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同時刻 天界
悟空達が釈迦如来と対面している中、三蔵達は観音菩薩と弥勒如来は天界に訪れ、とある場所に向かっていた。
道中の地面に血痕の多さと、天界人や神達の死体が無い事に、三蔵達は不思議に思っていたのだった。
「これだけ血が残ってたら、殺されたのは間違いないけど。死体が一つもないのは不思議だねぇ、御主人様?」
「おい、風鈴。その呼び方はやめてくれないか?前から言ってると思うけど」
「実際そうなんだからさ、慣れてもらわないとね?御主人」
「お前等、この場に相応しくない会話をしてんな…」
風鈴と沙悟浄の会話を聞いていた猪八戒が、思わず二人の会話に割って入ってしまう。
「何?文句でもあるの、猪八戒」
「俺への態度が雑じゃない!?お宅は子供に、どんな教育をしてんの!?」
風鈴の返答を聞いた猪八戒は、沙悟浄に抗議の言葉を投げかける。
「育てた覚えはないが…、悪かった?」
「貴方達、ここには遊びに来た訳じゃないんですよ。しっかりして下さい」
「雨桐、気分を害したなら悪かった」
「嫌味な女」
沙悟浄が雨桐に謝ってる姿を見た泡姫が、雨桐を睨み付けながら泡姫が口を開く。
泡姫は、沙悟浄を擁護する言葉を次々と吐き出す。
「怒るなら、猪八戒とこの男でしょ?沙悟浄の事を怒るのは、御門違いも良い所。こう言う女、本当に嫌」
「貴方、何故こちら側に居るのですか?悟空達の方に行ったのでは?まさか、断られたとか?」
「は?」
「ちょいちょい!!!女同士の喧嘩は終わらないんだから、喧嘩はやめてよ。悟空と泡姫の会話は聞いてたんだろ?」
猪八戒は慌てて、泡姫と雨桐の間に割って入る中、泡姫は思い出していた。
***
悟空達が出発する前、泡姫も悟空達に同行すると願い出たのだが…。
「お前は来るな」
玄関からマントを羽織るながら、悟空は泡姫に視線を向けながら口を開く。
「え…、ど、どうしてですか。わ、私が役に立たないからですか…?」
「いや、そうじゃない。地図を見た限り、俺達は砂漠を通らなきゃいけない。人魚のお前には熱いし、体に負担がかかるだろ」
「え?」
泡姫は悟空の予想外の言葉を聞いて、思わず赤面してしまう。
悟空が自分の同行を断ったのは、まさか自分の体の事を考えての事だった。
「本当なら、お前は水の中に居た方が良い筈。それなのに、今は地上に出ているだろ?負担を掛けさせてまで、同行してほしい訳じゃねーし」
「悟空様にまで、気にかけて下さるなんて…。私は幸せ者です」
「泡姫、海に戻るか?住処の方に、天界軍が乗り込んできただろ?」
そう言って、沙悟浄は二人の会話に参加する。
釈迦如来と阿弥陀如の二人が天界軍を率いては、泡姫の住処にしている城の中に潜入し、沙悟浄達は逃げるように地上に戻ってきていた。
その事を思い出していた泡姫は、どうしようかと考えていると、沙悟浄が一つ提案をする。
「じゃあ、俺が泡姫を連れてって良いか?」
「は!?何言ってんの!?連れてくって、何?」
「何って…、天界に決まってるだろ?神器を取りに行くって、観音菩薩が話していただろ?」
「あ、そうだったわね」
沙悟浄の言葉を聞いた泡姫は、納得したような表情を見せ、悟空は泡姫を安心させる言葉を付け加えた。
「沙悟浄達は、お前の事を傷つけたりしないから安心しろ。女の哪吒もいんだから、少しは気が楽に持てるだろ?」
「悟空様…、私なんかにお気遣い頂いて…、申し訳ないです」
「気?んなの遣ってどうすんだ。気を遣う中でもないだろ、俺等って」
悟空の態度と自分に接する美猿王の姿が、泡姫はこの時、強く感じていた。
無愛そうに見えて、実は仲間思いな所が美猿王と悟空は共通し、泡姫は懐かしい気持ちになる。
