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【はかなきもの】第2話
ガチャ、
喫茶店に入る
喫茶店特有のコーヒーの苦味と砂糖の甘さが混じり合った香りが鼻を擽った。
僕たち二人は店の隅の四人席に対面で座った
「そういえば、君の名前って何で言うの?」
『俺?、白崎 謙治!!』
「へー、いい名前だね。」
『ん、ありがとーな! そーゆー君は何て言うん?』
「僕は、桂木 幸一。」
『は〜、かっこえぇ名前やなー!』
「ありがとう、笑」
こんなにも真っ直ぐな瞳で自分の名前を褒められるなんて思わなかったから、少し照れる。
にしても、さっきまで身投げしようとしていた男が何でこんなに明るいんだ、?
「….なぁ、君はついさっきまで身投げしようとしていたのに何でこんな明るいんだ……?」
『ん〜?まぁ、別にまたやる予定やから?』
「……やる予定って、?」
『今日ってさ、満月やん?』
「ぅ、うん。そうだけど……」
『次の満月……やから一ヵ月後にまた死のうと思ってねん。』
は、?
此奴は何を言ってるんだ、、?
折角、助かったのにまた死のうとしている
『あ、今理解出来ないって思ってるやろ?』
『俺も自分のことなんやけどよくわからへん笑』
「自分のことなのに分からないって…!」
『まぁー、色々あってな。死にたなってんねん』
「色々って…!」
「死ぬなよ!助かったのに…!!」
『ゴメンなぁ、でも決めたことやねん。』
『その代わりに俺と友達になって一ヵ月間一緒に居てくれへん?』
「えっ……いいけど、」
『ありがとーな!』
「僕、ニヵ月ぐらい予定ないから毎日居れるよ?」
『え!マジ!?ひっさしぶりに人と過ごすかもしれへん』
『一ヶ月間、毎日会えるんかぁ……
嬉しいわぁ。幸一くん、俺のこと独り占めしてな?』
謙治はそう言うと僕の手を優しく包み込んだ
『じゃあ、一ヵ月間よろしくな? 幸一くん!!』
珈琲のカップを挟んだテーブルの上で、突然重ねられた手のひら。
謙治の手は驚くほどあたたかくて、だけどその
”一ヵ月間” という言葉の裏にある冷たい決意が、僕の胸をきゅっと締め付けた。
「……あ、あぁ。よろしく、謙治」
僕はなんとかそれだけを返した。
自分のことなのに分からない、と笑った彼の瞳は、どこまでも真っ直ぐで、そしてどこか遠くを見ているようで
少し怖かったけどその瞳は
何よりも “美しかった”
謙治の瞳に少し見惚れていると
『ん、どしたん?幸一くん。俺の顔になんかついとるん?』
「ぁ、いやなんか綺麗だなって思って。謙治の瞳」
あ、言ってしまった。
こんなにもまっすぐな瞳で聞かれたら思っていたことを言ってしまう。
友達になったばっかりの男にこんなこと言われたら引くよな……
僕は恐る恐る謙治の顔を見た
『ぇ、あっ何なん急に!幸一くんにそんなこと言われると照れてまうわ〜!!』
謙治は僕の手を離し、
『まぁ、幸一くんに褒められんの嬉しいわ!
ありがとーな!』
と少し照れる様に笑った。
その笑顔も1ヵ月後には見れなくなってしまうと思うと、なんだか少し寂しい
気づけば、窓の外はすっかり茜色に染まっていた。
これ以上引き留める理由もないけれど、かと言って、このままこの男を一人にするのは、どうしても胸がざわついた。
「……そろそろ、行こっか」
『ん、せやな!』
お会計を済ませて店を出ると、4月の夕暮れの風が、僕たちの間を冷たく吹き抜けた。
見上げる空には、少しずつ白さを増していく月が浮かんでいる。
「あのさ、謙治」
『ん? 何、幸一くん』
「……明日、何してる?」
気がつけば、自分からそんなことを聞いていた。
謙治はちょっと意外そうに目を丸くしたあと、ふにゃりと柔らかく笑った。
『何もしぃひんよ。一ヶ月後まで、ずぅーっと暇人や』
「じゃあ……明日、あそこの木の下のベンチに10時に集合でいい?」
『ええよ! やったぁ、明日も幸一くんと遊べるんやな!』
謙治は子供みたいに無邪気に喜んで、僕の肩をぽんと叩いた。
その距離の近さに、一瞬、心臓がどきりと跳ねる。
「……じゃあ、また明日。ちゃんと来るんだぞ」
『分かってるって。絶対来るわ! バイバイ、幸一くん!』
ひらひらと着流しの袖を振って、謙治は人混みへと歩いていく。
夕闇に消えていきそうなその後ろ姿を、僕は謙治が見えなくなるまで、じっと見送っていた。
明日も会える。 その事実がこんなにも嬉しい
なんて、僕はおかしいのかもしれない。
心が陽だまりを浴びたかの様な気持ちになりながら、僕は一人、帰路についた。
コメント
1件
第2話、じっくり読ませていただきました。 喫茶店で交わされる何気ない会話なんだけど、謙治くんが「一ヵ月後にまた死のうと思ってる」ってさらっと言っちゃう感じ、すごく切なかったです。幸一くんが「死ぬなよ!」って思わず声をあげるところに、彼の真っ直ぐさが滲んでて。 それでも「明日も会える」って、ほんの少しの陽だまりみたいな幸せを噛みしめるエンディングが、胸にじんわりきました🌷