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あんにん
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飴玉
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春。
ライは中学二年生になった。
そしてマナは、小学校を卒業し、同じ学区の中学校へ入学した。
入学式の日。
真新しい制服を着たマナが、朝からライの家にやって来た。
「ライ兄ちゃん!」
玄関を開けたライは一瞬言葉を失った。
「どう?」
マナは制服の裾をつまみながら笑う。
「似合う?」
「……似合う」
「ほんと!?」
「うん」
昔は小さかったのに。
気づけば同じ中学校の制服を着る年齢になっていた。
なんだか不思議な気持ちだった。
「一緒に行こ!」
「はいはい」
いつも通り隣を歩く。
けれどライの胸は少しだけ落ち着かなかった。
マナが中学生になる。
それだけで何かが変わる気がした。
⸻
入学してしばらくは、何も変わらなかった。
朝は一緒に登校する。
帰りも時間が合えば一緒。
休日も遊ぶ。
今まで通りだった。
だが、少しずつ変化は現れ始める。
「ライ兄ちゃん、今日友達と帰る!」
「そうか」
「またね!」
マナは笑顔で手を振った。
その隣には同じクラスの友達がいる。
楽しそうだった。
ライは少しだけ寂しさを覚えた。
けれど当然だ。
中学生になったのだから、新しい友達もできる。
ずっと自分とばかりいるわけにはいかない。
頭では理解していた。
⸻
ある日の昼休み。
ライは友人たちと話していた。
そこへ赤城ウェンがやって来る。
「最近マナ見ないな」
「見てるだろ」
「前よりお前のところ来なくなったじゃん」
「……」
図星だった。
小学生の頃は昼休みに見つけると駆け寄ってきた。
けれど最近は違う。
友達といることが増えた。
「成長したんじゃね?」
ウェンは笑った。
「良いことじゃん」
「分かってる」
そう。
良いことなのだ。
なのに少しだけ胸が痛かった。
⸻
夏が近づく頃。
マナにも思春期がやってきた。
「ライ兄ちゃん」
「ん?」
「その呼び方やめていい?」
ライは思わず固まった。
「え?」
「中学生だし……なんか子どもっぽいかなって」
マナは少し照れ臭そうに笑う。
悪気はない。
それは分かっている。
けれどライには思った以上に衝撃だった。
十年近く聞いてきた呼び方だ。
「じゃあ何て呼ぶんだ」
「ライ」
「呼び捨て?」
「だめ?」
「……好きにしろ」
平静を装った。
でも心の中は大騒ぎだった。
その日から。
「ライ」
そう呼ばれるようになった。
嬉しいような。
寂しいような。
不思議な気持ちだった。
⸻
さらに変化は続く。
家に来る回数が減った。
一緒にゲームをすることも減った。
メッセージの返信も遅くなった。
理由は分かる。
部活だ。
友達だ。
新しい環境だ。
それでも。
ライは時々考えてしまう。
昔は毎日会いに来ていたのに。
⸻
そんなある日。
ライはコンビニでマナを見かけた。
声をかけようとして足を止める。
マナの隣にいたのは同じクラスらしい男子だった。
二人は笑いながら話している。
とても楽しそうだ。
ライの胸がざわついた。
「……何やってんだ」
別に恋人でもない。
束縛する権利もない。
それなのに面白くなかった。
⸻
その日の夜。
ライは珍しく眠れなかった。
スマホを見る。
マナとのトーク画面。
最後のメッセージは三日前。
昔なら考えられない。
少し前までは毎日やり取りしていたのに。
「重症だな……」
苦笑する。
好きになった相手が成長して、自分以外の世界を広げていく。
それだけのことなのに。
こんなにも苦しい。
⸻
数日後。
珍しくマナから連絡が来た。
『今から行っていい?』
ライはすぐに返信した。
『いいよ』
数分後。
マナが部屋にやって来る。
久しぶりだった。
「どうした?」
「ちょっと相談」
「相談?」
マナは少しだけ言いにくそうに視線を逸らした。
そして。
「好きな人ってどうやって分かると思う?」
その瞬間。
ライの心臓が止まりそうになった。
「……は?」
「いや、友達がさ」
絶対嘘だ。
長年一緒にいたから分かる。
マナは嘘をつく時、少しだけ目を逸らす。
今がそうだった。
ライは胸の奥が冷えるのを感じた。
好きな人。
マナにもそんな相手ができたのだろうか。
もしそうなら。
自分はどうすればいいのだろう。
⸻
相談を終えたマナが帰った後。
ライは一人、窓の外を見ていた。
隣の家の明かりが見える。
昔は近かった。
今も近いはずなのに。
少し遠く感じる。
それでも。
好きな気持ちは変わらなかった。
むしろ大きくなっている。
だからこそ苦しい。
中学生になった二人。
子どもの頃と同じではいられなくなった二人。
その距離は少しずつ変わり始めていた。
そしてマナもまた、自分でも気づかない感情に振り回され始めていた。
コメント
1件
読み終わりました。「思春期の距離」、すごく丁寧な変化の描き方ですね。「ライ兄ちゃん」から「ライ」への呼び方の変化、コンビニで男子と話してるマナを見たときの胸のざわつき──距離が変わっていく切なさがひしひしと伝わってきました。最後のマナの「好きな人ってどうやって分かるの?」は、絶対ライに聞いてるのに「友達が」って言い訳するところがもう…。二人とも気づいてないだけで両片想い感があって、続きが気になります!