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わーい、やったー!

棚からぼたもちというか、ほとんど事故みたいなものだが、彼女ができた。しかしこんなんでいいのだろうか。なんかもっとこう、彼女イベントってフラグ構築やルート分岐が……ああ、こういうのがよくない。いかにもオタクっぽい思考回路。現実はそんなドラマチックな、いかにもな段取りはないのだ。多分、きっとそうなのだろう。

飛び跳ねたい気を抑えつつ、跡永賀は帰路を走る。体を思いっきり動かしていたかった。

「げほっ、ごほっ」

しかしそんな気分に体はついてこられず、わずか数秒で背を丸める。昔よりはマシになった体だが、それでも健康とは程遠い。普通の人間が容易にこなせる運動さえできないのだ。


「アットどした」

帰宅した弟と廊下で鉢合わせた初無敵が首を傾げる。「すっごく嬉しそうやね」

「まあな」

「女?」

「な、なんで」

「男の勘」

「まあ、そうかもな」

「ふぅん」初無敵は、跡永賀をじっと見る。「な、なんだよ」

「普通ならリア充爆発しろ、と不幸を願うところだが、可愛い弟のこと、ここはグッジョブと言わざるをえないな!」

「あ、ああ」

一番ゴチャゴチャ言いそうだと思っていた人間の言葉を素直に受け入れられず、跡永賀は曖昧に頷いた。


「それで、どこまでいったんだい? もう攻略済みなんでござい?」

「攻略って……ゲームじゃあるまいし。連絡先交換しただけだよ」

「まだ序盤じゃないか、つまらん」

「ああ、そうだよ、悪かったな」

こっちとしてはこうなったこと自体、奇跡みたいなものだ。それでも充分なのだ。

「そんな初心者のアットには、我が至高にして究極のギャルゲーを授けてしんぜよう」

「いらん」

すたすたと自室へ戻る跡永賀の背に、初無敵の声が迫る。「ただ、これだけは言っておく」たまにある、真面目な調子。「皆が皆、僕みたいにお前を祝ってくれるとは考えるなよ」

「なんだよそれ」

その言葉に、どこか底知れぬものを感じ取ったが、それをどうこう考える気はなく、ただ相変わらず変なことを言う兄だなと、跡永賀は思っただけであった。


部屋に戻り、特に何をするでもなく兄や姉からもらった本――漫画や小説――を読んでいると、時計の針が五時に近づいているのが目に入った。

「そろそろ、行くか」

一階に降りて靴を履いていると、目の前の扉が開いて姉が入ってきた。「いつものランニング?」

「うん。少しでも皆についていけるようにならないと」

「気をつけてね。苦しくなったら、すぐにやめるんだよ」

「うん」

彼女が『一緒に行く』と言わないのは、それを弟が嫌がり、断っている経験からであろう。跡永賀は、自分のせいで姉を苦労させたくはないのだ。


本当は自分も、本を読んでいる方が性に合っているのだが。

ひどくゆっくりとした速さで走る跡永賀は、そう思った。

兄も姉も、気がつけば何かしら本を広げている。初無敵は薄い本――表紙と中身は見なかったことにした――、姉は厚い本――ハードカバーというやつだ――、自分は、とりあえずそばにあるからということで、兄と姉のお下がりを暇つぶしに使っている。


読書家といえば聞こえはいいが……

「ヘタすれば暗い奴だよな……」

人と関わらず、本としか接しない。それはともすれば、内向的なだけに映る。実際、兄はともかく、姉が家族以外と話しているのを見たことが――いや、最近では自分としか話していないような。

考え事をしているのがマズかったのか、それとも単純に身体能力が低いのか、足が何かにつまずき、体が傾く。

やっばっ……!


「大丈夫?」

地面と激突するかと思ったが、それは横から差し込まれた腕によって止められた。「ああ、うん。どうも。奇遇だね」「そうだね」

今日から自分と交際している少女――赤山(あかやま)あかりから離れた跡永賀は、そばの建物に視線を移動させる。彼女は、ここから出てきたのだ。

「声優事務所……」

高いビルから突き出た看板に、そう書いてあった。

最弱テイマーの最強テイム~スライム1匹でどうしろと!?~

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