もう一度、美猿王に言ってもらった言葉を聞けるとは、泡姫自身も思ってもみなかった。
「その言葉が聞けただけで、私は幸せ者でございます」
「いちいち、大袈裟な奴だな」
そう呟く悟空の横顔を、泡姫は静かに見つめていた。
「あのさ、悟空」
「あ?んだよ」
「さっきは本当にごめん、言って良い事を悪い事があるのに…」
三蔵が下を俯くと、悟空が少し乱暴に三蔵の髪を掴み、顔を上に上げさせる。
グイッ。
「な、何すんだよっ、悟空」
「俺はお前より、五百年も早く産まれて場数も踏んでる。多少の事を言われても、何とも思ってねーよ。ガキに怒ったって、仕方がないだろ」
「なっ、ガキって…。俺もう、二十一歳なんだけど」
「まだ、二十年しか生きてねーだろ。俺からしたら、お前は十分ガキだ。お前はお前のやる事をしろ」
悟空はそう言って、三蔵達よりも早く、美猿王の事を追いかけて行った。
***
「お前の仲間が困ってるみたいだけど、助けに行かなくていいのか?」
「…」
「三蔵?」
哪吒も呼びかけにも答えずに、三蔵は何か考えている様子で、自分達と同じように前を向いて歩いている筈なのに、どこか違う所を見てるようだった。
それは天界に到着すた直後からで、仲間達の会話の輪にすら入っていない。
「三蔵、聞いてる?」
「え?あ、哪吒。どうかした?」
「いや、どうかしてるのは三蔵の方だぞ。大丈夫?」
「んー、何か俺の中でさー、変な感覚?って言うのかな。この道なりさ、初めて歩いた感覚がしないんだよね」
三蔵の不思議めいた言葉を聞いた哪吒には、理解できない言葉だったが、当の本人の様子を見て納得する。
「天界には何回か来てるから、とかじゃなくて。どう説明したら良いか、自分自身でも分からないんだよ」
「単に、三蔵自身と何か関係がある場所じゃないのか?」
「俺と関係のある場所…。なんか哪吒に言われて、初めてしっくり来た感じがした」
「お前は単純で良いんだよ」
二人の会話を前方を歩きながら聞いていた弥勒如来が、観音菩薩の耳元に小声で囁く。
「観音菩薩、三蔵の発言だが…」
「記憶が消えていたとしても、魂に刻まれた記憶は消えないと聞いた事がある。今から行く場所は、金蝉が行き来していた場所だからね」
「…、見えてきたな」
そう言う弥勒如来達の前方に、今にも崩れ出しそうな一軒家が見えた。
華やかな建物が並ぶ天界の中で、この家は居心地が悪そうにポツンッと建っている。
周りには山しかなく、他に建っている家も見つからない。
「おい、観音菩薩。このボロ屋に神器なんかあんのかよ」
一軒家を怪訝そうに見つめながら、羅刹天が呟く。
「あぁ、まさ…」
「ここにあるんだよ、羅刹天。この家に、ずっと神器は隠されあるんだ」
羅刹天の問い掛けに答えようとした観音菩薩の言葉に被せるように、三蔵が言葉を吐いた。
沙悟浄と猪八戒の二人は、三蔵の様子を伺うように見つめ、ゆっくりと声をかける。
「おい、マジで大丈夫か?」
「天界に来てから様子がおかしいぞ、どうしたんだ?」
「…、中に入ろう二人共」
二人の言葉に返答をせずに、三蔵は一人で先に一軒家に向かって歩き出した。
***
源蔵三蔵 二十一歳
神器が隠されている一軒家を目にしてから、頭の中がぼーっとしていた。
意識があるのにぼんやりしていて、何を言ったのかも覚えていない。
意識より先に体が動き、玄関口を前にしては、踵を返すように裏手に回る。
脳内に浮かんでいるのは、紫色の小さな花が咲いている植木鉢、色とりどりの花が花壇の中で気持ちよさそうに咲いていて。
「おいおい、なんで裏手に回んだよ。玄関から入れば良いだろ」
「鍵がないと入れないだろ」
「鍵って、お前…。鍵の場所が分かるのか?」
「何度も通っていたからな」
俺の言葉を聞いた羅刹天が、「はぁ?」と言葉を発しながら眉間に深い皺を寄せて行く。
***
あれ?俺は何を言っているんだ?
