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翌朝、撮影の準備に取り掛かっていると、美月を発見するなりナギが駆け寄っていくのが見えた。
「みっきー!」
「あ、ナギ君。おはよ……って、ちょっと、なに!?」
いきなりガバッと抱き着かれ、美月は訳が分からずにキョトンと目を丸くしている。
「俺、撮影頑張るから! みっきーの方が絶対、ぜーったい可愛いんだから!」
「????」
一体なにを言っているのだろうと困惑している美月とその周辺のざわめきが聞こえてきて思わず噴き出しそうになる。
「……なんですか、あれ?」
「さぁ? ま、リーダーがやる気出してくれたんだからいいんじゃね?」
事情を知らない弓弦と東海が首を傾げる中、雪之丞が少し困ったような顔をして蓮の元へとやって来る。
「おはよう、蓮君。あのさ、昨日、グラフィックで一緒にやってくれてる二階堂さんから連絡が来たんだけど、奈々さんやっぱりもう戻る気はないって」
「……そう。じゃあやっぱり、今のまま何とか頑張るしかないって事だね」
「うん」
「ごめんな。雪之丞にばかり大変な仕事押し付けて」
蓮が謝ると雪之丞はとんでもないと言う風に手を振った。
「大丈夫だよ。二階堂さんもだいぶ操作を覚えてくれたし、この遠征中も一人で編集頑張ってくれてる。それに、弓弦君が色々と手伝ってくれるから」
「へぇ、そっか」
そう言って何処か嬉しそうにはにかむ雪之丞を見ていると、彼の方も随分と変わったのだと気付かされる。
好意を伝えられ、それに答えられないと告げた時は、こんな風に話すことなないと思っていた。
だが、今はこうして普通に話が出来ている。それだけでも大きな進歩だと思う。
そこにはきっと、弓弦の支えがあってくれたからだろう。
「……あのぅ。ちょっと気になったんっすけど、もしかして、CGもキャストの皆さんで回してたんですか?」
おずおずと会話に割って入って来たのは銀次だった。
皆の視線が一斉にそちらへと注がれる。
一瞬、しまった。という空気が流れたが、今更誤魔化すのもおかしい気がして顔を見合わせる。
「……実は、そうなんです。とある事情でCG担当だった方が降りてしまったもので……代役をこなせるスタッフはドラゴンライダーの方へ行っているみたいで……どうしても人手が足りなくて仕方がなく」
「幸い、ゆきりんがパソコンの編集とかソフト使えるって言うからほとんどおんぶに抱っこで。このままじゃいけないのはわかってるんだけど、アタシ達じゃわからないことばっかりで……」
「へぇ、大変なんっすねぇ」
弓弦や美月の言葉を聞いて、銀次の目がスゥっと細められてほんの一瞬冷たい空気が室内を満たした気がした。
だが直ぐに、ぽんと手を打つと雪之丞達に向き直る。
「それにしても凄いなぁ。そんなリスクを背負ってたのに、あのクオリティを保って今までやって来てたなんて。でも、それなら俺、少しは手伝えるかもしれません。パソコン関係は得意なんで」
「えっ!? 本当に!?」
「はい。スペックとか映像関係のソフトが何を使っているのかわかれば、ですが……。あと、部外者の俺が触っていいのなら是非!」
「……っ、本当に?」
思わず声を上げた雪之丞に、銀次は気恥ずかしそうに頭を掻いた。
「まぁ趣味みたいなもんっすよ。映像編集とか、合成とか。昔からゲーム実況とか動画いじるのが好きで。――だから、もし役に立てるならやらせてもらえたらなって」
「ちょ、ちょっと……銀次君、そんな事できるなら早く言ってくださいよ!」
弓弦が驚きと呆れの入り混じった声を上げる。
「えへへ、言うタイミングがなくて」
軽く笑って誤魔化す銀次の姿に、美月や東海も目を丸くしていた。
だが、ただのお調子者だと思っていた男の口から頼もしい言葉が出たことで、室内に広がっていた重苦しい空気が少しずつ解けていく。
「じゃぁ、兄さんに一応聞いてみるよ。今現在の責任者は兄さんだから」
「蓮さん、ありがとうございます。 よかったですね、棗さん」
「う、うん……」
雪之丞が照れくさそうに笑うと、弓弦も安堵の息をついた。
「私も、貴方に説教しなくていいと思うと、だいぶ気が楽です」
「その割には、ここ最近やたらと足しげく通ってたけどな」
東海がニヤリと口端を吊り上げ、美月も「そうそう」とすかさず乗っかる。
「……はっ! わが弟はもしかしてドSだったのかしら?」
「っ! 二人とも! 人聞きの悪いこと言わないでくださいよ! 私はただ、放っておくと食事もしない棗さんが心配で……」
「そ、そうだよ。草薙君はドSなんかじゃないって。すっごく、凄く優しいんだから」
「やだ……なんかむずがゆくなってきちゃった」
「おれも~」
わいわいと笑い声が重なる中、銀次がわざとらしく感慨深そうに腕を組んでみせた。
「ふはっ、皆さん仲がいいんですねぇ。いいなぁ、こういう現場。楽しくって俺、好きですよ。俺も……皆さんの輪に入れて、正直すごく嬉しいです。いやぁ、俺もキャストだったらよかったのになぁ。なーんて」
場を和ませるような冗談に、美月や東海は「また始まった」と言わんばかりに肩を揺らして笑う。
その時、蓮がぱちんと指を鳴らした。
「いいね、それ。コラボらしくて面白いんじゃないか?」
「……え?」
思わぬ提案に、銀次はポカンと口を開けたまま固まってしまう。
しかし美月が「確かに! コラボっぽくて面白いかも!」と目を輝かせ、弓弦も「一夜限りのゲスト出演……それ、盛り上がりそうですね」と賛同。雪之丞までも「SNSで話題になりそうだね」と頷くものだから、流れは一気に傾いていく。
「いやいや! 冗談で言っただけですよ!? 俺、演技とかしたことないっすから!」
銀次は両手をぶんぶん振って必死に否定するが、ナギが横からニヤリと笑って追撃してきた。
「大丈夫だよ。俺たちの動きのモノマネやってんじゃん。あれ、そのまま使えばいいよ」
「ちょっ……あれは遊びでやってただけ! それに、素人に毛が生えたようなもんだから、絶対悪目立ちするって!」
必死の抵抗もどこ吹く風、ナギの一言に場はドッと笑いに包まれた。美月が「逆にその素人っぽさが良いんだよ!」と手を叩き、東海まで「バズる未来しか見えねぇ」と煽り立てる。
「や、やめてくださいよ!? 俺、もう帰りたいんですけど!?」
銀次が本気で焦ったように額を押さえていると――いつの間にかその場に来ていた凛が、腕を組んで低い声を響かせた。