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R視点での出会い編
幼い頃から、ひとりだった。
ひとりっ子だったし、飼っている動物たちと大好きな音楽があれば一人で過ごす時間は苦にならなかった。
寂しいって感情すら知らなかったのかも知れない。
君と、君の音楽に出会うまでは…
「俺とバンドやろうよ。俺と組んだら99%デビューしてみせるから」
音楽の世界で生きていこうと決めて上京したての春。
やけに堂々と大胆なことを言い放つ少年が僕を見つめていた。
皆んなが明日のスターへの夢を持って在籍している音楽事務所。
でもこんな風に、なんの衒いもなく、かと言ってハッタリにも思えない、強固な自信を纏っている人は初めてだった。
あまりにも純粋に自分の実力と未来を信じるその眼差しに、僕は思わず
「うん、いいよ」と答えていた。
彼、大森元貴に、まずは自己紹介からと渡されたCDには
「我逢人」と記されていた。
えっと…われ、あう、ひと?
なんのこと?なんて読むんだろう…
漢字の苦手な自分には到底理解不能なタイトル。
元貴くんって確か16歳って言ってたよね…?
戸惑いながらもプレーヤーにセットして、流れるその音を聴いた途端。
本当に本当に驚いて、驚いたことに気がつく間もなく、両目から涙が溢れ出していた。
「嫌いになった人は全部
少しの仕草でもダメになっちゃう
気づけば嫌い探しです
そんな私の憂いを綺麗に洗って下さい。」
どうして?
人の嫌なところを見たくないから
一人で居ることを選んだ自分。
それなのに…元貴の歌声はあくまでも優しく。
出会って、好きになったり、嫌いになったり、でも傷を癒し合うのも人と人で。
人は一人では生きていけないから。
僕が蓋をして見ないようにしていた醜い感情も、本当は誰かを愛したいと思っている気持ちも、どうして全部君には分かるの?
元貴の作る音と詞。
その瞬間から、それが僕の世界の全てになったんだ。
「りょーちゃん!」
音楽に関してはめちゃくちゃストイックで
たまに怖いくらいのこともあるのに
普段の元貴は年相応に可愛らしくて
甘えてきたり戯れてきたり
一緒にゲームをすれば負けず嫌いだし
ひとりっ子の僕にとっては、なんだか弟が出来たような嬉しさがあった。
高校までみっちりとクラシックを学んできた僕にとって、元貴の生み出す音楽は今まで触れてきたどんな音楽とも違って。
時にアイロニックに、でも根底には絶対的な愛のある歌詞には、心を打たれるばかりで。
知れば知るほど元貴の生み出す音に夢中になっていった。
キーボードという慣れない楽器でミセスに加入することになった自分。
あまりにもおぼつかなくて、あのキーボード必要?なんて言われてることも知ってる。
でも、元貴の曲をちゃんと届けたいし、誰よりも元貴の曲に救われているのは僕かも知れないから。
離れることなんて想像も出来なくて。
必死に練習して、しがみついて。
元貴の横で、元貴と肩を並べて、今日もミセスで居られるんだっていうことに喜びしかなかった。
「涼ちゃんはさ、たぶん、人の悪意にとても弱いんだろうな」
いつものようにダラダラと元貴の部屋で二人で過ごす夜。
なにかの話の拍子に元貴が言った。
「でも…涼ちゃんの優しさで救われない世の中をさ、少しでも救おうと、僕は歌ってるのかも知れない」
元貴はそう言って、可愛いエクバを見せてニカっと笑った。
3歳も歳下の男の子に。
こんなにも守られてるなんて….
思わず込み上げる涙を隠そうと、抱えた膝に顔を埋めると
隣に腰掛けた元貴が、何も言わずに僕の頭を撫でてくれた。
その手があまりにも優しくて、あたたかくて。
生まれて初めて、誰かと繋がった、と思った。
止めどなく込み上げてくる涙を抑えることもできずに、頭に元貴の手のひらを感じながら、胸の奥が切なく痛んだ。
あぁ、どうしよう。
僕は、この人のことが好きなんだ….。