ここには初めて来たのに、来た事があるって言いだして…。
そう思いながら裏手に着くと、脳内に浮かんでいた光景が一緒の庭に到着し、花の一つ一つすらも同じもの。
ふと、花壇に目をやると金髪の男が腰を低くして、花達を微笑ましそうに見ているのが見えた。
体は薄く、幻影なのは一目で分かる。
『来たか』
そう言いながら、男は俺にだけ視線を向けた。
男の顔はどこか俺と似ていて、怪しく見えているのに疑心感が薄れて行く。
『ふ、安心しろ。俺の事は、お前にしか見えていないよ。今、見えているのは、ここに残した俺の気だ』
「気って、残せるものんか?初めて聞いたけど…」
本当に俺以外は見えていないのか?
周りを見てみると、違和感が湧いてきた。
なんで皆、動かないんだ?
俺が独り言を言っていたら、真っ先にツッコミを入れられるのに。
「アンタは何者なんだ?」
『俺が何者かどうかは、そこまで重要じゃないよ。強いて言えば、お前と近い存在とだけ答えておこう』
「今の言葉で、アンタが俺の質問に答える気がない事が分かった」
『物分かりが良くて助かるよ。いずれは気付く事だし、この家の鍵はここにあるよ』
金髪の男はそう言いながら、紫色の花が咲いている植木鉢を持ち上げる。
植木鉢が置かれていた場所に、一本の錆びた鍵が姿を現す。
『さ、鍵を取って開けてくると良いよ』
「あのさ、俺達ってどこかで会った事あるか?初めて会った気がしないんだけど」
『その台詞は、気になる女を口説く時に使った方が良い。男の俺に使う言葉じゃないな』
「また、はぐらかされた」
俺の言葉を聞いた金髪の男は、何も言わずに苦笑し、話を続ける。
『ずっと隠されていた神器達は、使われる時まで待っていたんだ。役目を果たす、この日まで』
「役目を果たす…、俺達と関係があるって事か?」
***
「三蔵」
観音菩薩の呼び声を聞き、俺は意識を取り戻す。
右手に冷たい感触がし、視線を向けて見ると錆が付いた鍵が握られている。
「大丈夫?ここに来てから様子がおかしい。ここに居るメンバー、全員がそう思っているよ」
「いや…、言っても信じないと思うけどさ。さっき、そこに俺と同じ顔をした男がいて…」
「男…」
「うん、髪が金髪の男」
男の特徴を説明すると、観音菩薩と如来、沙悟浄と猪八戒の四人は驚いた顔をした。
「どうしたんだ?驚いた顔をして…」
「い、いやぁ…、何んでもない。そんな事があったんだと驚いただけだ」
「ほ、ほんと、不思議な事が起きてたんだなー」
沙悟浄と猪八戒の二人は、しどろもどろになりながら答える。
その反応を見たら、二人の方が様子がおかしい。
「鍵も手に入ったんなら、さっさと行こうぜ?ずっとここに居る気か?」
「羅刹天様の言う通りです、時間は無限にある訳じゃありませんよ」
文句を垂れる羅刹天と一緒になって、雨桐も俺達を急かす。
「あ、悪い!すぐに鍵を開けるから」
急ぎ足で玄関に向かい、古びた扉の鍵穴に見つけた鍵を突き刺した。
ガチャッと鍵を右に捻ると、いとも簡単に扉の鍵の解除は成功し、俺達は静かに家の中に侵入する。
家の中に入ると、埃やカビの匂いが鼻を通り、天井には蜘蛛が糸を張り、歩けば床がキシキシと鳴く。
誰が見ても家の中に生活感がなく、掃除も行き届いていないのが分かる。
「客間に台所、寝室と言った部屋しかないようね。ザッと見た感じ、武器が置かれていなかったわね」
「普通に考えれば、神器は隠されているでしょう?馬鹿なんですか?貴方」
「は?さっきからなんなの?お前。私に喧嘩腰に話してくるけど」
「先に喧嘩を売って来たのは、そちらでしょう?」
泡姫と雨桐の間に怒りの炎が燃え上がり、二人は互いを睨み付けていた。
女同士の喧嘩に割り込まず、俺は哪吒ち共に寝室を調べる事に、部屋中を見渡して行く。
畳が床に敷かれた和風な寝室、広さは五畳ぐらいだろうか。
一人暮らしをするには十分な感じだが、やたらと書物が棚に収納されている。
机には筆と墨が置かれ、日記でも付けていた形跡があるが、紙が劣化していて字が読めない。
さっきの金髪の男がその机で、何かを書き留めている姿が一瞬だけ見えた。
この家は、あの金髪の男の家だったのか?
