「じゃあ、また来てくださいね」
「四季君は先に停舶所にいるそうですから」
手を振っている遊摺部に一礼して歩く。無陀野の顔は変わらずに少し落ち込んでいるように見えた。
「…ダノッチ!大丈夫だよ!!」
「一ノ瀬先生ですし、許してくれると思いますよ」
「つっても何言ったんすか?」
「確かに気にはなりますね」
「チッ…どーせあのクソ教師のことだから、根には持つだろうな」
「なに、言ったことは取り消せない!ならばこれからの対応が重要だ!ゲホッ!!」
「四季先生は謎に包まれているからなぁ!」
結局解決策も見当たらないままで、いつのまにか停舶所に着いていた。無陀野の眉は顰められている。
「遅かったな…船に乗り込め、羅刹には50分あれば着くからそれまでは確実好きなようにしてろ」
乗り込んでいく人数を確認しながらも、四季は生徒達と目を合わせることはなかった。
「あれは…怒っているのかな?」
「どうだろうな…」
個室に入った無陀野達は、先刻の四季を思う。普段と変わらないような気がする。対応も声色も。
「目も見えないから分かりにくいですしね…」
目は口ほどにものを言うとは言うけれど、その目も見えない場合は何で判断すれば良いのだろうか。
「早く羅刹に帰りてぇ…」
紫苑の吐き出した本音に共感する。
「50分って長いな…」
「あぁ…」
地面に降り立った時にはやつれたような表情をしていた。
「好きに休め、外出したい奴は居るか?」
手を上げる気配もない生徒を一瞥して四季は、羅刹へと歩き出した
「…もう、なんか俺寝たい」
「俺もだな」
「わかる…」
そのまま部屋に戻り、うつ伏せになって布団に倒れ込む。
胸の奥には蟠りが残り息苦しさが妙に残る。隠されたその核に触れてみたい。
手を伸ばしてみたい。
何も解決することもなく、1週間が過ぎた。変わらず四季は冷たく、距離は遠く、力も程遠い。
ガラリと扉が開けば、冷淡な表情の担任がいた。
「明日から、京都に行く」
「京都の偵察隊本部」
「そこには、羅刹の保険医の屏風ヶ浦がいる」
「!あのピンク髪の子だよね」
「あぁ…いましたね、よく覚えていませんが…」
「え?何々女の子?いるの??」
立ち上がってマジ?と空気を読まずに言い出した紫苑。静かにしろと眼鏡で見えない目のまま圧で言う四季。
大人しく指示に従いながら紫苑は頬杖をつきながら席についた。
「今日の五時頃船に乗って一時間半ごには陸に着く。」
「そっからは新幹線だ。」
「以上、質問は?」
「ないなら教科書開け、今日は75ページからだ…」
(聞けるわけないじゃん…その人との関係は〜とか)
「一ノ瀬さん、お久しぶりですね」
「屏風ヶ浦も久々、入学初日に会って以来だからな」
「うわぁ〜可愛い〜〜」
「下の名前は?姉妹は?彼氏はいたりする??」
同級生は男のみ、担任の男しかも厳しい、練磨でも会ったのは男のみ。
学園内の教諭や非常務教諭に手を出したら鬼教師と部屋が同室になると言うペナルティ付き。
「先生と同級生ですよね?あ、俺朽森紫苑です」
「えっ、あぁえーっと…びょ、屏風ヶ浦穂希です…」
「んで!」
おい誰が止めに行く。お前がいけよ、面倒だ。
紫苑の後始末を誰がするか押し付け合う生徒達を他所目に、低い声は響いた。
「朽森…」
「ひっ!!」
ギギギとでも音が鳴るほどに首を後ろに向けた。
眼鏡の奥の目が紫苑を見詰めている。見えずともわかる。これ怒ってる…。
冷や汗が背中に伝った。
「ナンパをするな、お前はここに何しに来た、それ以上屏風ヶ浦に言い寄ってみろ」
「俺と一緒に行動してもらうぞ?」
「すみませんッ!冗談です!!」
勢いよく頭を下げた紫苑を無視して屏風ヶ浦と四季は生徒達を和室に案内する。
「ここでは、戦闘の実戦を学ぶ」
「気は抜くな、死にたくないならな」
腕を組んだ四季は座布団に座る生徒達を脅す。死なない為に。
「とは言っても、屏風ヶ浦と一緒に負傷した隊員を助けろ」
「戦闘が収束できれば、合格点だ」
「絶対無理だけはしないでくださいね」
屏風ヶ浦は生徒達に釘をしっかりと指した。四季の大事な生徒だからこそ。
「じゃあ、俺は先に向かってる」
「屏風ヶ浦達は日が登った時に来い、それまでは大人しくしていろ」
