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あんにん
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ライが小学五年生、マナが小学二年生になった春。
二人の日常は、昔と変わらず隣同士から始まる。
朝七時半。
ライが家を出ると、隣の玄関も同じタイミングで開いた。
「ライ兄ちゃん!」
ランドセルを背負ったマナが駆け寄ってくる。
「おはよう!」
「おはよう」
「今日も一緒に行こ!」
「毎日一緒だろ」
「でも言いたい!」
そう言って笑うマナに、ライもつられて笑った。
二人は同じ小学校に通っていた。
学年は違うが、登校時間はほとんど同じだ。
気づけば毎朝一緒に学校へ向かうのが当たり前になっていた。
「今日体育あるんだ!」
「へえ」
「ドッジボール!」
「ケガするなよ」
「しないもん!」
「前も同じこと言って転んでただろ」
「それは覚えてなくていい!」
マナがむっとする。
そんなやり取りも、ライにとっては大切な時間だった。
⸻
学校に着くと昇降口で別れる。
「じゃあね!」
「授業ちゃんと受けろよ」
「受ける!」
元気よく手を振るマナ。
ライも軽く手を振り返した。
すると後ろから声がした。
「また一緒か」
振り向くと赤城ウェンがいた。
「別に普通だろ」
「普通ねえ」
ウェンは笑う。
「マナ、お前のことめちゃくちゃ好きじゃん」
「兄ちゃんみたいなもんだからだろ」
「そうか?」
意味深な顔。
ライは無視して教室へ向かった。
⸻
昼休み。
ライが校庭で友達と話していると、小さな影が近づいてきた。
「ライ兄ちゃん!」
マナだった。
「何してるんだ?」
「見つけたから来た!」
それだけだった。
本当にそれだけ。
ライを見つけたから来た。
それだけで嬉しそうにしている。
ウェンが呆れたように言う。
「お前、本当にライ好きだな」
「うん!」
マナは即答した。
「ライ兄ちゃん優しいし!」
「……」
ライの心臓が跳ねる。
もちろんマナの言う好きは家族みたいな意味だ。
そんなこと分かっている。
分かっているのに嬉しくなってしまう自分がいた。
⸻
放課後。
校門を出ると、マナが待っていた。
「帰ろ!」
「先帰ればいいのに」
「一緒がいい!」
当然のように言われる。
ライは小さく笑った。
昔からこうだ。
マナはライが大好きだった。
遊ぶのも。
話すのも。
帰るのも。
全部一緒がいいと言う。
その特別扱いが嬉しくてたまらなかった。
⸻
夏休み前。
ライは友達の小柳ロウと校庭で話していた。
「ライー!」
「ん?」
「お前さ」
ロウはちらりと遠くを見る。
その先には一年生たちと遊んでいるマナがいた。
「マナのこと好きだろ」
「は?」
突然の言葉にライは固まった。
「違う」
「嘘だ」
「なんでだよ」
「だってずっと見てるじゃん」
「見てない」
「見てる」
ロウは楽しそうに笑った。
「まあ俺でも好きになると思うけど」
「……」
「可愛いし」
それには反論できなかった。
マナは可愛い。
昔からそう思っていた。
初めて会った日からずっと。
「図星じゃん」
「うるさい」
「分かりやすいなあ」
ロウはケラケラ笑った。
ライはため息をつくしかなかった。
⸻
夏休みに入る少し前。
ライは初めて、自分の知らないマナを見た。
校庭で友達と遊ぶマナ。
楽しそうに笑うマナ。
自分がいなくても、ちゃんと楽しそうだった。
当たり前のことだ。
マナには友達がいる。
自分だけじゃない。
それなのに胸が少し苦しくなった。
⸻
その日の帰り道。
「ライ兄ちゃん!」
「ん?」
「今日ね、友達と約束した!」
「へえ」
「夏休みに遊ぶんだ!」
本当に嬉しそうだった。
ライは笑顔で相槌を打ちながらも、胸の奥が少しだけ痛かった。
マナが成長している。
自分の知らない世界を広げている。
嬉しいはずなのに。
少し寂しい。
⸻
夜。
ベッドに寝転びながら、ライは天井を見上げていた。
マナが友達と楽しそうにしているだけで気になる。
誰かと仲良くしているだけでモヤモヤする。
会えない日が続くと寂しい。
それはもう、ただの兄弟みたいな感情ではなかった。
ライはゆっくり目を閉じる。
そして小さく呟いた。
「……好きなんだな」
初めて自分で認めた恋心だった。
隣の家に住む三歳年下の男の子。
毎日一緒に登下校して。
毎日一緒に遊んで。
気づけば生活の一部になっていた存在。
ライはまだ知らない。
この気持ちが、これから何年も彼の心の中で育っていくことを。
そして数年後、思春期という大きな壁が二人の前に現れることを。
コメント
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編集者の寺島あおいです。 しろまるさん、第2話拝読しました。 隣の家の「毎日一緒」が積み重なる時間の描き方が、とても丁寧で素敵でした。マナがライを見つけたから来た、それだけで嬉しいっていう純粋さに胸がきゅんとします。 そしてラスト、ライが自分の気持ちを認めるシーン。思春期の入り口で、まだ知らない未来の壁が示されているのも、続きを読まずにはいられない終わり方でした。 心臓が跳ねる瞬間、胸の奥が痛む感覚──登場人物の体の反応で感情が伝わるのが、しろまるさんの繊細さだなあと思います。次が楽しみです。