた。
お昼休みにいつもの様に隣のクラスに行き、近藤君にうきうきしながら話しかけようとした私に大樹は言った。
「お前、近藤に会いにうちのクラスに来るんだろ?!」
大樹の声は元々よく通るから、その発言は教室内に響き渡った。
クラスのみんなに聞こえてたと思う。
勿論、近藤君にも。彼はショックを受けたのか、とても困った顔をしている。
張本人の私は、誰よりも衝撃が大きくて、茫然自失の状態。
すると大樹は空気を読まずに、容赦なく追撃する。
「花乃って近藤と話してる時、顔が赤くなるよな! 耳まで真っ赤。お前近藤が好きなんだろ?!」
「……!」
大勢の人の前で気持ちを暴露され、私は夢中で教室を飛び出した。
信じられない、信じられない!
そればかりが頭を埋め尽くす中、ひたすら廊下を走る。
息が切れて立ち止まった場所は、偶然にも鏡の前で……そこに映る自分の姿に頭の中が真白になった。
私の顔は大樹が言った様に、顔全体が充血して恥ずかしいほど真っ赤になっていたから。
私……いつもこんな顔で近藤君の前に行ってたの?
これじゃあ大樹だけじゃなく誰だって私の気持ちに気付く。
血の気が引くってきっとこのこと。さーっと熱が引いて行き、足元がグラグラと揺れた気がした。
もう立ち直れない。
それ位、当時の私にはショックな出来事で、それ以降、私は近藤君に近寄らなかった。
廊下ですれ違っても、それまでみたいににウキウキと尻尾を振って話しかけたりしなかった。
話したら顔も耳も赤くなってしまうのが分かっていたから。
周りのみんなに気持ちを、知られてしまうから。
もうあんな恥ずかしい思いは二度としたくない。
傷付きたくない。
そんな気持ちがどんどん強くなり、それからの私は感情を表に出さない努力をする様になっていった。
少しずつだけど、効果が有ったのか、中学校を卒業する頃には近藤君と話しても顔は赤くならなくなっていてほっとした。
でもその事件以来私は大樹が大嫌いになった。
デリカシーの無い、嫌なやつとしか思えない。
あんなシャレにならない嫌がらせをして来るなんて、性格が悪いにも程がある。
昔のことを未だに引き摺っているのもどうかと思うけど、今でもその時の気持ちは忘れられなくて……。
大樹とはかかわりたくない。
仲良くなんて出来ない。
でも家は隣だから完全に会わない様にするのは難しくてどうすればいいのかわからない。
私は深いため息を吐いたのだった。
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