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🫧想美🎐🍏
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#だけなんだ
だけなんだ
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だけなんだ
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「今夜、ルージュがイベントに出る」
昼過ぎ。
しぇるたーの事務室で、霧矢がスマホを掲げた。
画面には広告が映っている。
《人気ヨガインストラクター 安西口紅 特別トークイベント》
白い服。
柔らかい笑顔。
整った顔立ち。
光に包まれたその姿は、まるで“救う側の人間”みたいだった。
鈴木の空気が変わる。
一瞬で。
部屋の温度が下がった気がした。
冬橋がその変化を横目で見る。
「場所は」
「ホテルグランヴェール」
霧矢は椅子をくるくる回しながら答える。
「スポンサー多め。芸能系もいるっぽい」
鈴木は広告を睨んでいた。
凛子を殺した女。
なのに。
世間では、“癒しのカリスマ”。
コメント欄には称賛ばかり並んでいる。
《綺麗》
《憧れる》
《生き方が素敵》
《涙出た》
《本当に優しい人なんだろうな》
鈴木は思わず笑った。
乾いた笑いだった。
「気持ち悪ぃ」
喉の奥が焼ける。
画面の中の笑顔が、血塗れて見えた。
霧矢が鈴木を見る。
「会うッスか?」
即答だった。
「行く」
「落ち着け」
冬橋が言った。
「落ち着いてられるかよ」
「今突っ込んでも終わりだ」
「お前、顔見ただけで殺しそう」
鈴木は否定できなかった。
実際。
今ここにルージュがいたら、何をするかわからない。
霧矢が笑う。
「まぁ実際、今の鈴木クンめちゃくちゃ怖いし」
「うるさい」
「でもさ」
霧矢はスマホを弄る。
「ルージュ側も、鈴木クン探してるかもね」
空気が止まった。
鈴木の眉が動く。
「……どういう意味だ」
「だって、生き残りッスよね」
霧矢は軽い声で続ける。
「ふるはうすでいずの」
その名前だけで、胃の奥が重くなる。
鈴木の脳裏に、昔の熱が蘇る。
暗い部屋でひとり聞いた、 大人たちの笑い声。
今でも鮮明に覚えている。
霧矢は机に肘をついた。
「ルージュって、昔の痕跡かなぁり消してるんスよね」
「まぁ、ふるはうすでいずだってことがバレてない訳ではないッスけど」
「……」
「動画も大半削除済み。関係者も口閉じてる」
冬橋が低く言う。
「金か脅しか」
「多分どっちもッス」
霧矢は笑った。
でも、その目は笑っていない。
「だから鈴木クンって結構レア」
鈴木は黙る。
昔の動画。
消された記録。
なかったことにされた自分を含めた子供たち。
まるで、“最初から存在しなかった”みたいに。
だが。
凛子は死んだ。
それだけは消えない。
絶対に。
「……なんで殺したんだろうな」
気づけば口から漏れていた。
冬橋と霧矢が鈴木を見る。
鈴木は俯いたまま続ける。
「凛子、何したんだよ」
崖の記憶。
雨。
冷たい体。
何もできずに、泣くこともできないまま死んでしまった。
霧矢が少しだけ真顔になる。
「知りたい?」
「……」
「多分、鈴木クンが思ってるよりずっと汚い理由だよ」
鈴木の眉が寄る。
「どういう意味だ」
霧矢は少し考える。
それから。
「ルージュってさ」
軽い声。
でも、妙に静かだった。
「“見捨てられる側”になるの、死ぬほど嫌いそう」
静寂。
時計の秒針だけが響く。
鈴木は昔を思い出す。
遊んでいるとき、
