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梵衍那国《はんえんなこく》
美猿王達の後を追いかける為、悟空は小桃と鳴神、黒風、白虎と丁達を連れてタクラマカン砂漠の中を歩いていた。
初夏の砂漠は、人外の彼等の体力を容赦無く奪う。
*タクラマカン砂漠は、中国新疆ウイグル自治区のタリム盆地に位置する、世界第2位の広さ(約33万7,000
km2km2)を持つ流動砂漠です。ウイグル語で「死の場所」「入ったら出られない」を意味し、厳しい乾燥と強烈な砂嵐(カラ・ブラン)で知られる、世界有数の砂砂漠です*
「やべー、めちゃくちゃ暑い。砂除けに羽織ったマント、これが厚着過ぎるんだよなぁ…」
「さっきから、暑いとしか言えないのか?お前は。王達を見習え、汗一つ流していないだろう」
胡の言葉を聞いた李は、先頭を歩いている悟空達に支援を向ける。
悟空と小桃、鳴神の三人は額一滴も汗を出さず、呼吸すらも上がっていない。
「俺がおかしいのか?汗を出している俺の方がおかしいのか!!?」
「落ち着けって、俺だって汗をかいている。体質の問題じゃないのか?」
李と丁の会話を黙って聞いていた悟空は、隣を歩いている小桃に声をかけた。
「小桃、疲れてないか」
「ん?全然、大丈夫!!!水もちゃんと飲んでるから」
「疲れたら言え」
悟空の気遣いのある言葉を貰った小桃は、顔を真っ赤にさせながら頷く。
二人が話している光景を見ていた鳴神は、ニヤニヤしながら白虎に尋ねる。
「アンタの所の姫様、俺の息子と楽しそうに話してるが、話に入らないのか?」
「何故?お嬢の邪魔をしなければならないのだ。あの二人の恋路を、煙たがっていないさ」
「その割には、気に入らなさそうに見てたろ?悟空の事」
鳴神に確信を突かれた白虎は、一瞬だけ鳴神の事を見ながら目を見開くが、すぐに小桃の背中に視線を向けた。
「お嬢は幼い頃から、あの男だけに恋をしていた。須菩提祖師から魔天経文を預かり、再会するまで健気に守り続けた。百花の死、俺も一度は死んだモノ。これから先、あの男と居る限り、お嬢は傷付く事が多くなる。それだけが、気掛かりなだけだ」
「あの子の事を大事にして来たんだな、白虎。もう、それは親目線だぜ?」
「親?俺はお嬢に飼い慣らされた一匹の獣だ。親などと烏滸がましい」
「始まりはそうだろうが、お前が小桃に向ける視線は父親の目だ。何も悪い事じゃない、長く居れば愛着が湧いて当たり前。これからも大事にしたら良いさ」
鳴神と白虎が話していると、地面が大きく揺れ始める。
ドドドドドドドッ!!!
ザッ!!!
地面の揺れは激しくなり、丁達はすぐに自身の武器である鎌を取り出し、悟空の周りに移動した。
「若、お下がり下さい。何か、地面の中にいます」
そう言いながら、丁は悟空の前に立つ。
「なんか嫌な予感がするんだよなぁ…。こういう時って、なんかしらの化け物が出てきたりするじゃん?お約束のパターンで…」
ドゴォォォーン!!!
「キイエエエエエエッ!!!」
李の言葉を遮るように、地面を突き破りながら巨大な蠍が悟空達の目の前に現れる。
「で、出たぁぁあああああ!!!」
「李、叫んでる暇があったら、戦闘体勢に入れ!!!が攻撃を仕掛けて来るぞ」
「キイエエエエッ!!!」
李と胡が話していると、蠍はうかさず己の尖った尻尾を乱暴に振り下ろす。
ブンッ!!!
白虎はすぐさま小桃を抱き上げ、各々が振り下ろされた尻尾を避けた。
ドゴォォォーン!!!
ザッ!!!
攻撃を避けてすぐに丁は鎌を構えて、巨大な蠍の元に向かい、右の脇腹部分に鎌の刃を振るい上げる。
ブンッ!!!
ブシャアアアアアア!!!
鎌の刃が脇腹に食い込み、紫色の血飛沫をあげ、蠍は悲痛の奇声を出す。
「キイエエエエエエ!!!」
ブンッ!!!
再び振り下ろされた尻尾を軽々と避け、丁腰を低くしたまま鎌を上に向かって振り上げる。
ブンッ!!!
