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九条が炭鉱に戻って行くのを見送ると、ダンジョン調査隊の攻略が始まった。
大きな部屋は何もなく、牢が並ぶエリアをあっさりと抜ける。
そこで足を止め、声を上げたのはシャーリーだ。
「バイス、魔物の反応がある。先のフロアに十体ほど」
「よし、戦闘準備だ」
各自得物を手に取ると、お互いの準備が出来ているか確認し合い、出来るだけ静かにそのフロアに近づいて行く。
魔物がいるであろう部屋の前まで来ると、その扉を豪快に蹴り開け、バイスを先頭になだれ込む。
轟音が空気を震わせた瞬間、静寂を支配していたスケルトンたちは軋む骨の音を立てながら、素早く首を巡らせると、無数の空洞の眼窩がバイスたちを捉える。
「メイジがいるぞ! 散開しろ!」
一般的な物理系スケルトンが七体。加えてメイジと呼ばれる魔法系が三体。
それを一瞬で把握し、バイスは魔物の注目を集める。
「”グラウンドベイト”!」
そのスキルは、相手からの敵意を強制的に自分へと向けるものだ。
タンクが狙われることにより防御に専念でき、回復役もタンクを気にするだけでよく、アタッカーは攻撃に集中できる。
冒険者の間では当たり前の基本的戦術の一つだ。
「”マルチレンジショット”!」
シャーリーが弓を構えると、同時に三本の矢が放たれ、バイスに迫ってきていた二体のスケルトンと、後ろにいた一体のメイジに命中した。
頭蓋骨を粉砕され、二体のスケルトンが崩れ落ちるも、遠くのメイジだけは致命傷を免れる。
「【|業火炎弾《ファイアボルト》】!」
そのフォローにと、メイジに向かって放たれたネストの魔法は、着弾と同時に破裂した。
命中したメイジはもちろん、その周囲にいたスケルトンも吹き飛ばされると壁へと叩きつけられ瓦解する。
部屋に響き渡る甲高い金属音と、激しく飛び散る火花。
「おらあ!」
残りのスケルトンがバイスを同時に攻撃するも、それらを全て盾で受け止め力強く弾き飛ばす。
体勢を崩したスケルトンの後ろに回り込んだフィリップは、ロングソードの一振りで数体のスケルトンを崩壊させ、返す刀でその生き残りも粉砕。
そんな僅かな時間で、敵の残りはメイジ一体のみ。バイスはそれに盾を構え突撃する。
「おおおおおッ!」
「【……】」
聞き取れない言葉を口にしたメイジの杖から射出される炎の塊。
バイスはそれを真正面から盾で受け止め弾き飛ばすと、その勢いのままメイジに激突し、盾と壁に挟まれたメイジはその衝撃でガラガラと崩れ去った。
その間、僅か数分。スケルトン程度が相手なら、敵ではない。
「さて、どちらにいこうか……」
疲れを見せない冒険者たち。先程とは打って変わって静まり返った部屋には、二つの出口があった。
右は下り階段。左からは水の滴る音が聞こえてくる。
「右側には多少の魔物の反応があるけど、左側は無反応。どーする?」
「魔物がいないなら左側から確認した方がいいんじゃないかしら?」
「そうだな、左側から潰していこう」
バイスはネストの提案を受け入れ、一行は更に奥へと足を進めていった。
「これは……」
長い階段を登っていくと、目の前に現れたのは大きな扉。それは封印された扉の裏側だ。
「これでこのダンジョンが繋がっているのが証明されたわね」
ネストが封印解除を試みようと前に出るも、封印は解かれた状態のままだった。
それを確認したバイスは両手を扉につけて、力を籠める。
「ぐぬぬ……」
金属製の扉はやや重量があるものの、皆の予想とは裏腹に、あっさりと口を開けたのだ。
「開いた……」
茫然と佇む一行。僅かに感じる風の流れ。その先には見たことのあるフロアが広がっている。
「帰りはこっちが使えそうだな。マッピングは必要なさそうだ」
「そうね。戻りましょうか」
退路が確保出来たことと、このダンジョンが目的の場所だと判明したことにより安堵した一行であったが、むしろここからが本番だ。
来た道をすぐに引き返し、更に奥へと潜って行った。
「アンデッドばっかだな……」
現在は地下八層をクリアにしたところだ。奥へ奥へと進んでいくが、出て来る魔物といえば下級のアンデッドばかり。ただ、その数は尋常ではないほど多かった。
シャーリーの索敵スキルで探知しながら進んでいるが、一つの階層に最低でも三十体前後は徘徊している。
密集していることが多く、ネストの魔法でまとめて吹き飛ばしていたため、それほど苦労はしていないが、予定より魔力の消耗が激しいのも事実。
魔力回復用のマナポーションは、もう二本も飲んでいる。
それはギルドお抱えのプラチナプレート|錬金術師《アルケミスト》のみが製造でき、ギルドから認定された依頼にのみ支給される貴重な物だ。
残りは二本。ニーナやシャロン用にも取っておかねばならないため、これ以上は控えなければならない。
「シケてんな……。なんでこんなとこの調査受けたんだよ。このまま何も見つかんなきゃ割に合わねえぞ……」
フィリップが愚痴るのも無理もない。今回、ダンジョン内で手に入れたアイテムは山分けだ。
そのため、全ての部屋を探索しているのだが、めぼしい物は何も見つけられていなかった。
バイスとネストはご先祖様の残した魔法書が目当てであって、ギルドの調査依頼はついでのようなもの。しかし、フィリップとシャーリーはそのことを知らないのだ。
純粋にお宝目当てでの参加故に、何も見つからなければ不満が出るのも当然である。
蓄積する徒労感。成果がなければパーティー内の空気も悪くなる一方だが、地下九層に足を踏み入れると、そんな雰囲気を一気に吹き飛ばすほどの圧がバイスたちを襲った。
今まで味わったことのないプレッシャー。それは前進を躊躇ってしまうほど。
「見つけた。魔族の反応……」
全員が息を呑んだ。シャーリーの索敵スキルには魔族の反応が一つ。正面通路の一番奥の部屋だ。
遠くからでも異質に映る金属の扉。鈍く光る鉄の板が幾重にも組み合わされ、冷たい艶を放っていた。
長い年月を経ても腐食ひとつ許されぬそれは、明らかに異質。金色に輝く獅子を模したドアノッカーが、ここから先は、踏み込むべきではない――と告げているかのようだった。