大人たちは、いつも口紅を褒めていた。
『口紅ちゃんは空気読めるね〜』
『賢いなぁ』
『将来芸能界いけるって!』
あの頃のルーは笑っていた。
嬉しそうに。
誇らしそうに。
愛されることに慣れた顔で。
でも。
凛子が映ると、少しだけ空気が変わった。
『凛子ちゃんほんと可愛い!』
『癒し系〜!』
『センター向きだね!』
『守ってあげたくなる!』
あの時。
ルーは笑っていた。
ちゃんと笑っていたはずなのに。
時々。
凛子を見る目だけが、妙に冷たかった。
笑顔の奥で。
何かが凍っていた。
鈴木の喉が動く。
「……まさか」
霧矢は肩を竦める。
「知らないッスけど」
冬橋が低く言った。
「憶測で動くな」
「はーい」
だが。
鈴木の頭には、その可能性がこびりついて離れなかった。
人気。
金。
注目。
愛される側。
認められる側。
もし。
凛子が“邪魔”になったなら。
「クソだな」
掠れた声が漏れる。
霧矢は鈴木を見ていた。
じっと。
観察するみたいに。
「ねぇ鈴木クン」
「……何」
「もしルージュが、“生き残るため”に凛子殺したんだとして」
静かな声。
「それでも殺す?」
鈴木は即答した。
「当たり前だろ」
霧矢は少しだけ目を細める。
「そっか」
その声は静かだった。
まるで。
鈴木の答えを、どこかで確かめていたみたいに。
ーーーーーーーー
夜。
ホテルグランヴェール。
眩しい照明。
磨かれた床。
スーツ姿の大人たち。
香水の匂い。
笑い声。
全部が綺麗すぎて、吐き気がした。
鈴木はスタッフ用の黒服を着せられていた。
「なんでこんな格好……」
「潜入だから」
霧矢がネクタイを適当に直す。
「似合ってる似合ってる」
「嬉しくねぇ」
冬橋はイヤホンを確認していた。
「騒ぐなよ」
「……」
「顔見ても突っ込むな」
鈴木は返事をしない。
拳を握る。
爪が掌へ食い込む。
その時だった。
会場の照明が少し落ちる。
ざわめき。
拍手。
歓声。
空気が一気に変わる。
そして。
ステージへ、一人の女が現れた。
白いドレス。
長い髪。
柔らかな笑顔。
光を浴びる姿は、まるで映画のワンシーンみたいだった。
安西口紅。
ルー。
鈴木の呼吸が止まる。
何年も追い続けた顔。
夢にまで見た女。
憎くて。
殺したくて。
忘れられなかった顔。
ルージュはマイクを持ち、優しく微笑む。
『皆さん、今日は来てくださってありがとうございます』
歓声が上がる。
拍手が響く。
鈴木の指先が震える。
視界の端が赤く滲む。
あの日の崖。
雨。
死んだ凛子の顔。
全部が蘇る。
ルージュの視線が、客席を滑った。
ゆっくり。
品定めするみたいに。
そして。
一瞬だけ。
止まった。
鈴木と、目が合った。
時間が止まった気がした。
周囲の歓声が遠くなる。
ルージュの笑顔は崩れない。
完璧な笑顔。
誰から見ても、美しい笑顔。
でも。
その目だけが、ほんの僅かに細くなった。
驚き。
困惑。
そして。
“理解”。
『——あ』
小さく。
本当に小さく。
彼女の口が動いた。
まるで。
“チョモ”と呼ぶみたいに。
コメント
1件
いやあ、第12話、読み終わりました……冒頭の「今夜、ルージュがイベントに出る」からの空気の変わり方、一瞬で引き込まれましたね。特に霧矢が「ふるはうすでいず」って言葉を出した瞬間の鈴木の反応、胃が痛くなる感じが伝わってきました。ルージュの"見捨てられる側になるのが嫌"っていう動機の示唆もすごく生々しくて……あの頃のルーの笑顔の裏に冷たい目があったっていう伏線がここで効いてくるんですね。ラスト、鈴木と目が合って「あ」って口が動くシーン、鳥肌立ちました。次が気になりすぎます……!