「それで….って、おーい!」
「え?あ、ごめん!なんだっけ?」
「も〜!だから、ここの公式教えてください!」
「あ、うん!えっとね。」
ここ最近で少しぼーっとする日が増えた。
いつもみたいに広瀬くんと上司の会話を聞くこともなんだか減った気がする。
今日は私のクラスで小春に勉強を教えている。
目の前で教科書とにらめっこをする小春に私はまた微笑んだ。
けど、ちゃんと笑えてただろうか。
「おー解けた!」
「やったね。」
小春は私に感謝をしながらダブルピースでドヤ顔をした。
私は、小春にこのまま笑顔でいて欲しい。
「失礼します。3年の夜久衛輔です。」
「あ、はい。どうしたんですか?」
教室の前の扉で広瀬くんと誰かが話してるのが聞こえた。
「美化委員の○○、呼んでほしいんだ。」
「○○さん。分かりました。」
扉の方を見ていた私と、不意にこっちを向いた広瀬くんと目が合った。
小春もなにかを察したらしく、扉の方を見てキョロキョロしている。
広瀬くんが私の机に向かって歩いてくる。
「○○さん、えっと、3年生の夜久衛輔さんという方があなたを呼んでいますよ。」
「夜久先輩が?」
小春に少し待っててと伝え、私は夜久先輩の所に向かった。
「ごめんな、急に。」
私は、生徒会室に続く廊下を夜久先輩と歩いていた。
「いえ、平気ですよ。少しびっくりしましたけど。」
夜久先輩は、美化委員の副委員長を務めている。
どうやら、委員長に2週間前購入した掃除用具の資金について、書類を生徒会に提出しておいてくれと頼まれたそうなのだが。
「俺最近委員会でてないからその辺よくわかんなくてよ。しかも美化委員真面目に出てるやつあんまいねーじゃん?まぁ、俺もそのひとりではあるんだけど。」
そういう夜久先輩は申し訳なさそうに頭をかいた。
「書類のことは前回出てたやつに聞いてくれとか言われて半分押し付けられたからどうしたらいいかわかんなかったんだ。」
夜久先輩は申し訳なさそうな顔していたけれど、夜久先輩はとても真面目に委員会を務めていると思う。
本当なら委員長の仕事だから断ってもいいところなのに。
しかも夜久先輩は部活動もすごく真剣に行っている人だ。
ただ早く帰ってサボってる人なんかよりずっと凄い。
夜久先輩は確か、バレー部、だっけ。
私の頭でスっと、あの情景が浮かんだ。
「助かったよ、こんな面倒事に付き合ってくれて。けどほんとにごめんな。」
「ですから、私は全然大丈夫ですよ!なんなら夜久先輩、この後部活ですよね。私が生徒会室に出しとくんで部活、参加して下さい。」
「え!?いや、さすがに悪いよ。部活のやつにも遅れるとはちゃんと言ってあるから!」
先輩は頭を横に振ってもっと申し訳ない顔をした。
「先輩は部活に集中してください。先程も言ったように私は大丈夫ですから!」
先輩の手から書類を受け取り、部活頑張ってくださいと伝えるように一礼をし先輩に背を向けた。
生徒会室に向かおうとした時、先輩は私を追い越し、私の前に立って一礼した。
「ありがとう!絶対お礼させて!」
「えっ?」
そういった先輩は、風のように私の横を走って行った。
私はその背中を見つめて微笑んだ。
その背中から夜久先輩は、ほんとに丁寧な人で、謙虚な人だと思った。
そしてNEKOMAと書かれた真っ赤なジャージ。
彼と同じものを着ていた先輩が、あの日の彼と重なった。
「小春ごめん、遅くなって___。」
生徒会室に書類を届けたあと、おしゃべり大好きな生徒会長にまんまと捕まってしまい、30分以上話し込んでしまった。
教室の窓からは夕日の光が射し込んでいた。
なんだか____いや、忘れなきゃ。
教室には小春以外の生徒はいなかった。
小春は、私の机にうずくまっていた。
「小春?」
小春の側まで行くと、小さないびきをかいていた。
気持ちよさそうに眠っているようだった。
「待たせすぎちゃったよね。」
小春の綺麗な髪の毛をそっと撫でる。
ツヤツヤで、サラサラな綺麗な黒髪。
私は窓を開けて、外の景色を見た。
オレンジと赤みがかった空はいつ見ても綺麗だった。
ここから体育館の横扉が見える。
今日はバレー部が体育館を使っている日だ。
私は、また静かに、息を飲んだ。
願っちゃダメなのに、けど、もしあそこから顔出してくれたら。
大好きな親友の前で、私は今最低なことを考えている。
数日経った今でも、君のことを忘れられてないんだ。
そのまま体育館を見続けていたがだんだんぼーっとして来るのを感じた。
彼が姿を現してくれることは、ない。
私はもう座ろうと背を向けようとした。
その瞬間、体育館の扉から誰かが見えた。
少し距離は遠いけれど、その人が誰なのか、私ははっきりとわかった。
猫背で、すらっとした足に、キレイな金髪。
その後ろにも扉の影から顔を覗かしている人が見える。
体育館横の扉から姿を現した彼は、階段に座ってタオルで汗を拭いた。
その時乱れた髪を頭を少し振って整えた。
扉の影の人と話しているのか、そちらに顔を向けて何か言いあってるようにも見えた。
彼の声を聞いてみたい。
彼の顔を、もっと近くてみたい。
あなたを見る事に、私の気持ちはどんどん広がった。
「…孤爪…くん。」
次の瞬間、私の心は跳ね上がる。
完全に1人の世界に入っていた私は、不意に発した小春の言葉にビクッとしてしまう。
小春の方を見るとまだ寝ていて、さっきのは寝言だったようだ。
また私は現実に叩き落とされた。
私は、君を好きになっちゃいけないんだった。
とても綺麗な君を知ってるのは、私だけじゃない。
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