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「ねぇ、見て見て〜!これ、新色のリップ♡」
「え〜いいじゃん!」
「すっごく似合ってる!」
まだ午前中の休み時間、廊下で女子たちが騒いでいる。
「今度の土曜に彼氏とデートなんだ〜。」
「いいな〜。楽しんできなよ!」
「よっ!お熱いねぇ〜。」
とグループの中の一人の女子が茶化すように言った。その時、
ドンッ!
バサバサッ!
と誰かとぶつかった。それと同時にその人が持っている三冊の本が音を立てて落ちた。
「あっ、ヤバ······。」
「ご、ごめん!大丈夫?」
ぶつかったその人に慌てて謝った。けれど、その人は謝っている子を見向きもせず、廊下に散らばった本を拾い、無表情のまま教室に向かって歩いて行った。
「ちょっ、今の酷くない?」
「そうよ!香織(かおり)が謝っているのに!」
今起こった事で他の女子たちはグチグチ言った。
確かにぶつかった事を素直に謝って心配しているのに無視していくなんて酷いと思う。
「何なのあの子!」
『香織』という子も相当腹を立てていた。すると一人の女子が
「あっ、あの子!」
と閃いたかのように言った。
「え?貴子(たかこ)どうしたの?」
と香織は彼女の方を向いて聞いた。
「確か名前は······あっ、そうそう!水澄さん!水澄 咲幸(みなずみ さゆき)!」
「水澄咲幸……?」
「え何?知ってるの?」
香織に続いて他の子たちも興味本意で聞いた。『貴子』という子は続けて言った。
「あのさ、ここだけの話なんだけどさ。水澄さんはいつも無表情でああいう態度をとるじゃん?そのせいで冬城(ふゆき)さん達に目をつけられていじめられているの。それに友達もいないし、クラスでは孤立しているから、裏では『学校一の嫌われ者』と呼ばれて有名らしいの。」
「……っ!?」
「えっ?マジ!?」
「結構ヤバい目に遭ってんじゃん!」
貴子の話を聞いた他の子たちは驚きながら言った。香織は心配そうに思った。
(もしそれが本当なら、水澄さんは大丈夫かな?先生たちに相談した方が······いやでも、相談したとしてもこの学校にまともに取り合ってくれる先生がいないし······それにチクったことがバレたら後が怖いし……。)
「でもさ、自業自得じゃない?だって、そうなったのは水澄さん自身だし。それに関わりたくないし、ほっとけば?」
「うん、そうだね。」
貴子の言葉に他の子たちは頷いた。香織は「それは駄目だよ!」と強く言いたいけど、頷くことしかできなかった。
冬城さんたちは誰もいない、見ていない所でやっている事は目を背きたくなるほどの酷い事をするし、過去にいじめられた子は不登校・中退にさせるまで追い詰めていたし、勿論その子を庇ったり、助けたりした子も······。
水澄さんがそんな目に遭っている所を見たみんなは確信した。
冬城さんたちに目をつけられたら───おしまい。
だから誰も助けようともしない、見て見ぬふりをする。なんて臆病!意気地無し!勿論私も……。
「あっ、ヤバっ!もうすぐチャイムが鳴る!」
「次の授業は······数学!?数学の先生、怒ると怖いから急ごっ!」
スマホ画面の時刻を見て慌てる貴子に続いて他の子たちも言いながら各自の教室に向かって走っていく。香織は手洗い場から教室へと歩いていく咲幸を見かけた。彼女の手には筆箱を持っている。よく見るとその筆箱はポタポタと彼女の手から水が滴り落ちていた。
もしかしたら、また冬城さん達からの理不尽な嫌がらせを受けただろう。咲幸を静かに見守る香織を呼んだのは貴子だった。
「香織ー!何してんのー!」
「今行くー!」
香織は咲幸から自分を待っている貴子たちへ視線を変え、そのまま自分の教室に向かった───。