そう思いながら目をこすっていると、観音菩薩が再び声をかけてくる。
「この家は、三蔵が見たって言う男の隠れ屋なんだ」
俺が心の中で思っていた疑問を、観音菩薩がいとも簡単に解決してしまった。
「その男は、観音菩薩と知り合いだったのか?」
観音菩薩は、口ごもった後に苦笑しなが答える。
隣に立っていた如来は、観音菩薩の肩に触れながら、心配そうに見つめていた。
如来の表情を見たら、聞かない方が良かったのかと思ってしまう。
「大丈夫だよ、如来。うん、ここの家は僕の友人の家でね。彼に神器を隠しておいてもらったんだ。天帝邸の武器庫には、哪吒達が使っている太陽神聖が保管されているるんだけど。友人の希望もあって、この家に神器は隠そうとなったんだ」
「その友人って奴は、何かを悟っての行動だったの
か?まるで、僕達が神器を取りに来る事が分かっていたように」
哪吒の言葉を聞いた観音菩薩は、腰を下ろしながら口を開く。
「頭がよく回る男だったよ?ふふ、堅物と言う言葉が似あう男でね?冗談も通じない男で、よく口論になったものだよ。こう言うからくり仕掛けも、僕に自慢げに話していたよ」
そう言って、観音菩薩は畳をドンドンッと四回叩いた。
すると、観音菩薩が叩いた畳がグルッと回転し、床下の中に何か木の箱のような物が現れる。
しかもかなり頑丈で、札も貼られているが劣化し、白色から茶色に変色しボロボロの状態。
「おー、御丁寧に箱に入れて保管していたか。ふ、劣化しないように術もかけてある」
「術って、この札の事か。こんなに劣化してるのに、まだ術がかけられている状態なのか」
「見た目の話なら、これはわざとだ」
「わざと?」
俺と観音菩薩の会話を聞いていた哪吒は、不思議そうな顔をして観音菩薩に尋ねる。
問い掛けに答える前に、観音菩薩は宝物を自慢する子供の表情をした。
「わざわざ、茶色の液を札に塗りたくってさ?万が一、誰かが神器を取りに来たとしても、まぐれで床下が現れたとしても、なんの変哲もない床下が見えるよう幻覚の術も施してある」
「俺や哪吒は見えてけど…、幻覚の術が解けたって事か?」
「僕も詳しくは教えてもらってないんだけど。僕が何回か確認しに来た時は、この木箱は出てこなかったよ。ね?如来」
観音菩薩はそう言って、後ろにいる如来に声をかける。
「あぁ、そうだな。観音菩薩が信頼を置ける男だった、俺が言えるのはそれだけだ」
「俺が言える?」
「お、例の神器は見つかったのか?」
如来に尋ねようとした時、猪八戒と沙悟浄の二人が襖を開けて入って来た。
「あぁ、アイツさ?こんな所に隠してたんだよ」
「マジ?いつもの札を貼って?」
「そうそう。ほら三蔵、開けて見ろよ」
猪八戒と観音菩薩の二人は、例の金髪の男について話をしていたが、ふいに俺に話を振られる。
言われた通りに箱を開けようとしたが、頑丈そうな南京錠が付いている事に気が付く。
「おい、観音菩薩。この箱、鍵がついてんだけど?その例の金髪の男から、箱の鍵の場所とか聞いてないの?」
「鍵?お前が持ってるじゃないか」
「は?これは玄関の鍵じゃないのか?」
「僕の友人は少し、いやかなり変な男なんだ。神器を隠しているのに、鍵が一本なのは、この鍵に何かしているに違いないと言う事だ」
観音菩薩の言葉を聞き、疑問に思いながらも南京錠に玄関の鍵を差し込もうとした時だった。
ジャキンッ。
南京錠の鍵穴の形に、鍵の差し込み部分が変形し、玄関口の鍵から南京錠の鍵へと変化を遂げる。
「鍵が変形した!?しかも、南京錠用の鍵に!!!」
「代わり者が考えそうな事だ。普通なら三蔵が言ったように、南京錠用の鍵があると思う所だ。だが、僕の友人は普通の考えを持ち合わせていない。その鍵も、普通の見た目をしているのに、南京錠に近付けると、更に鍵が変化に変形する仕組みだったのか」
「アンタの友達、相当な変わり者だな…」
