君の不幸を願う

ーーー店長の家ーーー

桃「……お邪魔します」

咲(妻)「いらっしゃい！」

橙「……お邪魔します…」

なんで……こんなことに……

咲(妻)「あら！桃ちゃんの彼氏？」

桃「…………ｺｸﾝ」

咲(妻)「まぁ！良い男じゃない！」

店長「まだ彼氏じゃないぞ！！！」

橙「……どうも、橙です」

桃「店長の奥さん、咲さん」

橙「桃ちゃんの事、助けてくれてありがとうございます」

咲(妻)「いいのよ！桃ちゃんはもううちの子なの、助けて当然よ！」

桃「…………//」

橙「ｸｽｯ……」(桃を撫でる)

かわえぇ

店長「橙くん、話がある」

橙「あっ、はいっ！」

店長「ここに座りなさい」

咲(妻)「あら、何の話？」

桃「……橙を、認めてないらしいです」

咲(妻)「……あははっ！何それ！あんな優しい子が桃ちゃんを酷く扱うわけないじゃない！」

桃「分かるんですか？」

咲(妻)「大人になると分かるものよ……大事な子を預けてもいいか判断する事ができるのよ」

桃「…………」

大事な……子……

咲(妻)「でも良かった……桃ちゃんに素敵な彼氏が出来て。橙くん以外だったら私も許可しないわ」

桃「……え」

咲(妻)「あいつから聞いたわよ、橙くん幼馴染なんだってね？」

桃「はい」

咲(妻)「言ってたのよ、あいつ。もしかしたら橙くんが桃の事を助けてくれるかもしれないって」

桃「…………」

咲(妻)「この先、桃が幸せになるには橙くんがいないと駄目なんじゃないかって、俺らじゃなく橙くんだって」

桃「…………」

咲(妻)「だからもう認めてるよ、橙くんのこと」

桃「……じゃぁ、なんで」

咲(妻)「最終確認じゃないかしら……さてと男同士での話は聞いてて飽きちゃうから、私達は夕飯作りましょう、手伝ってくれる？」

桃「はい！もちろん」

橙「…………」

店長「…………」

橙「……あ、あの」

店長「話、聞いたか？」

橙「んぇ？」

店長「桃の昔の話」

橙「……はい、聞きました」

店長「……桃は辛い思いしかしてない。辛いことの方が多い」

橙「はい」

店長「俺は桃に幸せになって欲しい。俺らで幸せにしようって言ってたんだ……」

橙「…………」

店長「だが…所詮、俺たちには桃を幸せにできてなかった」

橙「そんなことないです。桃が言ってました。店長さん達が親の代わりをしてくれたと。多分ですけど、桃は幸せを感じ取れないんだと思います。辛いことが多すぎたせいで……でも店長さん達のおかげで桃は愛を知ることが出来た…暖かい愛を……なので俺は桃に幸せを教えます。店長さん達と過ごした時間は幸せな時間だったんだよって」

店長「……お前……結構良い奴だな」

橙「え？」

店長「お前がへなちょこな奴だったら別れさせるつもりだったのに」

橙「えぇ！？酷いっす」

店長「当たり前だろ！俺は桃に幸せになって欲しいんだ！昔みたいな生き方をして欲しくない」

橙「……そうですね」

店長「……だからお前がどんな奴か、最終確認したんだ」

橙「………」

店長「俺はお前を最初に見た日に思ったよ。桃を幸せにするのは橙くんだって」

橙「！！」

店長「でも少し不安だった……あいつは愛を…勘違いしたままでいたから。いや……違うと分かっててもそれに縋らないと生きていけなかったから。そう思い込まないと駄目だったんだろうな……」