ブシャアアアアアアッ!!!
ボトボトボトッ。
鎌の刃は鋭く胴体を縦に斬り、中の臓器が溢れ出し、悟空達に紫色の血の雨が降り出す。
ジュッとマントが焼ける音がし、悟空は手を前に出して上から降る血液に触れた。
ジュワッ。
悟空の皮膚に血が付着すると、火傷したような赤く腫れ出す。
「マントを深く被れ!!!この蠍の血に触れ得ると、皮膚が溶けるぞ!!!」
「え!?」
「この蠍の血に、そんな作用が!?」
悟空の叫び声を聞いた小桃と黒風は、急いでマントを深く被る。
「一気に蠍を仕留めます、若」
「丁、俺の周りから離れてろ」
「え?それは一体…、どう言う意味ですか?」
「前々から、試してみたい事があったんだ」
丁の問いに悟空が答えると、悟空の腕の皮膚を雷龍が動いているのが丁の目に映る。
バチバチバチッ!!!
その瞬間、悟空の体に強力な電流が纏い始めた。
***
孫悟空ー
鬼達との戦いで負け、天帝から新しい体を貰い、何故か側にいた雷龍が体内の中に眠っていた。
修羅道から帰って来た後に雷龍が目を覚ましたが、体の中から出る事は出来ないらしい。
あの時、天帝が何かした可能性はあるが、今はそんな事は大した問題じゃなくなった。
俺の体の中に雷龍がいるなら、試してみたい事が山程ある。
「おい、雷龍。俺の体の中に居ても、お前は力を使えんのか」
丁達が率先して、巨大な蠍と戦ってる姿を見ながら、体内に居る雷龍に尋ねる。
『力と言っても、悟空の体に電流を纏わせ、放たせる事は可能だ』
「それって、今すぐに出来んのか?」
『脳内で自分の体に、雷が纏うイメージを思い浮かべてみよ』
雷龍に言われて、脳内で雷を纏わせるイメージを想像すると、バチッと静電気の痛みを指先で感じた。
視線を向けると、指先に雷があ走っているのが目視で確認出来る。
バチバチバチッ!!!
肌が服に張り付く感覚がし、皮膚に少しだけ痛みが走る程度か。
「これ以上は出せないのか」
『強度を上げる事は可能だが…。悟空、これだけは言っておく。強度を上げれば上げる程、心臓に負荷が掛かりだす。悟空の今の体は不老不死の力を持っていない、普通よりも頑丈な体なだけだ。左目の事もそうだ』
「お前の忠告は一応、耳に入れといてやる」
『…、聞く耳を持ってないのが分かった。我はお前の事を死なせたくない、それだけは頭の片隅に置いておけ』
雷龍が俺の事を心配して言ってるのは、分かってる。
俺はこの先、雷龍の気持ちを無下にする時は必ず来る。
「一気に仕留めます、若」
「丁、俺の周りから離れてろ」
「え?それは一体、どう言う意味ですか?」
「前々から、試したいと思ってる事があったんだ」
丁はすぐに俺から離れ、目を閉じながら脳内で、雷を
体から放出するイメージを思い浮かべた。
バチバチバチッ!!!
目を開けると、イメージ通りに体から雷が放出しているのが見える。
「「「っ!!!?」」」
小桃と親父、丁達は俺の姿を見て、身を見開いて驚いていた。
「キイエエエエ!!!」
巨大な蠍が大きく口を開けて、四つ這いの状態で勢いよく向かってくる。
ドドドドドドドッ!!!
「若、お逃げ下さい!!!」
「心配すんな、すぐに仕留める」
バチバチバチッ!!!
丁の叫び声に反応しながら、雷を右の人差し指の一点に集めると、大きな球体の雷が形成された。
右手で銃の形を作り、巨大な蠍に向かって銃を撃つような仕草をする。
ビュンッ!!!
素早く放たれた雷の塊は巨大な蠍の体に直撃し、体全体に雷が走って行く。
バチバチバチッ!!!