そう言いながら、変形した鍵を南京錠の鍵穴に差し込む。
ガチャッ。
南京錠の鍵が解除され、中身を見てみると三本の武器が中に入っていた。
奇麗な銀色に装飾された弓と槍、ガラスの蓮の花が装飾された手鏡。
「弓と槍は神器って感じがするけど、手鏡が神器?」
猪八戒は不思議そうな顔をして、木箱の中から手鏡を取り出す。
俺は目に留まった弓を取り出し、観察していると、何か石のような物を嵌め込む部分がある事に気が付く。
「観音菩薩、ここの部分に何か嵌め込むのか?」
「あ、この槍の持ち手部分の所にもあるな」
沙悟浄が手に取った神器にも、嵌め込み部分があり、手鏡には嵌めこみ部分はない。
哪吒と風鈴の二人が、俺と沙悟浄の背後から神器を覗き込む。
「「…」」
観音菩薩が答える前に、哪吒が口を開いた。
「三蔵、いずれ必要になる物だろう。今は戦いの場に出ていないし」
「いずれ?なんか意味深な言葉だなぁ、哪吒」
「御主人の持ってる槍も、同じだね。近いうちに見つかるよ、その謎の石は」
「見つかる?風鈴、何か知っているのか?」
哪吒と風鈴は俺と沙悟浄に、意味深な言葉を吐き、それ以上は何も言ってこなかった。
二人は俺達の表情を見て、苦笑するだけだった。
***
三蔵達が天界に神器を取りに行く為、出発準備をしていた哪吒と風鈴に観音菩薩と弥勒如来が声をかける。
「二人共、少し良いかな?」
「観音菩薩に如来、どうしたの。私達に個人的な用事?」
「うん、そうだね」
「…、なんか嫌な予感がするんだけど」
哪吒の問い掛けに答えた観音菩薩の様子を見て、風鈴は後退りしながら言葉を吐く。
「僕は神の肩書を貰っている立場で、今から君達に言う事は本来なら、あってはならない事なんだ」
「言ってはいけない事?何」
「僕達が取りに行こうとしている神器には、石を嵌め込まなければ力が発揮しない物になってる」
「石?ただの石じゃなさそうね」
観音菩薩の話を聞いて、哪吒は顎を指で掴みながら呟いた。
大体の予想が哪吒と風鈴には出来ていて、言葉に出さずに観音菩薩の次の言葉を待つ。
「毘沙門天が作った妖石の原料は、神石と呼ばれる石で作られているんだ。神力が宿した石で、君達が太陽神聖を仕えたのも、神石が体に埋め込まれていたからなんだ」
「作り物の私達の体には、元は妖怪の血が流れていたけど、今は三蔵の血と神力が流れているのね。それで、神器を使う為には私達の命の要である妖石が必要と言う事でしょう?」
哪吒はそう言って、鎖骨の中心部分に埋め込まれた妖石に触れる。
「経文合戦が本格的に動き出す、俺達は三蔵達を天竺に辿り着かせたい。釈迦如来達に抵抗出来るには、この世では神器だけだ」
「一つだけ聞きたいんだけど、三蔵達じゃないちいけない理由は?アンタ達、二人が経文を全部集めて、天竺に行っても問題ない筈じゃないの」
「俺も、この世界に絶望した一人だ。神と言う肩書を捨て、繰り返される日常から逃げ出したいと思っていた。だが、今も逃げずに留まっている理由は、俺を救った神を側で守りたかったから」
「如来…」
風鈴の問い掛けに答える弥勒如来の姿を見て、観音菩薩は思わず瞳を潤ませてしまう。
観音菩薩自身が幼少期の頃から、弥勒如来の事を側で見てきてきたから、彼が神達からどんな扱いを受けてきていたか知っている。
当然、この世界を憎んでいるだろうし、自分の事を見せないだけで恨んでいるとも思っていた。
だが、弥勒如来の考えは違い、観音菩薩の事を恨んでなかったのだ。
「三蔵達じゃないと、同じ事の繰り返しになる。その意味、分かるか」
「如来、私と風鈴は一度は死にかけていて、潔く死ぬつもりだった。だけど、三蔵と沙悟浄は助けてくれた。二人の為になるなら。私達は喜んで、命を捧げるわ」
そう言った哪吒の視線は、とても力強かった。
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