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国と恋と戦争と。
✨Episode 1『はじまりの朝、ふたりの部屋』
朝焼けが差し込む白い寮の窓。その光は、新たな“国”たちの物語を静かに照らしていた。
「……おい、どけ」
低くて冷たい声が、廊下に響いた。
アメリカは思わず足を止める。
振り返るとそこには、真っ黒なフードを深くかぶった小柄な少年が立っていた。
だが、その朱色の目だけは、闇の中でもはっきりと光っていた。
「わっ、ごめんごめん!俺、新入生で迷っててさ!あんたも新入生?」
少年――日帝は軽く舌打ちした。
「話しかけるな。……通路のど真ん中で立ち止まるな、邪魔だ」
「うわー、ツンツン系だ~!もしかして東の方の国?ねえねえ名前は?」
「お前には関係ない」
そのまま、日帝はすれ違いざまに肩をぶつけて去っていった。
アメリカはその場で呆然と立ち尽くし、
それからぽつりと、頭の上のサングラスをくいっと直した。
「……はあ、カッコよすぎだろ」
もう完全に、一目惚れだった。
廊下の突き当たり、大きな掲示板には新入生寮のルームメイト一覧が張り出されていた。
アメリカは自分の名前を探しながら、胸の奥がソワソワしているのを止められなかった。
(いやいや、まさかね……。そんなマンガみたいな偶然あるわけ……)
『205号室 アメリカ × 日帝』
「…………マジでマンガかよ!!!?!?」
掲示板の前で叫んだその瞬間、背後から気配を感じる。
振り返れば、そこにいたのはさっきの――
「……またお前か」
日帝は無表情でそう言いながら、掲示板の自分の名前を見て小さく眉をしかめた。
「205号室……最低だな」
「え、ちょっと待って、そんな顔する!?俺、めっちゃ嬉しいんだけど!」
「俺は嬉しくない」
「冷たッ!!でもなんか、その感じもいいわ……“ツン”が強くて好き」
「……気持ち悪い」
フードの奥で、日帝の朱い瞳がわずかに揺れた。
寮室に向かう階段の途中で、二人は他の生徒たちとすれ違った。
赤い眼帯をした巨漢と、その隣で静かに歩く銀髪の少年。
「……ソ連。あれが日帝か」
「へえ……お前の好みってこういうの?」
「黙れ、阿呆連」
ソ連はニヤッと笑って、ナチスの首元のタイを直してやる。
その後ろでは、フランスがイギリスの肩にベッタリと寄りかかっていた。
「ねぇイギリス、今日の紅茶は何にする?アールグレイ?それとも……」
「貴様、離れろフラカス!!今は移動中だと言っている!」
騒がしくも、どこか温度のある学園の空気が流れていく。
205号室。新たな生活の始まり。
ドアを開けると、そこには白と青を基調としたシンプルな部屋が広がっていた。
ベッドがふたつ、机がふたつ、クローゼットがふたつ。
ふたりの生活が、これからここで始まる。
アメリカはベッドに倒れ込みながら、にんまりと笑った。
「へへ、俺って……なんか運命的に、ツイてる気がするなあ」
その向かいでは、日帝が静かにフードを下ろしていた。
揺れる黒髪の奥――アメリカだけが、見た。
ピクリと動いた、猫耳を。
「……へ?」
「見たら殺す」
「ご、ごめんなさいっ!」
――始まりの朝。
ふたりの部屋に、これから数えきれない“事件”が巻き起こることを、この時はまだ誰も知らなかった。