「ギエエエエエエエ!!!」
雷に感電した巨大な蠍は丸焦げになり、前のめりになりながら砂漠の地面に倒れ込む。
ドサッ。
「悟空何倒したんだよね?蠍の事…。今の技はどうやったの?」
「俺の体の中にいる雷龍の雷を使った、それだけだ」
「え、悟空の体の中に?雷が使えるんだっ」
「流石です、悟空さんっ!!!」
俺と小桃が話していると、黒風がキラキラと瞳を輝かせて見つめる。
「俺達の若だぜ?凄いに決まってるだろぉ?」
「分かったから、さっさと先に行くぞ」
「はーい、若」
ズキンッ。
自慢げに話す李の頭を軽く叩き、背を向けて歩き出した時に右腕に鈍い痛みが走った。
マントの右腕に当たる部分に濡れたような感覚がし、親父がいきなりマントを捲り始める。
「何すんだ、親父」
「さっきの攻撃をした時に出来た傷か」
「傷?」
「自分の右腕を見てみろ」
親父に促されて右腕を見てみると、皮膚が破れ血が出ていた。
さっき、右腕に雷を集めたから皮膚が耐えきれずに、破れたって所か。
「今回が初めてか、雷を放ったのは」
「そうだけど」
小桃に持たされた予備の包帯を取り出し、傷口を塞ぎながら答える。
「俺の体には雷に対しての耐性がある。だが、お前の体には耐性っがないだろ?現に、右腕の皮膚が雷に耐えらず、破れてしまっている。この技を使うのはやめろ」
「…、分かった」
「本当に分かってるんだろうな?」
「分かってるってば、疑い過ぎだろ」
俺の言葉を聞いても、親父は納得していない様子だった。
本心を言えば、親父の言い付けを守るつもりはない。
さっき巨大な蠍を倒した時、雷龍の雷の威力はかなりのものだと分かった。
美猿王と戦う時になったら、かなり使える技だ。
隠れて調整する必要がありそうだ、今後の課題だな。
「おーい、二人共!!!何してるのー?置いて行っちゃうよ!!!」
「ほら、小桃が呼んでる。早く、合流しようぜ」
「あぁ」
親父が納得していないのは分かっていたが、俺は無視して小桃達と合流した。
高昌国
再び、砂漠の中を歩き出して高昌国に辿り着き、俺達が最初に目にしたものは天之御中主神の死体だった。
手足と首が切り離され、天之御中主神の口には針が詰め込まれ、腐敗化した体に蝿が集っている。
「ふむ、焚き火をした形跡がありますね。夏ですから、天乃御中主神の体の腐敗化も早い。血が渇き切ってますから、美猿王達が居たのは三日前ぐらいですかね」
白沢は淡々と天之御中主神の死体と、燃え切った木達を見て呟く。
「ねぇ、白沢って呼んで良いのかな?ここって一応は国なんだよね?」
「えぇ、この地図が正しければ間違いありませんよ」
「白虎と一緒に周囲を見てきたんだけど…、人間が一人もいないの」
「人がいない?」
小桃の言葉を聞いた白沢は、首を傾げながら周囲を見渡す。
「砂漠の国ですが、人が一人もいない筈はありませんよ」
「お嬢と俺が家の中まで見てきたが、生活をしていた形跡はあった。だが、人間だけがいない。おかしいだろ?」
「ふむ…、どう言う事でしょう。人だけが消える不思議な現象が起きていると…」
「お前、面白がってないか?」
白沢の反応を見た白虎は、怪訝な表情を見せる。
天之御中主神の殺し方は、天界で鬼達が神と天界人を殺したやり方と同じ。
今、生きている神に対しての見せしめだろう。
美猿王達の神に対しての怒りは、シヴァが作り出したものじゃゃない。
ピチャッ…。
何か液体を踏んだ感覚がし、視線を地面に向けると赤黒い血が流れてきていた。
『おいで、悟空』
「っ!!!」
俺の頭の中に、直接語り掛けてきた声に聞き覚えがあった。
異様に優しい話し方をする男は一人しかいない。
「え、悟空!?」
「若!?どちらに行かれるのですか!?」
タタタタタタタタッ!!!