橙「………はい」

店長「だから、お前が好意を寄せても、あいつは勘違いしたままお前と付き合うんじゃないかって思った」

橙「……」

店長「そうなったら、あいつは本当に心が死んでしまうと思った……もし幼馴染の橙くんにまで捨てられてしまったらと思うと……怖かった」

橙「……はい」

店長「でもさっきの聞いて確信したよ｡今の桃と君なら大丈夫だ。俺たちの代わりに、桃を幸せにしてくれ」

橙「…違います。俺と店長さん達で桃を幸せにしましょう。店長さん達がいなかったら、桃と俺の関係はなかったと思います。本当に桃を助けてくれてありがとうございます。愛を教えてくれてありがとうございます。絶対に幸せにします。」

店長「……ふっ……そうだな」

桃「……話…終わった？」

橙「桃ちゃん！」

店長「おう、終わったよ」

桃「ご飯、ちょうど出来ました」

橙「え、俺の分も？」

桃「うん、咲さんのハンバーグ。超美味い」

橙「うわっ！楽しみやな！」

桃「早く来てね」

店長「わかったよ」

橙「確かに美味そうな匂いしますね」

店長「…橙くん、桃を頼んだよ」

橙「はい、絶対に幸せにしてみせます」

店長「行こうか」

橙「はい！」

咲(妻)「おそーい！冷めちゃうよ！せっかく桃ちゃんも作ったのに！」

橙「桃ちゃんも！？」

桃「手伝っただけ」

咲(妻)「こう見えて桃ちゃん料理上手いのよ？私が教えてあげたんだから！」

橙「確かに！桃ちゃん朝ごはん美味かったで！ありがとう！」

桃「ほんと？良かった……」

橙「桃ちゃんの朝ごはん食べたから学校頑張れたんやで！今日のテストだって絶対100点やで！」

店長「それはどうかな？」

咲(妻)｢テスト帰ってきてからのお楽しみね？」

店長「100点取ってなかったら許さないからな」

橙「うっ……」

桃「ｸｽｯ……楽しみにしてるな」

橙「ううっ……90点台かも……やん？」

店長「ほら、食べるぞ！」

咲(妻)「そうね、いだきます」

橙「いただきます！」ﾓｸﾞﾓｸﾞ

桃「…………」

橙「うまっ……お店のやつみたい」

店長「咲の飯は美味いから当然だ」

咲(妻)「あら、これほとんど桃ちゃんが作ったのよ？」

店長「……え？」

橙「まじですか！！！？すごいやん！桃ちゃん！」

桃「……へへ」

咲(妻)「あなた、私の作った味忘れたの？」

店長「忘れてないっ！咲が教えたんだから、咲と同じぐらい美味くて当然だろって意味だ！」

桃「咲さんの料理すごく美味しいです」

咲(妻)「あら、ありがとう！またクリームシチュー作るわね」

桃「ありがとうございます！」

橙「桃ちゃんクリームシチュー好きやったっけ？」

桃「……助けて貰った日に食べたのが咲さんのクリームシチューだったから……すごく美味しくて暖かくて……人の手料理が美味しいって感じたのが初めてだったから、好きなんだ」

橙「そうなんや、いっぱい美味しい物食べよな、これから」

桃「うん」

咲(妻)「本当にいい彼氏さんね、羨ましいわ」

橙「店長さんも素敵な方かと」

咲(妻)「この人、私より桃ちゃんの事ばっかりなんだもん」

店長「うっ……最近の桃は危うかったから……」

咲(妻)「それもそうね……」

桃「……ごめんなさい」

店長「でも、もう橙くんいるし安心だろ」

咲(妻)「そうね」

店長「俺の仕事が落ち着いたら、どこか行こう」

咲(妻)「桃ちゃん達も一緒にどう？」

店長「お前も桃の事ばっかりじゃないか！」

咲(妻)「だって2人とも可愛いんだもん！初々しい2人を見てたいじゃない？」

店長「……はぁ、そうですか」

咲(妻)「2人とも、行かない？」

橙「……桃ちゃんどないする？」

咲(妻)「今決めなくていいわよ、まだどこに行くかも決まってないし、また連絡するわ」

桃「はい、連絡待ってます」