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こと-koto
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病室でひとりになった私は、大きなため息をついた。
「はぁー、どうしよう」
今まで、自分の事情ばかりを考えていて、野々宮先生と果歩の関係にまで考えが及んでいなかった。
確かに、自分のパートナーの不貞を知らされて、離婚を考えるのは当然だと思う。
だからといって、野々宮先生が、まさか緑原総合病院医院の後継ぎの座を投げ打つと覚悟だとは、思わなかった。
なんだか、自分が想像していたより、大事になってしまって、二の足を踏んでしまう。
「でも、果歩に罪は償わせたい」
野々村果歩のした事は、許されない。
健治との不倫だけじゃない。
まさか、階段だから突き落とされてるなんて……。
それこそ打ちどころが悪かったら死んでいたかもしれないのだ。
現に、頭を守った左手を骨折しているのだから。
初犯で、傷害罪にどれぐらいの罪がつくのか、分からないけれど、表に出れば、果歩の経歴に泥がつく。
自分勝手に人を傷つける果歩が、反省するとも思えないけれど、大きな後悔はさせられるはず……。
少なくとも、私が泣いた分以上に、果歩が泣けばいいと思う。
ベッドの上では、何もする事も無くて、負の感情がどんどん育ってしまう。
すると、コンコンとノック音がする。
健治が、荷物を持って来てくれたのかと思い返事をした。
「はーいどうぞ」
開いたドアから顔をみせたのは、里美と三崎君だった。
「せんぱーい、昨日電話をもらってから、気が気じゃありませんでした。心配しましたよー」
里美は私のベッドへと駆け寄ってくる。
こんなにも自分を心配してくれる人が居ると思うと、心が温かくなった。
「心配させてごめんね。私もこんなことになるなんて思わなかったから……。それに、里美には、店舗の事で迷惑かけるよね」
「仕事の事なんて、本社から人を送ってもらえば、どうとでもなるんです!そんなの気にしないで、先輩はゆっくり休んでくださいね」
「うん、ありがとう」
すると、三崎君が大きくうなづいた。
「そうだよ。無理しないで、ちゃんと直さないと後で痛みが出るといけないよ」
「三崎君もありがとう。でも、仕事してないとストレスたまりそうで、少しでも早く仕事したい!」
そう、これは本音だ。家に居てただ悶々と過ごすより、仕事をしている方が私にとっては健康的なのだ。
それに、里美や三崎君とのおしゃべりも楽しみのひとつだったりする。
「先輩、でもどうして、お見舞いで病院に来て、ケガして入院になったんですか?」
里美の疑問はもっともだ。
私だって、あの瞬間まで、こんな大ごとになるとは思わなかったんだから。
「うん、それがね……。階段を使っていたら、突き飛ばされたんだ」
ふたりは、驚きのあまり「えっ⁉」と言ったまま言葉がでないようだった。
でも、次の瞬間には、真剣な表情に変わった。
「美緒さん、突き飛ばした相手に心当たりはありますか?」
「そうですよ!ぜったいに犯人つかまえて、とっちめてやらないと!!」
と、里美はプリプリと怒っていたが、何か思いついたように目を見開いた。
「先輩、もしかして、先輩の事突き飛ばしたのって、大学の同級生の人だったりします?」
里美のあまりの鋭い指摘に、私はあんぐりと口を開けてしまった。
その私の様子に三崎君まで、その人物に思い当たったようだ。
「そう言えば、この前、食事した時に野々宮先生の奥さんと同級生だと言っていたね」
「ですよね。あー、なんか、いろいろ繋がりました。渋谷で見た旦那さんの不倫相手の女が、その同級生なんですね」
そう言って、”きらりん”と効果音が聞こえそうなドヤ顔を見せる里美だった。
名探偵並みの推理で得意げな顔の里美が、私のツボにハマり、なんだか可笑しくなってしまった。
「あはっ、あはは、やだっ、笑わせないで、折れた所が痛いんだから」
「もう、笑い事じゃありませんよ。先輩は、その女に大けがさせられたんですからね!」
と、すごい剣幕で里美に叱られ、私は言い訳をする羽目に陥った。
「ごめん、あまりの名推理がツボに入って……」
確かにこんな包帯だらけの状態は笑い事じゃない。
三崎君も難しい顔をしていた。
「そうだね。相手がハッキリしているなら、告発した方がいいんじゃないかな?刑事事件にするか、示談にするは、別にして、とりあえず再発防止のためにも、手は打たないと」
「うん、私もそれは考えているの。あと告発より先に心配なのが、この病院の入院しているのが、危ない気がして、ゆっくり眠れないの」
そう言うと、これには、三崎君も里美の同意見なようで、ウンウンとうなづいた。
「そうだね。知り合いの病院に言って、早々に転院させてもらえるように手配しよう」
三崎君が働く蒔田医院は、外来のみで入院の設備はなく、整形外科も扱いがない。それで、紹介という形をとってくれるようだ。
「その方がいいです。夜中にグサッとなんてシャレになりませんからね」
そう里美に言われ、”確かにあるかも”って考えたら、ゾクッと背筋が寒くなった。