小桃と丁の呼び掛けに無視して、血が流れ出している方向に走り出す。
進にむつれ、流れ出している血の量は多く、嫌な匂いが鼻を漂い始めていた。
最後の角を右に曲がり、視界に広がったのは人間達の
死体の山で、流れ出していた血の正体はが分かった。
「何…、これ。人間の死体が山になってる?」
「ヴッ、死臭が強過ぎる…。ザッと数えてみたが、数百人の人間の死体が山のように積まれてるな」
「ここにいる人って、まさか高昌国の人じゃ…」
「お嬢、残念ですが…。高昌国の人間で間違いないと思います」
白虎の言葉を聞いた小桃の顔色が、ますます青ざめて行く。
バサバサッ。
死体の山の周りに旗が立てられており、旗には天界軍と大きな字で書かれている。
「親父、この旗は本物だと思うか?」
「この旗は間違いなく天界軍のものだ。いやって程、見てきたし、掲げられたからな」
「ふふ、どう?中々、良い出来だと思わないかい?」
俺と親父が話していると、死体の山の上の方から男の声が聞こえてきた。
視線を死体の山の上に向けると、加護の儀式の時に会った時と少し変わっていた。
神の毛の隙間から赤い目玉なんてなかったし、ましてや顳顬から羽なんて生えてなかった筈。
見た目は阿修羅と似ているが、額に目玉はなかった。
「アンタがやったのか、天帝」
「天帝ね、それは仮の名前だよ。本当の名前は釈迦如来、人の姿に化けていたんだけど、隠す必要はなくなったからね。これが本体の姿さ」
「名前や姿の話をしてねーよ、死体の山の話をしてんだよ。ここの国の人間を殺したのは、アンタなのかってきいてんの」
俺の言葉を聞いた釈迦如来は、クスクスと笑い出す。
「女みてーな笑い方してんじゃねーよ、あ?さっさと答えろ。誤魔化したいのか」
「誤魔化す必要なんてないだろ?この人間達は罰を受けるべくして、受けただけなんだから」
「罰?」
「人間として産まれた罪を受けた?いや、受けさせてあげたんだ。彼等、僕が目の前に現れた時、なんて言ったと思う?気持ち悪い、化け物だって叫んでは石を投げてきた。ほら、ここ血が出てるだろ?」
そう言いながら、髪を掻き分けて額を見せてくきた。
誰が見ても、釈迦如来の傷は大したものじゃないって分かる。
「まさか、それだけの傷で皆殺しにしたのか?」
「それだけ?大事じゃないか。何を言ってるんだ?君は」
「マジで、コイツ頭イカれてる…」
釈迦如来の返答を聞いた李は、顔を青ざめながら後ろに後退りした。
「高貴なる神がする事じゃねーな?俺等、妖怪よりもタチがりぃ」
「そんなの今更だろ?もう、秩序も法律も関係ない。全ての経文を持って、天竺に行った者が、次の世界の秩序になる」
「美猿王の後を追い掛けずに、何してんだ?アンタよ」
「君に提案をしにきたんだ」
釈迦如来が俺に提案だと?
絶対にまともな提案じゃないだろうし、嫌な予感しかしない。
「ねぇ、本当に言うの?コイツに」
声のした方に視線を向けると、阿修羅と同じ見た目で
黒髪の十四歳くらいの女が、気怠気に歩いてきていた。
男物のジャケットを着ていて、厚底のブーツを履いている。
「言うだけならタダさ、阿弥陀如来」
「ふーん、殺し損ねた人間はいないみたいだよ。皆んなで見回ったから、間違いないよ」
ザッ。
阿弥陀如来がそう言うと、どこから湧いてきたのか黒い鎧を着た兵士達が、俺達の事を取り囲む始める。
カチャッ。
小桃が腰に下げていた刀に手を伸ばし、刃を見せながら周囲を見渡した。
「紫の鎧を着た男の人、嫌な感じがするなぁ。取り囲んでる兵士達の中で、一番強いかも」
「用があるのは俺だけなんだろ、他の奴は解放しろ」
「悟空!?何言い出すのっ!!?」
「お前は黙ってろ、小桃」
俺の言葉を聞いた小桃は、渋々口を閉じる。
「それは無理な話かな?君と行動している時点で、仲
間じゃないか。駄目だよ、仲間外れにしたら可哀想だ」
「ま、そうなるよな。俺達の事を取り囲んでる時点で、最初から逃すつもりはないんだろ」
「私達、一時休戦しないか?」
釈迦如来は俺の予想外の言葉を吐いてきた。
***
梵衍那国
美猿王ー
俺達一行は一足先に、梵衍那国に訪れていた。
目の前に広がる砂漠の地に大地が降り立つ土地、崖に囲われた大きな仏像が迎える。