襖に手を掛けた四季は振り返って、紫苑を指差す。
「…わかってるよな」
「はーい」
残された屏風ヶ浦は、医療器具の準備の為に部屋の中を駆け回っている。
「あの…」
「!はいっ!すみません…うるさかったですよね、すみません」
「いえ、そうじゃなくて…」
小さく手を上げた並木度に屏風ヶ浦が慌ただしく土下座を繰り出す。
「自己紹介した方が良いかなって思いまして…」
「あ…わ、私は屏風ヶ浦穂希です!」
「京都援護部隊隊長をやらせてもらってます…私なんかが…いやでも、そう言ったら一ノ瀬さんが…」
「あ…まぁまぁ、俺は花魁坂京夜です」
「無陀野無人だ」
「淀川真澄」
「並木度馨です」
「朽森紫苑っす!」
「僕は猫咲波久礼です」
「印南幽だ!ゲホッッ!!」
「百鬼大我だ!!」
「えっ、血ですか!?拭いてくださいっ!」
真っ白な布を大量に持ってきて印南へと渡す、窒息するんじゃないかと思うほどの量でを。
「ちょ!え?屏風ヶ浦先生!?」
「しっ下に埋もれてるの誰です!?!」
襖が開いたと思えば別の白衣を来た女性が屏風ヶ浦を止めて、布に溺れる印南を引き摺り出す。
「お!また別の子〜」
「め、芽衣ちゃん!」
ごめんなさい!と印南に高速土下座を繰り返しながら駆け付けた芽衣に助けを求める。
「初めまして、私は援護部隊副隊長の芽衣です。」
黒髪セミロングを耳にかけながら無陀野に手を差し伸ばす。
正座で座っている生徒一人一人に握手をして歩く。楽しげな笑い方をしている。
「もし良かったら、苗字教えてもらっても良いですかね?」
猫咲が猫を被りながらニコっと表面上だけで笑いながら聞く。
「苗字はお兄ちゃんのをもらったから一ノ瀬になるね…」
「………お兄ちゃん?」
静まり返った和室に大我の呆れたような声がした。
「ん〜…説明すれば長くなるんだけどね〜」
芽衣の話を纏めれば、四季に救われたこと、孤児に出されそうになったものの四季の一言によって羅刹に引き取られたこと、両親が殺された四季が芽衣に家族になるか?と誘ったことによって芽衣が「一ノ瀬芽衣」となったこと。
「ってなわけで一ノ瀬芽衣」
「わかったかな?」
やはり…。
この人が言う『一ノ瀬四季』も。
遊摺部の言う『一ノ瀬四季』も。
俺ら生徒が知っている『一ノ瀬四季』とは別人だと思う。
苗字を分け与えるような人にも、孤児だからと学園で引き取ろうと言うような人にも思えない
「どれが本物の一ノ瀬四季なんだ」
呟いた無陀野の声を拾った2人は互いに顔を見合って笑う。
「どっちも一ノ瀬四季ですよ/だよ」
2人揃った声で無陀野達に言った。
「遊摺部君には会いましたよね?」
「…練馬区の」
「うん、遊摺部君も言ったと思うけど一ノ瀬さんは優しい人なんですよ」
「君たちには厳しいと思いますけどね…」
「お兄ちゃんはさ…優しすぎるんだよね」
「怖いって厳しいって思うのは、お兄ちゃんを良く知らないからだと思うよ」
生徒達はまだ知らない。
その優しさを溢れ落ちそうなほどに受けていることに、その優しさをもうすぐ知ることを。
首を傾げている生徒達はまだ知らない。
三十六策 (さんじゅうろくさく)
困った時には逃げるが勝ちと言うこと。
今回は四季先生の、行動から取りました。
知られそうでどう接すれば良いのか困ったのならば生徒から逃げることで、いつもの自分を取り戻そうとしてる。
今日からあの週で、めちゃくちゃ腹痛い…から学校欠席したから書き上げた…
キツイ…
コメント
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見るの遅れた… 生徒が知っている四季くんが、違っていて、しかも、題名と合わさって四季がどんな思いを抱いて接しているのか…ってことがめっちゃわかりやすくって、同期や、芽衣ちゃんに、苗字をあげたりと優しい一面を知って、もやってしてる生徒たちもわかって最高だった!(ごめんね?語彙力なくて、しかも言いたいことがたくさんあるんだけど、うまく文章にできない、)とりあえず、めちゃ最高で、好き!


最近冷えてきたからですかね、大丈夫ですか?無理しないでくださいね!!