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「それじゃあ、今日からここはキミの家って事になるから、遠慮しないで好きに過ごしてね」
「は、はい。ありがとうございます……あの、郁斗さん」
「ん?」
「その、何もしないで住まわせて貰うのは申し訳ないので、何か、私に出来る事はありませんか? 仕事も、私に出来るような事があれば……」
「うーん、別に俺は気にしないけどなぁ。あ、とりあえず俺、これから約束あって出なきゃならないからさ、この話はまた後で。ごめんね」
詩歌の申し出に考え込み頭を悩ませていた郁斗はふと時計に目をやると約束の時間が迫っている事に気付き、この話は一旦終いと言って立ち上がる。
「お仕事……ですか?」
「うーん、まあ、仕事と言えば、仕事かな?」
「……?」
何故か質問を疑問で返された詩歌は首を傾げるも、あまり聞かれたくない事なのだと理解してそれ以上は何も口にしない。
「日付けが変わるまでには戻って来るから、詩歌ちゃんはここに居てね。何か食べたい物があればこの電話で頼んでくれていいから。このマンションはコンシェルジュが居てそこに繋がるから、メニュー表の中から好きな物を頼んでくれて構わないよ。料金は全てカード払いになってるから、その辺も気にしなくていい」
「は、はい……ありがとうございます」
「それじゃあ、行ってくるね」
「はい、行ってらっしゃい……」
本当にあまり時間に余裕が無いらしい郁斗は少し慌てた様子で詩歌に説明をすると、そのまま部屋を後にした。
一人残された詩歌は緊張の糸が切れてしまったのかソファーに倒れ込むように横になると、先程郁斗が言った“ここに居る間のキミの安全は俺が保証する”という言葉に安堵したのか、昨夜からの移動距離と見つかるのではないかという恐怖やこれからの生活への不安が一気に解消されたのと同時に激しい睡魔に襲われ、人様の家のソファーで眠るなんてと思いながらも、睡魔に勝てなかった詩歌はそのまま眠ってしまうのだった。
一方、出掛けて行った郁斗はというと、車を走らせて繁華街へと向かっていた。
その途中で彼のスマホの着信音が鳴り響き、ワイヤレスイヤホンを付けていた郁斗はそのまま運転しながら電話に出た。
「美澄か、どーした?」
「郁斗さん、アイツ、逃げました!」
「逃げた?」
「はい、 小竹と二人で見張ってたんすけど……隙をつかれて……」
美澄と呼ばれた電話の相手の男は郁斗の部下なのか、話し方から終始彼の顔色を窺っているように思える。
そんな美澄の話を聞いた郁斗の表情は一気に陰り、わざとらしい深い溜め息を吐くと、
「はあ…………美澄よぉ、テメェはそれで良いと思ってんのか? ああ? 逃げたじゃねぇんだよ! 逃げられたんならどんな手使ってでも血眼になって探し出せ! いいか? 見つけ出すまで戻ってくんじゃねぇぞ?」
額に青筋が浮き出そうな程の怒りを露にした郁斗は、電話越しで美澄を怒鳴り散らした。
恐らく、その場に相対していれば美澄という男は殴り倒されていただろう。
「す、すいません! 必ず見つけ出して連れ帰ります!!」
郁斗の剣幕に恐れをなした美澄は早々に電話を切るも、彼の怒りは収まらない。
「クソがっ! たかが集金も満足に出来ねぇのかよ」
ブツブツと文句を口にしながら急遽行き先を変更した郁斗は一気にスピードを上げて車をどこかへ走らせて行った。