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午前中、外に目線を向ければまだ鳥が囀る時間。チャイムの音が退屈な授業の終わりを告げ、昼休みが始まる。
「今日はここまで、号令」
咲幸は英語の教科書を閉じたれば表紙に太いペンで「死ね」「ブス」「学校来んな」などありきたりで、中傷的な批判が綴られており、授業内容を綴るノートは本来の役目を果たせるか怪しい程にずたずたにハサミで切り裂かれていた。
「起立、気をつけ、礼!」
女子生徒の声が教室内に響き渡り、教師が教室から廊下へと足を運ぶ。それを合図に各々が自由に行動を開始する。
スマートフォンを手に自分の世界に浸るもの。集団で行動している者同士、談笑しながら弁当を囲む者。
その中で咲幸は一人、バックから通学の道中に立ち寄ったコンビニで購入した雑多な物が入ったレジ袋を手に教室を後にした。
廊下を暫く歩いていれば背後からばたばたと騒がしい足音が聞こえると同時に背中に大きな衝撃を感じた。
「邪魔!」
一人の女子高生の声と共に感じた背中への衝撃に耐えきれず咲幸は地面に伏してしまった。
レジ袋からはパンや飲み物など雑多な物が散乱し、拾おうと手を伸ばせばタイミングを見計らったように女学生の足がそれを踏み潰した。
「ああ、ごめん!全然見えなかったぁw」
嘲笑する様な声で謝罪の言葉を吐く彼女達の顔は汚い笑みを浮かんでいる。パンを踏み潰した彼女に続いて他の女子たちはクスクスと笑っていた。
(はぁ、まただ······)
咲幸は潰れた菓子パンを見つめながら思った。
「ねぇ、どうだった?うちらがデコった筆箱!嬉しかったでしょー?」
(デコった······?ああ、あの時のね。)
女子グループのリーダー的な女子、冬城 椿姫(ふゆき つばき)の言葉に咲幸は思い出した。
休み時間が終わる数分前、咲幸が図書室から戻ってきた時、いつも使っていて、黒かった筆箱がチョークの粉で真っ白になっていた。当たり前だが、巻き込まれたくないと思うクラスの皆は咲幸を心配する人も助けようとする人も誰一人いなかった。そんな事を最初から知っていた咲幸は図書室で借りた本を置き、真っ白な筆箱を持って手洗い場に行った。
(あの時、あんまり洗う時間がなかった······。)
咲幸が他人事のように思った。
「相変わらずだんまりですかー?」
「頭回っていますかー?」
取り巻きの早風 水琴(はやかぜ みこと)に続き、風坂 椎葉(ふうさか しいは)も馬鹿にするかのように笑いながら咲幸に言った。それでも咲幸は無表情で無言だった。そんな咲幸の反応に苛立っていた椿姫は菓子パンと一緒に落ちたペットボトルを拾い、蓋を開け、中身のジュースを咲幸の頭にかけた。
ポタポタと黒い毛先からオレンジ色の液体が廊下に滴り落ちていた。爽やかなオレンジの香りがした。
「あんたって気持ち悪いし、本当に目障り。」
椿姫の低く冷たい声が聞こえた。同時に空になったペットボトルを手を離した。
コンっ!
と咲幸の頭とペットボトルが軽く当たる音が廊下に響いた。
「みんな行こっ!時間の無駄になるしwww」
さっきの声から張り切る声に変わり、取り巻きたちに向かって言いながら廊下に歩いて行った。
「そーだね!行こ行こっ!」
「じゃーね水澄。」
取り巻きたちは咲幸に言いながら、椿姫の後ろに歩いて行った。
「あっねぇどうしよー!水澄の昼ご飯、無くなっちゃったー!」
「あはははっ!可哀想ー!」
咲幸の後ろから3人の話し声と笑い声が聞こえる。
咲幸は潰れた菓子パンと空のペットボトルを拾い、掃除用具入れからモップを取り出し、オレンジジュースで濡れた廊下を綺麗にした。
“あんたって気持ち悪いし、本当に目障り。”
「目障りなら、関わらなければ良いじゃない。」
さっきの椿姫の言葉を思い出した咲幸は体育館にあるシャワー室でオレンジジュースでベトベトになった髪を洗いながら呟いた。
思えばあの台詞、私にこんなくだらない嫌がらせをする度に聞いてきた。でも、こんなの今までと比べたら変わらない。
(······もう、慣れてるから。)
キュッ!キュッ!
咲幸はシャワーの蛇口を閉め、タオルで濡れた髪を拭いて体操服に着替えた後、潰れた菓子パンと空のペットボトルが入っているレジ袋を持ち、体育館に出た。