am11:30
昼に若井と何気に言った言葉
「なんかラーメン食べたくね?」
急に無性にラーメンが食べたくなって口に出した訳だが若井も直ぐに同感してくれた
で、前から気になってた昔ながらのラーメン店に飛び込みで入った
そこで
「今晩あの風磨くんと飯行く事になってさ」
って若井にそう切り出された
あの、風磨くんな
うん、俺はよーく知ってる
「ふーん」
秒で出てきた醤油ラーメンを俺は特に興味なさげにすする
素っ気なく言うと(実際興味ない)若井は箸をとめムスッとした表情を作る
「俺はどうにかかわしてたんだよ、でも」
「でも?」
俺は箸を止め正面の若井をみる
ラーメンの湯気で曇ったメガネのまま(全然見えない)初めて興味を示すと若井は…ううーっと小さく唸る
「収録後に待ち伏せされてて…勝手に日にち決められた…」
そう言い大きく肩を落とした
若井単体の収録を狙って行ったって感じか…
ああ、そういうとこ風磨くんらしいな
若井は風磨くんの印象がかなり良くなかった様でかなり遠ざけている
別に俺は二人が仲良くして欲しいとかそんな事思っている訳では無いけど風磨くんの名誉の為に言っておこう思う
「若井が言う程風磨くん悪い奴じゃないけど 」
実際気さくでいい人だし
だが俺が風磨くんをフォローをするとすぐに若井は口を尖らせた
「元貴を誘拐しといて良い奴な訳ないだろ」
ああ、そんな事もあったな
つい先日あった俺の話だ
俺は誘拐された側だが今はそんなこともあった、と今はネタにすらできる
あの騒動後風磨くんから直ぐに謝罪があった
どうやら風磨くんの所属事務所にもこっぴどく怒られたみたいだから俺はそれ以上詰める事もしなかった
ちょっとびっくりしたけどまあ…よくできたドッキリだったと思う事にした
若井は頭を抱え…うあー、と声を上げた
「元貴もきてくれよー」
「やだ、俺呼ばれてないし」
若井にそう泣き付かれたけが即答しといた
まあ、行ってもいいかなって一瞬思ったけど面倒な気がしたし2人きりの方が断然面白そうだからやっぱやめた
っていうかまあ…予定あるし
「なあ…若井…」
俺はいつもより真面目な顔を作り若井の肩にポンと手を置くと一言言っといた
「頑張れー」
と最高の笑顔を作ってやった
「くそー!他人事だと思って!」
と物凄く悔しそうに言い定食のチャーハンと餃子を片っ端から頬張り始めた
***
そういや若井には言わなかったが
今晩俗に言うお偉いさんとの接待がある
マネージャーからではなく会社から直々に言われた命令みたいなもんだ
これは別に特別な事じゃない
それ系の接待くらい慣れているっちゃ慣れている
でも今回ばかりはなんか乗り気じゃない
でも…仕方ない
いつも以上におめかしして行かないとな
***
pm19:00
結局派手過ぎないナチュラルメイクとキレイめな色のスーツを纏って(送迎付き)超高級ホテルの窓際で俺は例のお偉いサンと食事をする
このホテルのこの場所とこの夜景はチョー有名だ
ちょっと行ってみたいなって思ってたけどまさかここで接待か…
「今日はありがとうございます」
最初に軽く挨拶をし席に着くと注文したヴィンテージの赤ワインを嗜む
お偉いサンは年は50代前半くらいだろうか
スラッとしたガッチリめのイケメンでヴィトンのスーツにヴィトンの鞄、ロレックスの腕時計が輝いている
そしていかにも金持ちだといったオーラを醸し出していた
「いや、会えて嬉しいな」
ワインの入ったグラスを手にそう言われると
「こちらこそお会い出来て光栄です」
俺はにっこり笑顔で返した
営業用の笑顔は得意だ
と、お偉いサンは舐める様に俺を見ると直ぐに
「いいね、テレビで見るより数倍美人だ」
と上機嫌で言われた
美人…美人か…マジか
俺れっきとした男だけど
これは喜んでいいのか
「ありがとうございます 」
と笑顔で差し障りのない返事をしといた
***
pm20:30
この年代の人って自分の自慢話と武勇伝をとにかく語るんだよな
俺は顔を見て
「凄いですね」
「わかります」
と、とにかく笑顔で相槌を打つ
これがまあ結構しんどい
でもまあ、気分が良くなってくれるのならいいか
そういうたわいもない話をしているとふと俺のスマホが揺れた
気になって片手で触って見るとそれは若井からの着信だった
もーなんだよ…
「ちょっとすみません」
それは直ぐに切れた
着信を無視できたかもしれないが妙に気になって思い切って席を立つ事にした
急いでトイレに駆け込んで若井にかけ直すが今度は逆に出なかった
マジかよ… せっかくかけ直したのに…
少しの呼び出しの後すぐに諦めて俺はスマホをポケットに直した
ちぇ…
鏡に映る自分が気になって向かいあうと前髪を少し触って自分チェックする
ぐいっと鏡を覗き込んで向こうの俺に問いかける
「なんだよ… 妙に着飾ってて綺麗だな俺」
だが鏡に映っているのは本当の俺じゃない
昼間に若井と襟首が伸びたトレーナーを着て曇った眼鏡でラーメンをすすってたのが本当の俺
あー、そろそろ本当の俺に戻りたいな
ため息をつくもすぐに現実に戻る
やば、急いで戻ろう
相手を待たせてはいけない
そしてワインを出来るだけ取らないでおいたからここに長居する必要もない
アルコール無駄にとると色々と危険だからな
20250113
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