「うわっ、馬鹿デカイ仏像が建ってるぞ!!!何だありゃ」
「この国が信仰している神って所だろ?梵衍那国は仏教国なんだから」
「その通りで御座います、選ばれしお方」
金平鹿と縊鬼が話していると、一人の民族衣装を着た老人が美猿王一個に声をかけてきた。
鬼達は一斉に俺のの前に立ち、温羅が老人に向かって言葉を吐く。
「選ばれし方って、どう言う意味?誰の事を言ってんの?て言うか、爺さんは目が見えてないだろ。俺達の事は見えない筈だ」
「えぇ、私は産まれてから一度も、目が見えた事はありません。ですが、生命に宿る光は見る事が出来ます。貴方達が守ってるお方、強く眩い光を宿っている。私は神のように強い光を放つ方を、八十年間お待ちしておりました」
爺さんの言葉を聞いた温羅は、後ろにいる俺に視線を向ける。
「強い光ねぇ、俺は輝かしい存在じゃないし、生き方も美しくない。そんな俺を待っていたのは、何故だ」
「我が国の神、太陽神から御告げを聞いたのです。鬼と共に現れる強い光、我が武具を託せと」
「武具?」
「御案内します、こちらへ」
そう言って、爺さんは俺達を先導するよに歩き出す。
国の連中は爺さんの姿を見て、深々と頭を下げて顔を上げようともしない。
顔を見るのが恐れ多いのか、神秘過ぎて顔が見れないのか、二つのうちどれかだろう。
崖の間に建てられた仏像の下を潜ると、季節は夏なのに秋の気温を感じさせられた。
「磁場が変わったな、仏像が街との境界線代わりと言う事か」
「一度、通っただけでお分かりですか。光様の御連れ様は、洞察力も高いようで。話をしたら合いそうな気がします」
黄泉大津神の方に振り返りながら、爺さんは小さく微笑む。
少し歩いた所に岩の大きな扉が現れ、爺さんは何十本
も繋がった鍵を取り出し、中でも歪な形をした鍵を扉の鍵穴に差し込んだ。
ガチャッ。
「黄泉大津神」
「美猿王、私は留守番をする」
無天経文が黄泉大津神に何か言ったらしく、留守番をすると申し出てきた。
視線を岩の扉から街の方に向け、少し間を置いてから了承する。
「天気も良いしな、好きに遊んできたら良い」
「ふふ、ありがとう。それじゃ、また後で」
そう言って、黄泉大津神は無天経文と共に街に戻って行く。
「お母様は掃除をしに行ったんでしょ?王」
「あぁ、少し凶暴なゴミの掃除を買って出てくれた。向こうも、様子見ばかりしている場合じゃなくなったんだろ」
「王のお気に入りのままで居たら、殺されずに済んだのに。んー、私達もお留守番してようかな」
月鈴は俺の腕から手を離し、腰に下げていた刀を素早く抜いた。
シュッ!!!
キィィィンッ!!!
どこからか伸びてきた血液の刃を、月鈴は刀で弾き飛ばす。
「この技、王と同じ血統術だ。気に入らないな、王の真似事をするなんて」
「あ、あの光様?一体、何が…」
状況が飲み込めていない爺さんの肩を軽く叩き、部屋の奥に誘導するように押した。
「この中には俺だけ行く。俺だけでも構わないだろ?爺さん」
「それは勿論…、構いませんが…。お仲間様は宜しい
のですか?」
「あぁ、俺の仲間はそう簡単に死にはしない」
「俺達の事は気にせず、武具を受けって来て下さい。王が戻って来る前に、片付けておきます」
俺と爺さんが話していると、夜叉が口を開いてくる。
「あぁ、綺麗に片付けておけ」
「では、御案内します」
「グアアアアアアアッ!!!」
ドドドドドドドッ!!!
爺さんと共に扉を潜った瞬間、背後から獣の鳴き声と足音らしき音が聞こえてきた。
「「「っ!!!?」」」
「グアアアアアアアアッ!!!」
現れたのは牛鬼が以前、連れていた凶暴化した犬神が
牙を剥き出しにして、俺達に向かって突進をして来たのだ。
「うわっ!?でっか犬!!?」
「チッ、邪魔だよっ、金平鹿!!!」
「グヘッ!?」
ドンッ!!!
驚いている金平鹿を押し除けた縊鬼は、地面を強く踏み付けて巨大な髑髏を呼び出す。
ドゴォォォーンッ!!!
「グアアアアアアアッ!!!」
呼び出された巨大な髑髏は犬神の体を抑えつけた時、頭上から血統術の刃が鬼達に降り注がれる。
シュュシュシュシュッ!!!
キィィィンッ!!!
鬼達が決闘術の刃を弾き飛ばしている中、俺の首筋に冷たい何かが当てられた。
61
松下一成