1年8ヶ月(誕生日) - と 「やぁ。君は、勇者に選ばれたよ」「はい?」 突然部屋に現れた男は言った。 何を言っている? 『おそろしい化物が城下町に出没しました!!騎士団の皆様のご活躍により撃退されましたが……』 『王様が亡くなってしまいました』 『俺が王位を継ぐぜ!』『おのれ魔王軍! 俺たちの街から出ていくんだぜ!!』『民を守るのが騎士たる我らの務めですわ』 街では王の葬儀が行われてるらしいけどそれはどうでもいい。 それよりも気になるのは男の言葉だ。この男は今なんと言ったか……? いや、きっと聞き間違いだ。だってこんな非現実的すぎることが起き得るはずがないのだから。そう自分に言い聞かせてみても、やっぱり現実離れした言葉を聞いてしまったせいで混乱してしまう。これは悪い夢なんだと錯覚してしまいそうになりながらも男の言葉を反芻する。 もし男が言っていることは本当なのだとしたら――。 俺は選ばれてしまったということになるのか。「……っ!?」 そんなまさかと思い、確認するために自分の体に触れてみることにした。 俺の体はまるで石のように動かない。というかむしろ意識だけが先行して体が動いてしまうせいか視界がぐわんぐわんと回ってしまっていた。やばい気持ち悪くなってきた。 なのに、なんでか、この感覚に覚えがあるような気がした。 どこかで感じたことのあるような感覚。もう思い出せないくらい昔の記憶。だけど確かに覚えているような気さえしていた。「おめでとう。君は今宵より人類のために戦ってくれる勇者になった!」「……」 男に言われて思い出す。そういえば小さい頃、何か特別な力があるとかなんとか言われたことがあった気がする。 実際、俺にしか使えない魔法があったりだとか色々あって変な奴だとは思っていたけれども……。「あ、あのぉ~……?」 なんだか嫌な予感がしてきたぞー。もしかして騙されているのではなかろうか? しかし、男の目は嘘を付いているようには見えないしそれに何より……。「さぁ剣を取ってくれ勇者よ!!」「……えっ? 剣ってこれですか???」 目の前にずらりと並べられた立派な装飾が施された剣たちだった。どれもこれもとても高そうな逸品ばかりに見えるのだけれど一体どれが一級品なのか俺にはさっぱりわからないので適当に選ぶことにしようと思う。「えっとじゃあこれで……」