テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
7,357
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
R描写1歩手前をどこまで攻められるかの試み。短い
※R17(という体)
▫︎ ▫︎ ▫︎
金曜日の夜、駅はどうも浮ついている。ランドセルを背負った子供が母親らしき女性に抱きつき、恋人同士と思わしき男女は手を繋いで歩き出す。改札に交通系ICをかざして通り抜けた。駅直結のビルが普段以上に賑わっている。人が多くて眩暈がしそうだ。
「スマイル」
そんな中でもすぐに声をかけてくれるきんときが好きだ。振り向けば童話の世界でお姫様に手を貸す王子様のように紳士的に手を差し出す彼がいた。
「……随分気合が入ってますね」
「もちろん。金曜日のデートなので」
にこり、一切の動揺を見せずに微笑んだ彼の手を取る。
「かっこよくエスコートしてよ」
「仰せのままに」
優しく体を抱き寄せられて、頬が熱を持つ。自分から言い出した手前恥ずかしくて顔を逸らした。
「ふ、」
小さく笑うきんときには心の中まで全てお見通しであるような気がした。スマイルが持つ通勤鞄を何でもないような顔をしてさらりと取り上げる姿まで絵になっていてずるい。
「今日は一段とかっこいいね。俺も着替えてから来れたらよかったんだけど」
不利な立場から逆転を狙い、澄ました顔をして話題を変える。
「ありがとう、スーツでも私服でもかわいいけど、それなら次のデートは休日にしようか」
どうやら何かを間違えたかもしれない。反転攻勢どころか詰めの一手まで追い込まれている。
「……土曜日の夜がいいな」
「それならシーツを洗濯したいから前日までに決めよう」
どこまで行っても余裕の表情は崩れなくて、言葉ではなく行動に出るしかなくなった。
「何のために?」
一度手を離して恋人繋ぎで握り直す。
「……しー」
口元に人差し指をあて、いたずらっ子のように笑うきんとき。
「…….あーもう、降参です降参!」
「あれ、もう打つ手なしですか?」
「はい、投降します」
彼もこの冗談めいた流れに乗ってくれたのがせめてもの救いだった。これ以上向こうのペースに乗せられていたら心臓がもたなかっただろう。
「……でも、昨日たまたまシーツを洗濯したから今日の夜だって構わないよ」
油断したところを耳元で囁かれて、華麗なチェックメイトだった。
「……買い物は今度でいい」
「そう?じゃあまっすぐ帰ろう」
何を言ったってさらさら心外ではなさそうなのが腹立たしい。きっとすべてきんときの手のひらの上だ。その予定調和を崩してみたかった。
▫︎ ▫︎ ▫︎
「スマイル」
「ん?……っ、」
マンションのエレベーターに乗り込んですぐに唇を重ねた。数秒だけの、軽いキス。
「……ッ、足りない」
口を離すと、にやりと不敵に笑って今度はきんときの唇を奪いにくる。そしてまだ少し不慣れな様子で舌を入れてきた。
しかし何もかも彼の想定通りだった。
「ぁ、ん……っ」
10秒と経たず体を離そうとするスマイルの背に腕を回して、反撃に出る。少し絡ませればそれだけで逃げていく舌を追う。
「ん、……んん、」
体を引いたのは悪手だった、とスマイルが後悔したときには既に遅くて。壁に追いやられ、逃げ場を失い宙を迷った手は結果的にきんときの背中に落ち着く。
「……ふふ、」
ようやく解放すれば、ずっと反撃の機を伺っていた瞳は蕩けていた。
「ようやく諦めた?」
は、は、と浅い呼吸を吐き、唇の端から伝う唾液を拭うスマイル。
「……っ、どうだか」
「威勢だけはいいよね。いつも泣かされるくせに」
腕を引かれて外に出る。冷たい風が頬を撫でた。火照った体には心地よくて、目を細める。彼が扉の鍵を開けている時間さえひどくじれったかった。
「ッ、!……なぁに、今日は一層強気だね?」
着ていたコートを丁寧にハンガーにかけてくれようとしたきんときの手を止めさせ、それをソファに放り投げて寝室に向かう。
「そんなに泣かされたいのかな」
「っ、」
ベッドにあくまで優しく押し倒され、スマイルはまだ王子様の仮面が外れていないことを確認する。
「……どうして強気に出てると思う?」
「……え?」
きんときが初めて意表を突かれたような顔を見せた。
「……こうしたらお前は酷くするだろ」
大きくその瞳が目を見開かれたのをみて、スマイルはしてやったりと唇の端を緩めた。
「……あぁそう、そういうことするようになっちゃったんだ」
乱雑にベッドに伏せるような体勢にさせられる。その手つきはもう決して優しいものではなくて、それでもスマイルは満足げだった。
「もう二度とそんなことできないようにしてあげる」
子猫が鳴いて、泣いて、夜が更けていく。
自分でも露骨すぎたなと思っています、自己満足するまで再挑戦したい